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102 魔眼のバロル11:開眼

 絶え間なく降り注ぐいかずちがバロルの身体に突き刺さり、その巨体を焦がしていく。

 天は暑い黒雲に覆われ、日の光を遮っている。

 それでも、まばゆい雷光がバロルを照らし、目が眩むほどの明るさだった。


 長い長い雷の雨が、ついに終わる――。


 暗い雲が晴れると、バロルは無数の傷から血を流していた。

 その全身は焼け焦げて、不快な臭いを放っている。


「やったか?」


 ヴォルクが先ほどと同じ問いを繰り返す。


 そのセリフはいわゆるフラグってヤツだ。

 物語では絶対に禁句だ。

 そのセリフのあと、敵は絶対にやられていない。


 黒焦げになったバロルは、耐え切れず両膝をつく。

 そして、上体がふらふらと揺れ、前のめりに倒れてくる。


「あぶねえッ!」


 ヴォルクの叫び声が響く。

 俺の隣りにいるサンディは、極大魔法を放ったせいで、今にも倒れそうだ。

 俺はサンディを抱えて、慌てて走る。


 地が震え、空気の波が鼓膜を強く打つ。


「だいじょ、ぶ?」

「師匠……ありがとうございます」


 なんとか俺もサンディも無事だった。


 バロルは両手を地につけ、四つん這いになっている。

 そして、虹色の両目は俺とサンディを見つめている。

 その奥に黒いもやを抱えた瞳からは一切の感情が伝わってこない。

 そのおぞましさに背筋が冷たくなる。


 俺たちが見ている中、バロルはゆっくりと左手を天高く掲げる。

 その指にはまっている金の指輪が光り、バロルの全身を光が包む。


 致命傷と言えるほどだったバロルの傷が完治する。

 そして、それと同時に、指輪が砕け散った。


「やったな!」

「もう指輪で回復はできないよ」


 ヴォルクが立てたフラグは、ぽっきりとへし折れた。

 これが現実と物語の違いだ。


 終わりの見えない繰り返しはこれで終わった。

 俺たちの中に希望が生まれる。


 だが、まだまだ厳しい状況であることには変わりない。

 『紅の牙』は俺の魔法で怪我が治ったとはいえ、獣化の後遺症で本来の力は発揮できない。

 サンディも極大魔法を撃ったことで、疲労が激しい。

 とても魔法を撃てる状況ではない。


 そして、俺も――頭がクラクラする。


 今のでかなりの魔力を消費した。

 残りの魔力はあまりないと、実感できる。


 バロルが斃れるのが先か、俺の魔力が尽きるのが先か――。


 唯一、元気なのはディズだけだ。


「みんなありがとっ! こっからは私の仕事よ。ゆっくり休んでて」

「おいおい、まだ撹乱くらいはできるぞ?」

「盾になるくらいはできるわい」

「私もまだ撃てるわ」

「吾輩もだ」


 やる気をみせる『紅の牙』だったが、ディズは寂しそうな目で首を横に振る。

 俺たちがその意図を知るのは、少し後のことだった――。


「ロイル、サポートお願いっ!」

「う、ん」

「二人で倒し切るよっ!」


 傷の癒えたバロルがゆっくりと立ち上がる。

 虹色の両目で俺たちを見下ろす。

 その顔からどんな感情も読み取れなかった。


 俺たちが身構える中、ついにバロルの額にある第三の眼が開いた――。


 赤く赤く。

 ヴォルクの毛よりも。

 流れ出る血よりも。

 燃え盛る炎よりも。

 赤い瞳が現れた。


 それと同時に――。


「「「「うっ……」」」」


 『紅の牙』の四人が意識を失い、糸の切れた操り人形のように、その場に崩折くずおれる。

 そして、サンディも抵抗を見せたが、少し遅れて意識を手放す。

 立っているのは俺とディズだけだった。


 次回――『魔眼のバロル12:覚醒』


 明後日の更新です。


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