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魔術師の少女、世界端末の少年  作者: 海山優
二章『世界端末の失敗作』

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◆二話『仲秋リマインド』-2

 時刻は昼下がり。秋頃であるとはいえ、光量が最大値を叩き出す時間帯であることに変わりはない。それはつまり、外では最高気温に達しているというわけだ。とはいえ、いくら最高などという言葉を使用したところで、結局は秋の気温だ。


 現在、私たちが鎮座しているのは窓側ではあるけれど、喫茶店の立地的に日差しが直接差し込むような角度にはなっていない。そのため、外の景色に目を向けてもまばゆさを感じるようなことはない。むしろ、黄葉と褐葉の中間ぐらいになり始めている葉を風に揺らされている街路樹や、コートの前を閉めている道行く人たちを見れば、少し身震いをしてしまう。


 ただ、店内は暖房が利いている。私はコートを脱いで壁に掛けているし、先輩は上着を横に畳んでおり、タートルネックのニット姿になっている。奉くんは着ていたパーカーの前を開けている。


「人の痛みがわかる子になりなさいって、言い聞かされたことはある?」


 会話の流れで、ふと思ったことを奉くんに問うてみた。


「言われたことはないですが、近しい意味のを聞いたことはありますね」

「その意味を考えたことはある?」

「はい、それが意図した通りのものなのかはわかりませんが」


 先輩は持参した文庫本を開き、それに目を落としている。雑談をいくらかしているうちに、私と奉くんの読書傾向が近く、話が噛み合う部分があり盛り上がったのだ。


 そんなこちらを見て先輩が浮かべた『表情』を私は確かに垣間見た。


 ――既視感と動揺。私は抱いたそれらを表に出さないようにした。それらが一体なにを起因としたものなのかを思い出せなくて、戸惑ったのだ。そんな私をよそに先輩はそれぞれの飲み物を追加でオーダーすると、読書の体勢に入ったのである。


「人の痛みがわかれば、人は人を傷付けないのかな? 誰しもが人の痛みをわかれば、優しい世界になるのかな? その言葉は、そういう願いなのかな?」

「どうでしょう。人の痛みがわかるからこそ、人を率先して傷付ける人だって、いないとは言い切れません」


 奉くんは淡々とそう言い切る。


「そうだね。人の痛みにこそ幸福を覚える人だってこの世にはいるのだから」


 痛みがわかるということは、どうすれば相手が痛みを覚えるかを理解できるということでもある。どうすればより強く、鮮明な痛みになるかがわかるということだ。もし、痛みを与えることに快楽を覚える人がいたとして、その人から与えられる痛みを我慢して、表情にも態度にも出さずに耐えて、あたかも痛みなどないかのように振舞ったとき、その人は痛んでいることがわからなくて、その手を止めるかもしれない。けれど、もしも痛みが分かってしまえば、その手が止まることはない。


「僕はそういう人の存在を否定はできません。そうあってしまったことを、否定はできません」

「実際、その人たちが痛みを与えることによって得られる幸福が、与えられた痛みによって嘆く人の不幸を数値として上回った際に、それは認められてしまう場合もあるからね」

「功利主義の一つですね」


 みんな大好き『最大多数の最大幸福』のお話。……話が逸れたな。戻そ。


「じゃあ、どうすれば人は人を傷付けないようになると思う? どうすれば人が人を傷付けようとしない優しい世界になると思う?」


 そう問えば、奉くんは視線を右上へと逸らし、口元に手を当てて固まる。しばし固まったかと思うと、口を開いた。


「空海さんは、どうすればそうなると思いますか?」

「問い返しちゃう?」

「あまり考えないことだったので、すぐには思いつかなくて。もちろん、ちゃんと考えて答えます。そのために、参考までに空海さんの考えることを教えて欲しいなって」


 なるほど、と、私は頷く。そして「そうね」と言って例えを一つ挙げる。


「痛みがわかるのではなく、痛みを感じるようになれば、少なくとも人が人を痛める確率は減ると思うよね」

「痛みを、感じる」

「痛むことを理解できるのではなく、同じ痛みを覚えるようになれば、大抵の人は痛みを与えようとは思わなくなるでしょう?」


 ――例外としては、痛みを快楽として愉しめる人間や、痛みを感じてなおその相手に痛みを与えようと執着する人間ぐらいだろうか。前者は性質の違いで、後者は己を顧みないが故の在り方。そう言葉を付け足す。


