32話
うまく進めたい展開に持っていけず難航してます……
「ご主人、気を付けないとぶつかるよ」
「うふー、早く早く!」
確かに人は多いけど、コマメの施してくれた布を通して視る景色にも段々と慣れつつあるのだ。
魔獣使いさん。私のテイムと近しいモノを感じ、その技術を視てみたくてコマメに提案した。
決して、もふもふと遊べる滅多にない機会だなんて思ってないよ? 本当だよ?
にやけそうになる表情筋をきりりと引き締めて、何でもない風を装う。また浮気だなんて言われちゃうもん。
ふわふわとした足取りにコマメの方からは“やれやれ”といった軽い溜め息が聞こえるけど、ここはスルー力を発揮させるのだ。
一番大好きなのはコマメ。でも、たまには他の子とも戯れたいの。さっきの演目中に水虎ちゃんがいたし、またあのひんやりぬくぬくを堪能出来るかな?
魔獣使いの演目は混雑を極めていた。
憤怒の道化師を筆頭に、何人かの魔獣使いさんたちがそろぞれの従魔を使役し、一種のふれあいパークの様相をしている。
滅多に触れ合う機会の無い魔獣に、人々は興奮している。
私もドキドキ、ワクワク。
カガリ町の周辺で何度も襲ってきた犬頭や、一角兎はなかなか子供たちにも人気があるし、意外なところではスライムがご婦人方にモテモテだ。
スライムを操る魔獣使いの人の首元には、“美容効果あり”の文字が書かれているようで、おませな子から妙齢のご婦人まで血眼で鬼気迫る順番待ちをしている。
……どこの世界も女性にとっては美容は、切っても切り離せないらしい。プルプル。
「ここだけ妖気が強いね」
「プルプル。ボク、悪いスライムじゃないよ」
「てい?」
「なんでもない」
本来は最弱モンスターなんかじゃなく、物理無効、無限増殖、溶解補食とかなり危険な魔物に分類されるはずなのに、見た目の可愛さ(?)で被害が後を立たないそうだ。
全身筋肉のようなモノで、思考は極めて単純。補食のみ。
一度捕まれば死ぬ寸前までゆっくり溶かされて苦しみの末に、ようやく死ねる。そんな魔物だ。
弱いとか某ゲームキャラクターのイメージが強すぎるんだろうな。
男性は別れていて子供たちは大型の魔獣、大人たちはお色気満載の妖魔に釘付けだ。
「アムちゃん、いないねぇ?」
「あぁ、そう言えば……」
「水虎ちゃんもふもふ出来るかと思ったのに」
明らかにアムルより幼そうな魔獣使いもいる中、姿の見えない友達を探す。
憤怒の道化師が鞭を叩くと小型の魔物たちは奥へと帰り、代わりに出てきたのは大型の魔獣たちだ。
半鳥半馬だったかな。鷹の上半身に馬の下半身を持つ、礼儀を重んじるため損なえば危険な魔獣。逆を言えば礼節を持って対応したら優しい子ってことなんだけど。
地球の知識が異世界でも通用するかはまた別だけどさ。
あの子、何だかすごく痩せてない? 大丈夫かな。
お腹、減ってる……? 汚れも目立つ。お世話してない?
待って、それって危なくない?
コマメに伝えておかないと──
あっちから出てきたの、翼獅子だ。
神様の変化した姿と言われた魔獣。
──ここだとおばあちゃん神様のこと? そんなわけないか。
破壊の神様じゃなくて可愛い豊穣の神様だもんね。
『ミセ──モノ──ミセモノ、クウ』
ニタニタと笑いながら、ぐるり! と首を回す魔獣、人頭獅子。男性みたいな人間の頭に獅子の身体が特徴的だが、正直、近寄りたくはない。
続けて出てきたのは獅子女。
何がおかしいのかケタケタと嗤えば、乳房のような部分が揺れ動く。つい自然と自分の胸に視線が向いた。
……私、あいつキライ。
『ナゾ──ナゾナゾ──マチガエバ、シヌ──クキャギャギャギャ』
「訊くに堪えん声だな」
「次は?!」
『ミテンジャネーヨ……ウゼェ』
人面犬。会う者に文句だけつけていなくなる前世で悪事を働いた者の末路と言われる。ここでは立派な魔物だ。
『オワリダ、ハメツスルゾ──ギャアァァアッ!?』
件。凶事を予言し死ぬ、はた迷惑な人頭牛身の牛擬き。
「てい、あれ、動かないぞ?」
「……そ、そういうやつなんだね。こっちでも……」
音も無くするりと糸を伝うのは土蜘蛛。全高M越えの超巨大モンスター。
身の毛が弥立つってこういうことか……。
「なかなかの迫力だね」
「うひぃぃ~……」
お化け屋敷ですか、ここは?
