37話
少し遅れました(-_-;)
「リコリッタ、こっちは片付いたぞ!」
「こっちも……こいつで、最後!!」
二刀の短剣が犬頭の首を切り裂き、新たな屍が積み上がる。
どこからか湧いてくる魔物の群れも、波が去り、漸く乱れた呼吸を整える時間が出来た。
血糊で染まる愛刀を振り、血を切り払うと腰に着けたホルダーへとしまう。ここまでかなり酷使したから大分切れ味が落ちてきているが、手入れをしようにも現状の打破が必須だ。
「クラウンのヤツ……無差別にもほどがあるだろうが!」
魔物の死骸の合間に見える人の遺体。
団長の起こしたスタンピードに巻き込まれた観客や、共に過ごしてきた仲間たち。
苛立ち、やるせない怒りの矛先を拳に乗せて母様が壁を叩く。途中から蹲り、身動きをしなくなった水虎とアムルを守りながらの戦いはキツかった。
「リコ、ごめん。リクの様子がおかしいのよ」
「だいじょーぶとは、言いづれーですけどね……」
「あの子達は無事なのかねぇ」
あの二人は平気だと思う。お互いがお互いのことばかり考えているようなやつらだし。
「まぁ、あいつらのことはあいつらに任せておけばいいですよ」
「私らはクラウンのバカを止めるぞ」
「リクは影に戻ってて」
調子が悪そうな水虎がアムルの影の中へ沈むのを待って、母様の後を追い駆けた。道すがらまだ戦闘があるかも、なんて腰に下げた愛剣の柄に手を添えたまま、ホールへと向かう。
あんなに溢れ返っていた魔物の群れが一匹もいない。
ものすげー疲れてるからありがたいっちゃありがたいんだけど。
「……な、んだ……アレ……?!」
母様の驚愕した声が聴こえて、帰って来てから母様のいろんな面を見ることが増えたなー、なんて立ち止まった母様を追い抜くように前へ躍り出た。
『マ゛ー……アァー、マ゛ア゛アァァー! イ゛ダイ゛イ゛イ゛ィィィ!!』
様々な魔物の集合体。これが一番しっくりくる言葉だ。
小さな子どもが、年度細工を無造作に張り付けたような歪な生物が己の身体を掻きむしっている。
右に三本、左に五本の異形。今も姿を変形させている。
獅子に似た爪は皮膚を引き裂き、盛り上がった肉の塊により出来た傷が埋まれば、人のに似た手が自身の顔に爪を立てれば傷口から新たな顔が隆起し、叫び声を挙げた。
「キモい」
「うん、頭がマンティコアなだけに余計に」
「リコリッタもアムルも驚かないのか!? あんな化物をが……!」
「いやぁ、ビックリしてるよ?」
「うん、ビックリはしてる」
「「でもねぇ……」」
母様の怪訝そうな視線が私とアムルを射抜く。
ガラガラとセットや器材の瓦礫から這い出てきたのは、ここまで共に旅をしてきたびっくり生物の一人、化猫。
「ん、お前らか」
所々傷を負っているようだけど、まだまだ元気そうだ。
「彼女は誰だい?」
「ここまで一緒についてきてくれた子の従魔」
「無粋なヤツめ。より可愛らしく愛猫と言え」
「……うん、個性的な娘だね」
母様は疲れたように、こめかみを押さえながら頭を振るう。
「無事っぽいですね、大丈夫ですか?」
「なかなかに厄介だな。手数が違いすぎる」
「あ、アンタでも苦戦するような相手なの?」
「ボクはていがいなければ大したことはないよ」
言われて気付いた。いつも側にいる片割れがいない。
「ていはどうしやがったですか」
「はぐれた」
「は?」
「探しに行こうにも魔物が多くてね。皆殺しにしたらあんなのになって参ってたとこ」
「イェーヒャヒャヒャヒャ!!」
「あとあのバカ笑いを止められないのか? イライラする」
「私たちもアレを止めに来たんだ」
「こんなことになってるとは思わなかったですけど」
ぶちゅぶちゅと潰れては再生を繰り返す異形は、少しずつ肥大化しているらしい。高火力で一気に消滅させない限り、あの驚異的なまでの再生が上回り、討伐に至らないそうだ。
「私たち一族は魔力が低い質でね」
「リコも魔法は苦手ですねー。剣士タイプですよ」
「り、リクならどう、かな?」
しゃがんで影に手を添えるアムルが不安そうに見上げていた。コマメと水虎ならあの化物にも対抗出来るかもしれないけど──
「動けそう?」
「反応がないの……どうしたの? リク……」
ダメそうだ。原因も解らないじゃ対処も出来ない。
