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才能の器 ~素敵なスキル横伸ばし生活~  作者: とんび
第一章

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24 スキルの崖



 キンケイル迷宮、地下八階。

 およそ一週間をかけて俺達は地下七階までを踏破し、新たな階に足を踏み入れていた。


「ズーグっ! あと十もたせろ!」

「了解! ぐぉおおおおおお!」


 ズーグが血まみれになりながら、ソードエイプ二体の猛攻を剣一本で凌いでいる。

 現在の戦況は状況はあまり良くない。

 強力な近接戦闘能力を持つソードエイプもそうだが、広間を縦横に走り回る二頭のスレイプニルを止められない。


 俺もやつらが危険なのは分かっていたし、故にこそ先制攻撃ではスレイプニルを狙った。しかし草食動物(?)特有の危機感知によるものか、初撃を回避されて一頭しか仕留められず、二対二のジリ貧に追い込まれている。

 ソードエイプは表皮が変化した剣のようなウロコが両椀に生えており、それを使って攻撃してくる。金属質なのでソードエイプにはライトニングボルトが効果的だった可能性がある。それで最初に二体落とせていれば全く状況は違っていたかもしれない。


 ……いや、それも予想に過ぎないか。

 とにかく今はこいつらの相手だ。


凍結槍フリージングランスっ!」


 選択したのはダメージ重視ではないフリージングランスだ。

 着弾点から氷結が広がり氷塊と成す呪文で、相手の機動力を削ぐ狙いだ。

 並列思考とエクステンドマジック込みで弾数を増やしてばら撒いたそれは、目的通りの効果を発揮して駆け回るスレイプニルの重しになったようだ。


 しかし、それは長くは続かない。この戦法は先ほども試みたものだからだ。

 その時は俺が欲をかいてクリメイションを選択したために、炎弾を回避され更に状況を悪化させてしまった。


魔法強化スペルエンハンス魔法拡大エクステンドスペル魔法誘導ホーミングスペル……魔導槍エナジージャベリン!」


 俺は同じ轍を踏まないように、今俺の持つ中で最も確実性の高い魔法を行使する。

 急激な魔力喪失に背筋にひやりとしたものが走るが、無視して魔力を解き放った。

 そして魔法は過たず着弾し、二頭のスレイプニルの胴体を貫いたのであった。


 その後は致命傷を受け氷塊を背負って動きの鈍ったスレイプニルを放置し、ソードエイプにライボルを当てたところをズーグの剣で殺害。残りは適当に片付けて、戦闘終了だ。

 ズーグは満身創痍で俺も魔力がかなり低い所まで落ち込んでいる。

 勝利はしたが、辛勝としか言えない惨状であった。


「すまん、俺がミスったばっかりに」

「いえ、旦那は悪くありません。原因は俺でしょう。あの程度の猿ごときに押し込まれるとは情けない……」


 ヒールを掛けながら感想戦だが、互いに自身の至らない所ばかりが挙がってくる。

 他人のせいにしないのはズーグも俺も自慢できる部分かもしれないが、さっきの戦いの内容は全く自慢できる部分が無いので気分は重い。


「それにしても、やっぱり残り物と戦うと厳しい戦いになるな」

「まあ他の探索者が戦わない魔物の構成、場所……そういったものを無視していますからね我々は」


 そうなのである。

 地下七階までの探索でもそうだったが、キンケイル迷宮は予想とは反して、完全な占有行為は行われていなかった。

 俺達はこれ幸いと誰も戦っていない魔物と戦う事にしたのだが、物事にそうそう旨い話は無い訳で。どの場所でも、困難な構成の魔物とやりあう事になった。

 もちろん浅い階層ではただ面倒臭いだけだったが、実力が拮抗してくる地下六階あたりからずっと厳しい戦いになっている。地下七階も踏破したとは言ったが、ただ下への階段に辿り着いただけだ。


 今回は地下八階での初戦だったが、他の探索者を避けて辿り着いたのはちょっとした運動場くらいはありそうな広間だった。スレイプニルはその広さを利用して減速せず突撃をし続けるという戦法を取り、俺達を苦しめたのである。

 たぶん、もっと狭い部屋ならスレイプニルの突撃は単発で、突撃⇒停止⇒方向転換⇒突撃というサイクルなんだろう。この広間だと突撃⇒方向転換しながら突撃⇒突撃ってサイクルだからな。そりゃ他の探索者は戦わないはずだ。


「それにしたってまあ、ちょっと先に進み過ぎたのはあるだろ。ズーグも、ここが今の限界点って事でいいよな?」

「ええ、それは間違いないでしょう」


 ズーグを戦力として加えた当初と同じく、行ける所まで突っ走ってきたがここが今の壁という事だ。これからはこの壁を越えるべく、これ以下の階層で鍛錬を積むフェーズである。


 ひとまずはここまでの成果を確認しておくか。



【ステータス画面】

名前:サイトウ・リョウ

年齢:25

性別:男

職業:才能の器(48)

スキル:斥候(5)、片手武器(4)、理力魔法(5)、鑑定(5)、神聖魔法(5)、魂魄魔法(5)、看破(5)、体術(4)、並列思考(5)、射撃(3)、空間把握(2)(SP残0)


【ステータス画面】

名前:ズーグ・ガルトムート

年齢:58

性別:男

職業:戦士(23)

スキル:両手武器(7)、竜魔法(2)、槍使い(8)、片手武器(5)、投擲(1)(SP残0)