あんなのまでいるなんて、異世界超怖い。
魔獣使いの命令に従って大人しくしてはいるものの、その眼光や牙は今にも“喰らいついてやろうか”と言っているようでもある。
気楽に触りたいなんて言っていたけれど、あの子たちにとわわってこの環境は苦痛以外、なんでもないのかも。
「コマさん、ここ……怖い」
「妖気の強い魔物ばかり……じゅるっ」
ひえぇぇ……コマメの眼が狩りをする眼にぃ~……。
「どう? 楽団の自慢の魔獣たちは」
「アムちゃん!」
人頭系統の魔物に震え、蜘蛛に怯え、それを獲物として見るコマメに戦慄しているのに、水虎に跨がったアムルが事も無げに人頭獅子の隣へと降り立った。
黒を基調とした紅いラインが映えるかっちりとした兵装のような魔獣使いの衣装にペリースマントを翻す姿は女の子なのにカッコいいの一言だ、が。
「アレ、本当にちゃんと従魔契約が結ばれてるの?!」
私はがっしりとアムルの肩を掴んで、痛みに表情を歪めたことなんか放り投げて目の前の魔獣たちの安全性を問う。
これは徹頭徹尾、私のためだけに聞いている。
蜘蛛は、虫はダメなんです。
あぁぁ……甦る、トラウマが。
ネズミだろうと、Gだろうと、捉えた獲物は必ず見せに来るコマメの習性に何度悲鳴をあげたか。
起きてるときならまだいいの。コマメの姿を確認して心構えが出来るから。
問題は寝起きだよ。枕元のGの死骸とかもう……。
異世界へ来てからも度々あったことだけど、本人は誉めてほしいだけだから、無下にも出来ないジレンマに悩みに悩んだことがある。
それに虫だけじゃなく、半鳥半馬や翼獅子といった大型で危険な魔獣たちの状態も気になる。
「魔獣のこと? わ、私はまだ見習いで詳しくは知らないのよ。契約は団長の管轄だし、私にはリクがいるから」
「ボクがていと従魔の契約を交わして知ったことだが、主人として認め交わす契約をするから従魔となるんだ」
「知ってるわ。従魔の基本でしょ?」
「契約は強固だが相互に信頼があってこそだ。ただ、絶対じゃない。それを主人以外に命令系統を持っていかれたとして、そこに従う理由はない」
つまり、主人失格と見なされれば反旗を翻すこともある。
ただ主人の元を去るだけならいい。
しかし、そうでないなら──
「もう一度聞くぞ? 契約者は誰だ?」
「元は団長が持ち込んだって聞いてるけど……」
喧騒は遠く、魔獣たちの嗤う声だけが耳に残る。
今、幼い魔獣使いが拙い鞭を打ち、魔獣に命令を下したところだった。
小型の魔物は比較的早く行動するのに対し、大型で強力な魔獣になるほど動きが緩慢になっていく。
簡単な話、舐められているのだ。
幾度目かの鞭打で動き出す人頭獅子は、じぃっとねっとりした視線を私に向けたまま魔獣使いのもとへと歩んでいく。
「ううう……」
「気持ち悪い」
「あれがあんなに誰かに固執することがあるんだ……」
ちょ、ヤメてよ。怖いって。
魔物たちが魔獣使いの言うこと、あんま聞いてないんだよ?
自ら使役している訳じゃなくて、“団長が持ち込んだ”魔物を使ってるってこと?
私にはそんな危うい関係で命令は出来ないよ……。
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