「そうですね。それならきっと、ほとんどの人は――大多数の人は誰かが傷付くのをよしとしなくなりますね。人の痛みがわからなくとも、人の痛みを感じたくなどないからこそ、傷付けようなどとはしないはずです」


 でも、と言葉を続ける。


「それはきっと生き難い世界だと思います。息苦しい世界だと感じます。誰かの痛みが自身に降りかかる世界なんて、怖くて仕方がないです。誰かと関わるという行為に痛みが伴うかもしれないと、そう考えてしまいます」


 人は痛みを覚えて、初めてそれが痛みに繋がるのだと知る。そして、人が痛む原因はさまざまであり、人それぞれだ。たとえ自分にとってはどうでもいいことで、それが痛みになど繋がらないと理解していても、それが人の痛みに繋がらないなどとは限らない。些細な言動が人を無意識に傷付ける。本人にその意図がなくとも、相手は傷付くのだ。


 だから、奉くんはそれを怖いと表現する。


「でも、それって今ともあまり違わないように思わないかな? 痛みがわからなくても、それでも人を傷付けないようにしようと言葉を選ぶ人だっているでしょ? それをする人の割合が増えるだけじゃないかな」


 少年は首を横に振る。


「それは相手のことを考えてすることです。相手のことを考えないなら、自分のことだけを考えるのなら、行き着くのは拒絶ですよ」


 私はその結論を聞いて、確かにそうだと頷く。


「誰だって、痛みなんて自分のだけで手一杯で、他人のなんか負っていられないよね」

「はい、人はそんなに丈夫じゃありませんからね……」


 ――人はそんなに丈夫ではない。それはそうだ。だから『人』は『人』なのだ。


「それで、私の『どうすれば』を聞いてキミは『どうすれば』いいと思えた?」


 そうですね、と、少年は呟き、自身が思い浮かべたであろう言葉を旋律にする。


「人の喜びを感じるようになれば、ほんの少し、優しい世界になると思います。誰かが喜んだ時に、その喜びが自分自身に伝播するようになれば、人は人を傷付けようとするのではなく、人は人に優しくあろうとするのではないでしょうか」


「私の考えの逆だね」

「はい。潰し込むのではなく、広げていくほうが僕の好みでしたので」


 前を素直に見ていると、そう思った。続く未来へと思考を馳せていることがわかる。幼さゆえの未来への展望があるようで、それはなんて眩しいものだろう。この世が未知で溢れているということが怖いことでも、諦めることでも、悲観することでもないと、期待だけを抱いているかのような在り方。