 ズーグは据え置き。まあ前の確認からそこまで厳しい訓練を積んできた訳じゃないからな。探索再開から一週間程度で変化がある訳も無いだろう。


 俺の方は、敵が強くなってズーグが抜かれ、近接戦闘をする機会が増えたからか片手武器と体術のレベルが上昇した。ズーグと比較して簡単に上がるのはやはり才能の器のお陰だろう。

 後は常に酷使している並列思考と新たに得た空間把握か。射撃もそうだが魔法を使う時は殆ど必ず使うパッシブ系のスキルだから上がるのも理解できる。

 一方頼みの魔法技能は微動だにしていない。もちろんまだ一週間なので(キンケイルまでの道中でも練習はしていたが)伸びないのも無理は無い。これからに期待である。


 そして最後に一つ問題が発生した。

 お気づきかもしれないが、総合レベルが45を超えたにもかかわらず、SPが得られなかったのだ。

 とうとう来たかという感じもあるが、頭打ちになったのである。


 まあ予想していた事でもあるので驚きはしたが動揺は少ない。しかし問題なのはこれがどの程度の頭打ちなのかという事である。つまり次はいつになったらSPを得られるのかという疑問だ。

 これは結局レベルを上げてみないと分からない事なので鍛錬を積んでいるうちに自然と分かる事だろう。それまで分からないというのが問題で、更には「今後ずっとSPを得られない」という最悪の事態も想定しておく必要はありそうだが。


 俺はズーグの回復を終え、ステータス画面から顔を上げて一つ息を吐いた。


「何か進展はありましたか」

「いや、劇的な進歩は何も。流石に一週間じゃなあ」

「まあ俺も“崖”に到達している感触はありますし、気長に行くのが良いでしょうね」

「ガケ? ガケってあの崖か?」


 ズーグの発した耳慣れない言い回しに首を傾げる。

 一応俺はこの世界の言葉で話しているが、聞き取った言葉の意味は間違ってないはずだ。


「はい。竜人の戦士の間でそう言われているだけの話なんですが……」


 ズーグの語った話は中々示唆に富んだものだった。

 なんでも、戦士の力量というものはある一定のラインまで到達すると全く成長しなくなるらしい。

 しかしそれでも尚諦めず、高みを目指して修業した者にのみ到達できる境地がある。一歩も前進しないながらも高みを目指す事から、竜人たちはその状態の事を「崖の下まで来た」とか「崖を登っている」と言い表す風習がある様だ。


 中々言い得て妙な表現をするものである。

 いや表現の事はさておいて、この「崖」と言うものには少し気になる点があるな。


「なあズーグ、戦士以外の……例えば魔法技能でも、その崖ってのはあると思うか?」


 ズーグは崖に到達した感触があると言った。

 彼の片手武器のレベルは5。そして俺のスキルの内、しばらくレベルが伸びていないのは全てレベルが5に到達したものばかり。

 ここから導かれる結論は一つではないだろうか。


「どうでしょう。俺は戦士の技量の事しか分かりませんので。ただ、どの道にもある一定以上に行こうとすれば苦労する事はあるのではないでしょうか」

「まあそりゃ分からんか。しかし、今の話で一つ仮説が立ったな……恐らく、俺の魔法技能は崖に到達している」


 魔法技能だけじゃなく、斥候も鑑定も看破も、つい最近レベル5になった並列思考も。恐らくは崖にぶつかったと考えられる。

 もしそうだとしたら、これはかなりネガティブな情報だ。「崖」は一歩も前進しないからそう呼ばれるようになったのだから、俺の技能もこれからしばらく一歩も前進しないという事になる。

 急ぐ必要は無いが立ち止まる必要も無いと考えて、色々強くなる方法を検討してここまで来たっていうのに。しばらく成長しませんよとか気が滅入るどころの話じゃない。


「そうだとして……ズーグ、お前は崖を登り切った事あるんだろ? その時はどうだったんだ」


 ズーグは今片腕なので片手武器のスキルを伸ばしているが、両腕が健在だった時は槍使いレベル8の猛者である。崖を越えたレベルで間違いなく、その時の経験から何か分かるかもしれない。


「俺の場合ですか……。俺は、奴隷になって戦いの日々に身を投じた事で高みに到達しました。何が理由かは正直覚えてません……すみません」

「いや、よくよく考えれば戦士の技能と同じ方法で魔法技能の崖を越えられるとは思えないしな」

「そういう事であれば、アルメリア殿にお聞きするのが良かったのでは? 確かあの方はかなりの使い手だったと伺いましたが」


 確かに師匠の理力魔法のレベルは8。崖は越えているレベルだろう。

 しかしあの人は今は王都だ。もう少し早く気づいていれば良かったんだが後の祭りである。


「申し訳ございません」

「いいって。まあジタバタしても崖を越えないといけないのは変わらないし、いつか崖にぶつかるのは当然だったんだから、腰を据えていかないとダメって事だろ。それが分かっただけでも上等だ」


 全然レベルが上がらないと焦らなくて済むからな。

 それだけを見ればポジティブな情報とも考えられる。

 ポジティブに考えようとしたのだからポジティブに考えられるのは当然だが。


「はあ、とにかく一旦戻るか。もしかするとただ迷宮に突撃するだけじゃ駄目かもしれない。お前の近接技能はともかくな。探索は継続するとしても別の方法を考えよう」

「はい」


 キンケイルに来てから狩場占有問題と言い躓きの連続だが、人並み以上の強さを求めるというのはこういう事なのかもしれない。

 覚悟を決めてやるしかないだろう。


 俺達は帰りの道中でも少し魔物を狩り、地上へと戻るのであった。




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