水虎に頼れない以上、リコと母様で最大戦力であるコマメのバックアップをしなくちゃならないわけだが。
「ムリー」
「来るぞ!」
「さぁ、奴らに見せつけてやりなさい! 私の気色悪い子よ!」
歪な肉体は身体の組織を引き千切り、血飛沫を飛ばしながらリコたちを襲う。過剰再生による膨張で巨大化した暴力は嵐となり、サーカス内を蹂躙していく。
『にゃあぁっ!』
「このおっ!」
どろん、と大きな猫に化けたコマメは迫る左右八本中、五本の腕を弾き返し、母様も二本切り飛ばす。リコも愛剣で対応するが軌道を反らすので精一杯。直撃を避けられただけ良しとする。
千々に崩れた異形の肉は膨らみながら、まるで枝分かれするように腕が増殖し、コマメの四肢へと絡み付く。
「妖魔、捉えたりィィァァアア!!」
『チ──うざい……っ』
逃げ遅れたリコたちを庇って捕らわれたコマメに次々と絡み付き、肉の塊に埋もれていく。
『化装変幻──……疾風!』
吹き荒れる暴風が刃と換わり、拘束から抜け出してきた。
アイツ、何でもアリですか。
コマメに千切られた肉片はグネグネと蠢き、真っ黒な煙を吐き出してどろどろに溶けて消える。
「ひいっ、この間のぐちょげろと同じじゃねーですか!!」
「何よ、そのぐちょげろ? って」
アムルの疑問に、途中で出会したあの恐ろしい存在を思い返す。
「えーっと、えと……あの掃討者の人たちは何て言ってたかな。確か──」
「穢れ、か?」
「そう、それ!」
「穢れは呪いのようなモノだぞ? 団長は何を……」
戦慄に染めた視線を投げ掛けた先には、身体を大きく反らせた団長がまだ高笑いを続けていた。
「んぬぬゥ~! 妖魔め! なんてヒドイことを!」
『うるさい』
甲高い声を張り上げ地団駄を踏み怒りを露にする団長を歯牙にもかけないコマメは身体に風を纏う。
「何でやがりますかそれ? かっくいーですね!」
『にゃひ』
「んぎィィィッさっさとあの妖魔を捕まえろ、このノロマ! グズ!!」
「アイツ、また!?」
無数の触腕が黒い体液を撒き散らしながら放たれるも、 舞う風のようにするりと回避する。
『来やれ、流転の風華──』
伸びきった触腕を足場に駆け登り、異形の眼前まで飛び上がるとまるで風船のようにコマメの身体が丸々と大きく膨らみを増していき──
“ドゴオオォォォォォオオン!!”
異形と猫風船が接触した瞬間、爆音轟かせ破裂した。
爆風に身を屈めて耐える。
母様とアムルは無事でやがりますか?!
警戒体制のまま身動ぎもしない母様を横目に、アムルも影から飛び出した水虎に支えられていることを確認が取れたことで安堵の息をつく。
やがて爆風も収まり、吹き飛ばされていた瓦礫が周囲に散る中もうもうと立ち上る砂煙から出てきたコマメが、澄ました顔で砂を払う。
「旋葛。──上手くいったかな?」
「威力を考えろ! すげー怖かったですよ!?」
「異形を消し飛ばすことを最優先にしたからね。生きてて良かったな」
「死んでたら呪いやがりますからね!」
とはいえバカ猫の言う通り、あれほど猛威を奮っていた異形も影だけを遺し、完全に消え去っていた。
あんなにも高嗤いを繰り返していた団長が、押し黙ったままコマメを見て何かを呟いている。何をブツブツと呟いているかまでは聞き取れないが、アレを止めるなら今しかないと、同様にあまりの威力に呆けている母様に発破をかけて、母娘の二人で団長を囲む。
「頼みの綱は猫ちゃんが潰してしまったな?」
「いい加減にしやがれってんですよ! こんな大勢の犠牲を……っ!」
「イェヒャヒャ……ゲヒーィッヒッヒッヒ!」
呟きが止まればお腹を抱え、額に手を押しあて狂ったように嗤い出して止まらない。
「まったく、どこに行ったかと思えば」
そう答えた団長は、短剣を構えたリコたちを見ていなかった。
その訝しげな視線を母様が追うのに釣られ、リコも振り返った先には──
「……──え?」
「リクを連れて逃げろアムル!!」
「ヒャヒャヒャヒャ! 傀儡・操糸連縛使!!」
ぐんっ、と引っ張られた水虎が団長から放出された糸に括られ、手を伸ばすアムルをすり抜け、リコの振るう短剣は糸を捉えられず、母様の刃が団長を襲うより早く加速し、団長と水虎は糸によりひとつとなる。
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