 ――それがとても羨ましくて、私は意地の悪い言葉を重ねてしまう。


「それなら、人が『他人の喜びから』しか喜びを得られなくなれば、もっと良くなったりしないかな? だって、人を喜ばせなきゃ、自身の喜びを得られなくなるんだよ?」


 けれど、私の提案に答えたのは奉くんではなく、天木先輩だった。


「――それじゃあ、駄目だろう」

「……なにが、ダメなんすか?」


 奉くんは天木先輩の言葉に耳を傾けている。


「それだと、人が人のことを『喜びを得るための存在』としてしか認識できなくなる。それは優しさではないよ」

「別に、それに問題はないじゃないすか。痛めつけるわけではなく、喜ばせようとするのですから。それが優しさではないと?」

「自分で言っていて理解していることを人に訊ねるなよ……。それに、取れる選択肢がないことに問題があるんだよ」


 天木先輩は文庫本から目を逸らさずに淀みなく言葉を続けた。


「空海。人の幸福を願えるのは、幸福な人間だけだよ」

「っ……」


 私は、先輩のその言葉に嫌みを多分に含めて言い返そうとした。けれど、思考からの言語化を行い、それを音へと昇華させるための息継ぎの合間に差し込まれる。


「奉、空海、小腹は空いているか?」


 先ほどまでの会話などはただの世間話だったとでもいうように天木先輩は話題を変えた。


「育ち盛り!」


 奉くん元気いいな。


「えぇ、はい、まぁ、お昼もまだでしたし……。なんすかっ、奢ってくれるんすか! ゴチでーす!」


 だから、私もまるで気にしていないというようにそれに乗っかった。


「…………呼び止めたのはこっちだから、最初からそのつもりではあったけれど、そう言われると萎えるな」

「がんばれっ、がんばれっ」

「萎えた人間への対処法を致命的に間違えているっ!」


 先輩はそう言いながら、立て掛けられているメニューに手を伸ばして取り、それを奉くんの前で広げる。広げられたメニューを一瞥してから奉くんは小さく、けれどはっきりと挙手する。


「限度額は?」

「そういうの気にしなくていいから」

「マジすか」


 私は大きく身を乗り出し、この店で一番高いものを探し始める。


「お前は気にせい」



◆◆◇◇◆◆



 奉くんはパフェを頼んでいた。運ばれてきた大きさに面食らっていたが、細長いスプーンを握り込んで「よしっ」と意気込んだ。私と先輩はそれを見て「可愛い」と呟き、頷き合った。先輩の前にはブレンドコーヒーが置かれており、私の前にはショートケーキ(半壊)がある。


 ホイップクリームの頭頂部に突き刺さっているシガレットクッキーをどう食べようかと悩む奉くんを眺めながら、私はケーキの崩壊を加速させていく。


 ――休日、弟さんとの水入らずのとこに遭遇して、拒絶のための会釈などではなく、招き入れられたという事実を鑑みれば距離感は間違いなく縮まっているだろう。


「そういえば空海さん」


 考え事をしていると奉くんがそう切り出して、話を少し戻した。私が会話中に引用した哲学者の言葉を思い出して、それについて気になったことがあると言う。私自身はとりわけその哲学者が好きというわけでも、その思索に感銘を覚えたわけでもない。好みに関してもどちらかといえば倫理学に偏っている節があるし。それでも、その哲学者に関する著書はいくつか所持しており、不定期的に読み返したりはする。


 奉くんは私の蔵書に目を付けたようで、どんなものを持っているかを問われた。私はすぐに思い出せるものをタイトルだったり著者名だったり翻訳者名だったりでいくつか並べ挙げると、奉くんはそのうちの一つに反応した。


「哲学観と経験の形而上学、か」


 読みたいの? と問うと、読みたいです。と素直に答えられた。なんでも、すでに絶版のモノで父親の蔵書にもなく、周囲の図書館でも見当たらないため諦め気味だったそうだ。絶版であるため値段も高騰している一冊であり、小学生の財力と行動力ではどうしようもないとのことだ。


「言ってくれれば買ったのに」


 と、天木先輩が横から口を出すと、それで買ってもらったりすると際限がなくなりそうだから……、などと実に子供らしくない理由で断る奉くん。ちなみにと、巷で取引されている値段を聞いてみると確かにいい値段だった。天木先輩もそのレベルが際限ないのはアカンなぁと頷いた。だからこそ、読書傾向から私が持っているかもしれないと考え、その可能性に希望を抱いてみたのだろう。


