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魔術師の少女、世界端末の少年  作者: 海山優
三章『その目に映るのは』

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◆九話:事案


「あ~~~~~~~」


 露店風呂最高。


 先輩がスノウさんに電話を掛けるとのことで、恋人との電話越しでの逢瀬を邪魔するのも悪いと思った私――空海成世は先に風呂に行く旨を伝えて今に至る。


 私は生粋の日本人なので、温泉に浸かると声が出る。


 ……遥か昔のご先祖は海の向こうから渡来したらしいけれど、交配を繰り返した結果九割九分は日本人だろうし、一分なんて誤差の範囲なので純血の日本人と言っても過言ではない。


 純血は過言かもしれない。純潔ではある。


 そもそもからして、人類に対して純血だなんて概念が存在するのかという疑問もある。人類の歴史は移動の歴史と言っても過言ではない。


 あっちへフラフラー、こっちへフラフラーと、地球上のあらゆる場所で数多の民族がご飯や寝床を求めて彷徨い歩き、他の集団に出会っては戦争したり合体したり吸収したり分裂したりして、そういうのを何度も繰り返した結果としての今がある。


 ハーフなどが比較的少ないと言われている日本だって、そもそもは遥か昔に他の大陸から移動して来た人達が根付いたものだし、北や南で身体的特徴に結構な差異が見られるのだ。


 いや、それどころか東日本と西日本でも遺伝的な元を辿ると違いがあったりするらしい。ただそれも、交通網の発達と若者の都市部への過剰な憧れなどが影響して国内を人員が右往左往しているので、結果的にそれらの血が交わり、わかりやすい違いは無くなりつつある。


 一時期には鎖国をしていた影響もあるのか、我が国の人々は同郷の相手で済ませようとするきらいがある。異文化交流はしても異文化交配とまでは行かないのだ。


 日本人という表現で、国籍だけでなく日系の特徴が強い人種を思い浮かべるのが一般的なことになっているのは、そういった島国的な事情もあるのだろうと考えてしまう。それこそ、サムおじさんの国なんかは人種のるつぼ――サラダボウルなんて呼ばれるような多民族国家であるがために、米国人などと言ったところで明確な特徴を想起できなくなっていると聞き及んでいる。


「ふいぃ~」


 などなど、そんな大して意味のない思索につらつらと耽ってしまうのも風呂に入っているからこそである。ビバお風呂。ビバ露天風呂。アビバノンノン。広々とした湯船で手足を伸ばし肩まで浸かり息を吐く。


 あー。だめ。なんか力がぬける。

 今日はそんなに動いてないんだけれど、乗り物って結構疲れるんだなぁ……。


 すやぁ。



 □■■□



 脱衣所を出た私は施設内を歩き回っていた。


 ――意図せず長風呂をしてしまったけれど、のぼせずに済んだ。


 現在の目的地はゲームコーナーである。施設のパンフを確認したところ、夕方以降に開いている他の施設はゲームコーナーとバー、土産屋とコンビニの四つだった。コンビニに用はないし、土産屋は初日に行く場所でもないだろう。バーは未成年なので入ることは出来ても楽しむことは出来ないだろうからパス。消去法としてゲームコーナーへと足を向けたわけである。


 ――メダルゲームをやってみたいのだ。


 普通であれば、幼い頃に親に連れられたデパートのゲームコーナーやゲームセンターで嗜むことになるのだろうけれど、私はそういった機会を逃して今日まで生きてきた。


 とはいえ、流石に華の女子高校生にもなって、ありとあらゆる娯楽の選択肢がある中でメダルゲームを選ぶようなことはないわけでしてね。


 よほど選択肢が狭められていない限り、進んで選ぶような娯楽ではない。


 そういった特殊な機会が訪れたので、私は意気揚々とゲームコーナーへと向かっている。


 ――言い訳が欲しいお年頃なのだ。


「とりあえず、あのじゃんけんするだけでゲーム性のカケラもなさそうなやつからだ」


 なんて、その筐体が実際に置いてあるかどうかも分からない状態で皮算用をする。


 おっと、道すがらに卓球コーナーを発見する。

 卓球はやったことがないので是非やってみたい。


 後で先輩を誘って興じるのも良さげかなと思いつつ、ゲームコーナーに到着する。


「おぉ……」


 レトロゲーと呼称されるような筐体たちが並び、そのブラウン管モニターから粗いドットの光を放っている。入口付近には格闘ゲーム系列と落ち物系列があり、私でも知っているような古き良きタイトルが見受けられる。


 ただ、私の目的はこれらの一回のプレイにつき硬貨一枚を要求する類ではなく、なんちゃって硬貨を湯水のごとく費やすようなメダルゲームだ。視線を奥へと向けると、格ゲーなどの筐体よりも一回り小さいメダルゲームの筐体が並んでいた。おー、あったわ。


 なんとなしに視線を横に流すと、円形の筐体――コインプッシャーゲームも堂々と居座っていた。


 うーむ。人の姿は見えないが、独特な雰囲気がある。これがゲームコーナーの空気……。


 感慨にふけりつつもさらに他のものも見て回ろうと歩く。


 パンチングマシーンやガンシューティング、プライズゲーム――いわゆるUFOキャッチャーもあった。


「結構本格的だな……」


 風営法とか大丈夫なのかな。いや、ちゃんと許可を取っているのだろうけれど。


 ボウリング場とかの端っこにあるようなゲームコーナーとかだと、その辺は引っ掛からないようにしているところもあると聞くけれど、これは明らかにその範疇を超えている。


 そうなると、未成年では遅くまでは居られないだろうなーなんて思いつつさらに進み、


「……………………」


 先輩がいた。


 先輩がエアホッケーをやっていた。


 ――エアホッケーをやるのはまだいい。いや、全然いい。別にエアホッケーは悪くない。


 ただし、それとは別に問題がある。それも無視できないレベルの問題だ。


 エアホッケーをやるにあたって必要なモノがある。


 ――まずはお金だ。ただし、これは先輩なら余裕でクリアできる。


 先輩は壊れた金銭感覚と狂った資産を持つスノウさんの彼氏(ヒモ)だ。あの人の人生においてこの先『金に困る』という状況は二度と訪れないと言っていい。


 では、なにか?


 引っ張る理由もないので言明するが、それは対戦相手である。


 エアホッケーはその特性上、卓球と同じように必ず対戦相手を必要とする娯楽だ。


 私が先ほど卓球場を見かけた際に、先輩を連れて改めようと思った理由がそれだった。


 卓球もエアホッケーも二人でやるものである。


 一応、卓球にはダブルスというフォーマットもあるのだけれど、初心者でズブの素人である私がいきなり手を出すものではないだろうから論外とする。なんなら、エアホッケーと言えば某友達パークの二人ペアでの対戦が印象深いような気もするが、とりあえず気にしない。


 エアホッケーや卓球は一対一のゲームだ。誰がなんと言おうと私の中ではそうなのだ……。


 ――先輩の対面には私の知らない人がいた。


 そして、私はその知らない人を見て、思わず呟く。


「じ、事案……」


 先輩は、小学生ぐらいに見受けられる可愛らしい少女とエアホッケーを楽しんでいた。


ちなみに、成世の実家(空海家)には敷地内に温泉がいくつかあります。

また、火灼が空海家を利用して行おうとしている観光事業は温泉地計画です。

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