106 魔眼のバロル15:未練
バロルが放出した邪気を吸収することで、俺は無尽蔵に魔力を補給できる。
そして、それを変換してディズ以外の五人に絶え間なく供給可能だ。
そのおかげで、『紅の牙』は獣化したまま戦えるし、サンディも極大魔法を連発できる。
それでも――こちらが優勢とは言えなかった。
額の赤眼を開いたバロルは防御力が大幅に上昇していた。
サンディの『雷霆』も四人の獣撃も先ほどまでとは違って、まともなダメージは通っていない。
せいぜいが牽制になってるくらいだ。
だが、牽制があるだけでもディズはだいぶ戦いやすいようで、何度も何度も聖槍アンティオキアをバロルの顔に突き立てる。
すべてが瞳を直撃しているわけではないが、ディズの攻撃は確かにダメージを蓄積していった。
ディズに任せっきりの状況だ。
なんとかする手はないか……。
「チッ、硬えな」
ヴォルクの爪は肌を貫けず。
「オリハルコンの塊を叩いてるようじゃな」
オルクのモーニングスターでもビクともしない。
ルナールとラカルティの攻撃も同じようなものだった。
『――【すべてを穿つ】』
試しに撃った魔弾もバロルの肌に弾かれ、小さな傷をこしらえただけだ。
今はなんとか戦えている。
だが、ディズの聖気は時間とともに減少している。
今の姿をいつまでも保てるか……。
ディズは華麗に舞い、バロルの赤眼を狙うが――。
そこにバロルの腕が大きく振り払われる。
ディズは急速に後退。
回避には成功したが、だいぶ距離が離れてしまった。
バロルが地上の俺たちを見て――。
「危ねえッ――」
地上に何本もの光線が降り注ぐ。
俺はサンディの前に立ち、障壁で守る。
パリンと弾ける障壁。
直後、光線が俺のフルプレートアーマーに直撃する。
フルプレートが緩衝してくれたので、一命を取り留めた。
大怪我だが、これくらいなら、回復魔法で治せる癒せる傷だ。
「師匠っ、大丈夫ですか?」
「ああ」
血を流す俺にサンディが心配そうに声をかける。
俺が防ぎきったので、サンディは無傷だった。
『――【大いなる生命の息吹】』
回復魔法で俺の傷はみるみるうちに癒えていく。
だが――。
バラバラに大破した鎧の残骸を眺める。
門番となって以来、長年苦楽をともにしてきた相方だ。
なんともいえない喪失感に胸が痛む。
そこで、俺は気がついた。
どうして、冒険者になってもフルプレートを着ていたのか。
装備としてはまったく必要がない。
魔法で守った方が強いし、重たくて動きにくくて暑苦しい。
むしろ、欠点しかない。
それでもフルプレートを脱がなかったのは――未練だ。
心のどこかで、俺はまだ、騎士を諦めきれなかったんだ。
そのことを今、思い知らされた。
俺は思いを断ち切るように首を大きく振る。
そうだ。
俺はもう、騎士じゃないんだ。
俺は冒険者。
「師匠。これを」
サンディがマジック・バッグから取り出したローブを俺に手渡す。
金糸で刺繍された漆黒のローブ。
サンディとお揃い、チュウニ感満載なローブだ。
「あり……が……と」
着てみると、ちょうどピッタリのサイズだった。
とりあえずは受け取ったものの、なんでサンディはこれを?
「お似合いですっ!」
俺の体格に合うローブは特注品だろう。
俺の疑問が顔に出ていたのか、サンディが理由を告げる。
「師匠には鎧よりもこっちの方がお似合いだと思って、仕立てておいたんですっ!」
「…………」
「余計なお世話でしたか?」
「うれ……しい」
「よかったですっ!」
新しいローブを身につける。
俺の意識は切り替わった。
俺は魔法使いだ。
規格外の魔法使いだ。
バロルなんか、俺の魔法でやっつけてやる!
次回――『魔眼のバロル16:光矢』