「それじゃあ、いつ渡せばいいかな?」

「えと、空海さんは兄さんの学友なのですよね? それなら、休み明けの学校で兄さんに受け渡しをしてもらうのがよいのではないかな、と」


 至極当然な意見を述べる奉くん。心なしか遠慮がちな言い方になっているのは、自身の知的好奇心の探求のためだけに、兄に手間を掛けさせることへの申し訳なさだろうか。


「一緒に勉強しているわけではないけれど、まぁ、確かに同じ学校だしな」


 そんな奉くんの内心を理解しているのか、天木先輩は一回苦笑して、引き受ける姿勢を示す。


「おやおや先輩、同じ敷地、同じ屋根の下で同じ時間に学問に励んでいるということを考慮すれば、それはもはや一緒に勉強していると言っても過言ではないのでは?」

「一緒に勉強しているならベクトルの問題とか出しても問題ないよな?」

「………………ところで先輩、私は先輩の弟さんである奉くんに貸しを一つ作るわけですよ」

「露骨に話を逸らしたな」


 ツッコミは無視して流す。


「というわけで、『今度』の日程について詰めましょうか?」


 天木先輩は一度、頭上にクエスチョンマークを浮かべて小首を傾げたが、すぐに思い当たったのか――思い出したのか、気まずそうに笑う。笑って、降参したかのように両手を軽く上げるとテーブルの端に置いていた携帯端末を手に取った。


「連絡先、教えるよ」



◆◆◇◇◆◆



「そういえばあの本、近場の図書館にはなかったとのことだけれど、大学とかの図書館は調べたの?」


 成世がそう問うと、奉はきょとんとした顔つきで小首を傾げた。


「調べていないです」

「そっかー。まぁ、もう私が持っているのを貸すって約束したからいいっちゃいいんだけれど、あの手の書籍は参考用の文献として使われがちだし用途が絞られるから、公が広く使えることを目的としている公立図書館とかよりかは、専門性が比較的重視される大学図書館で探せば見つかったと思うよ?」

「えっ、そうなのか?」


 と、口を挟んでしまう。この後輩、連絡先を交換して約束を取り付けてからそういうことを言い出すとか、分かっていて敢えて黙っていたのでは?


「けれど、その大学の関係者が知り合いにいないとダメなんじゃないんですか?」

「関係者しか入れないのは場所によるよ? 一般利用可にしているところとかもあるしね。確か、公立系はその傾向が強かったっけなー」


 成世も実際に利用したことがあるわけではなく、知識として持っているだけだからなのか、思い出しながらであるかのように言葉を続ける。


「ただまー、なんの理由もなく入れるわけじゃないから、基本的には事前に目的の資料がそこにあるかを確認する必要があったはず。パソコンで調べられたはずだよ」

「なるほど、パソコン」


 奉が神妙そうな顔をしながら感心したような声を出す。


「大学だってすべての本を所蔵できるわけじゃないから、他のとことそういった部分で連携して共有することで、生徒や教師が調べ物をしたいときに困らないようにしているんだろうね」


 たぶん。と、憶測であることを付け加える。


「へぇ、いいことを教えてもらえて良かったな」

「はい、ありがとうございます」


 俺の弟はお礼をしっかりと言える良い子に育っている……。などと感慨深げに頷きそうになるが、特に俺がなにかしたわけでもなく、気付いたらとても堅固な精神性を得ていたので後方兄貴面は見当違いも甚だしい気もするな……。いや、きっと俺の背中を見て育ったんだよ。そういうことにしよう。誰だ反面教師って言ったやつ。


「私の蔵書にあるものから貸すのは構わないけれど、そういう方法もあるって知っておくといいんじゃないかな。ただ、貸し出す度に先輩が私に奢ることになるから、もしも読みたいのがあれば優先的に聞いてくれていいからね!」


 成世はサムズアップしながらいい笑顔をするけれど、


「え、奢り?」

「先輩は女の子にご飯代を払わせるんすか?」

「ただの後輩の分際でお前は何を言うんだ」

「後輩の分はタダで払うのが先輩という生き物の生態でしょうに」

「お前、別に金に困っているわけじゃないだろ」


 口ぶりからするに成世は結構な量の本を集めているはずだから、生活が困窮しているわけではないだろう。何故たかろうとする、と目で訴えると成世は握り拳を作ってはっきりと答える。


「他人の金で食べる焼肉にこそ意味があるんですよ!」

「要求がまぁまぁ高い! 食べ放題とかでも野口さん三人は飛んでいくぞそれ……」


 とはいえ、借りる本の市場価値的に考えればレンタル料としては妥当なのだろうかとも考えてしまう。そうして考え込むと、


「……いや、冗談ですからね? 先輩がマジな顔すると奉くんが本気にしちゃうんで」


 そう小声で補足される。見ると、奉は困ったように眉根を寄せ、慌てたような表情を浮かべていた。本は読みたいけれど俺に迷惑を掛けたくないので、成世から借りるのを断ろうか葛藤しているのだろう。


「俺の弟は今日も可愛い……」


 おろおろという擬音が聞こえてきそうな雰囲気を醸す奉は大変愛おしい。


「なにしみじみ言ってんだアンタ」



◆◆◇◇◆◆



 話がまとまったことを確認し、安心してパフェの摂取に勤しみ始めた奉くん。それを頬杖ついて眺める天木先輩を見やる。その目は優しげで慈愛に満ちたものだ。口元に浮かべる笑みは柔和で、校内で見かける仏頂面とはまるで別物。死人のそれと見紛うような目元も、幾分か生気を取り戻しているようにすら錯覚する。


 ――けれど、私は見たのだ。


 先輩が僅かに見せた表情。覚えた既視感の正体。そう、あれは……あれは――


「先輩は――」


 喉まで出かかった続きの言葉を、音へと変換する前に呑み込む。私は何を言おうとしているのだろう。少しばかり漏れてしまった声を拾って、先輩がこちらへと不思議そうに目を向ける。なんでもないというように小さく首を横に振る。特にそれ以上の追求をしようとは思わなかったのか、先輩は弟鑑賞に戻る。


『失敗作』


 ――言葉が脳裏を過る。幾度も浴びせられた言葉が鼓膜を震わす。


 聞こえる筈などないのに、そのような空気の震えなどないというのに、いやに明瞭に響く。そうだ、その声音だ。あの目で、その声音で、ゆっくりと、はっきりと、刻むように、言われるのだ。


『失敗作』


 その繰り言は唾棄するように何十何百何千何万と重ねられた。目を逸らすことなく見続けた。耳を塞ぐことなく聴き続けた。酷く苦しいと感じた。酷く悲しいと感じだ。酷く――寂しいと感じた。それでもなお、それは私が私であるためには受け入れなければならないものだと思った。だから私はそれを当然としたのだ。


 そして、実際にそれは当たり前のことなのだ。


『失敗作』


 それこそが私の生まれ方で、


『失敗作』


 それこそが私の在り方で、


『失敗作』


 それこそが私の罪で、


『失敗作』


 それこそが私の罰で、


『お前が失敗作であることが、なによりの終わりだ。ここで終わりだ。お前で終わりだ。お前が終わりだ。終わりがお前だ。お前で終われ――失敗作』


 冷ややかに突き刺すように言われる弾劾の言葉。

 つよいことば。こわいことば。くるしいことば。


 ――だから、その時に浮かべられた目には強い憎しみが秘められていたはずだ。


 天木秦が浮かべた表情を――目を見て思い出したのが、ソレなのだ。


 ――故に、私は思ってしまったのだ。


『先輩は、弟さんのことが憎いのではないのですか?』


 と、今の状態とまるで乖離したような疑問を、口にしそうになったのだ。明らかに今の構図と違和感のある懐疑。けれど、違和感にこそ違和がある。その笑みが含有するモノを愛情などとは決して思えないと私の何かが叫ぶ。そうでなければおかしいと喚く。


 だから、私はこの人を「怖い」と思った。得体の知れないおぞましいモノの一端を垣間見てしまったかのようで、それがとても不気味で、在り様とちぐはぐで、どうしようもない焦りを覚えたのだ。


 だって、あなたは『普通』なのだから。

 ひどく一般で、落ち着けるほどに平凡なひと。

 スノウ=デイライトが見初めたであろうあなたの特徴はそれだろう?

後日『Interlude-2』を更新します。


『三話』につきましては、四月中には投稿いたしますので(願望)、しばしお待ちいただければと思います。

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