132 ズーグとの対決2
乾坤一擲、と言わんばかりの気迫で、ズーグが迫ってくる。
「電撃! 風刃! 爆炎!」
貫通力、切断力、攻撃範囲。
ズーグの対処許容量を圧迫しようと、使えるあらゆる魔法を使っていく。
しかしそれらの弾幕は身をひねるような動き――例えるなら航空機のバレルロールのような――で躱され、彼の突進力はほとんど阻害されない。
本来ならそんな動きは次の一歩に遅れを生むはずだが、作り出した魔力の翼と尻尾を使って、巧みにバランスを取っているのだ。
「ぜあぁっ!」
「ちぃっ!」
突進に阻害魔法の重爆撃を重ね、側面に跳躍で逃れたが、こちらを見もせずに振るわれた槍の切っ先が、ほんの目の前を過ぎ去っていく。
まだ捉えられていないが、それは「まだ捉えられていない」と言うに過ぎない。
試練で培われた俺の戦闘本能が、より致命的な――つまり完全解除などの魔法を使えと訴えてくる。
だがそれではこの訓練に意味がなくなってしまう。
ズーグの攻め手を正面から、正攻法で、真っ当に凌ぎ切らなければならない。
そうすることで彼に力を示したい。
それが今の俺の、心からの望みだった。
「そういうつもりで受けて立った訳じゃないんだけどな……」
実際、当初は互いの力を試すだけ、といった認識だった。
だがズーグの竜魔法を目の当たりにし、神気憑依で強化された俺の魔法をああも鮮やかに凌がれては、俺にも欲が出てくるというものだ。
ズーグは尾を振り、翼を振り、それらで降りかかる魔法をかき消して進む。
槍の切っ先はまるで竜の顔をかたどっているかのような大きなオーラを纏い、何度魔法を浴びせかけ回避動作を取らせても、すぐさま俺に向けられる。
その姿はまるで、魔法の中を空中遊泳する一体の竜のようだ。
あの男を正面から凌駕したいと思うのは、一人の戦士なら当然の願望だろう。
「武具生成! 物体操作!」
いよいよ突撃が近接の間合いに近付くようにきて、俺もそれ用の魔法を唱え準備する。
だが、この魔法の扱いはズーグも勝手知ったるもの。北方精鋭部隊のガウムの時のように簡単に術中には嵌まらないだろう。
「舐められたものですね……」
ズーグも同じ考えか。
実際のところこの魔法の盾の運用は、利点も欠点も含めて、ズーグやトビーと共に作り上げたものだからな。
複数の盾の細かい操作は、意識を拡散させるため注意力が減少する。
作り出された魔法の盾一つ一つの動きの精度は実はかなり低い。
そして削がれた注意力は、そのまま本体への直接攻撃の隙となる。
恐らく今のズーグなら、盾を全部打ち落としてからこっちに向かうことだって造作もないだろう。
だが、俺だって訓練を重ねてきたし、神息と覚醒という二大強化魔法に加え、神気憑依の大魔力に下支えされた魔法力がある。
それにもう一つ。
「魔導壁」
受けの魔法の追加である。
「そんなもので、私を止めるつもりですか?」
白竜のブレスを防いだ魔法ではあるが、あれは範囲攻撃に対して範囲防御を使用した形で、相性が良かった部分もある。
ズーグが言うように、これで彼の突撃を受け止め切れるかと言えば、まったく心許ない防御力だ。
それを踏まえてもなお、この魔法を唱えた理由がある。
当然それは、これが新しく開発された魔法の一つだからだ。
「勝負」
俺がそう言うと、ズーグは更に魔力を放出し、竜魔法に強化を加える。
「へぇ……」
それを見て、一瞬不覚にもちょっと感心してしまった。
魔装術の一種とは言っても、呪文が必要――つまり魔法的要素を含んでいるはずの竜魔法が「後から魔力を追加できる性質」を持っていると言うことだからだ。
魔法の行きつく先というのは、同じなのだろうか。
そんな感慨を、この激しい戦いの中でふと思ったのだ。
「はぁぁぁぁあああっっっ!」
力の抜けた俺の意識が、ズーグの気合の声と共に引き延ばされていく。
ゆっくりと、時間が進む。
増大した竜魔法、その尾と翼と槍の切っ先をもって、ズーグが真っ直ぐ俺に突っ込んでくる。
俺は慎重に立ち位置を変え、武具生成で作った盾を動かして阻害を仕掛ける。
盾は槍と尾をもって容易く打ち払われた。
「雷拘束」
最大数の発動。電撃で五重の拘束を行うが、翼によって引きちぎられた。
「獲った」
ズーグの小さな呟きが俺の耳に届く。
と同時、地面を割るほどの踏み込みと共に、一条の光と化した槍の突き込みが。
魔法の障壁に向かって打ち出されるのを、俺は目撃した。
そして。
「多重・装填障壁」
俺の唱えた一つの魔法が。
魔法障壁を突き破って俺に向かってくる槍を。
その障壁の内側から十重二十重に発生し、受け止め。
そして……完全に停止させた。
======
ズーグの槍が、多層の魔法壁に食い込んでいる。
それ以上突き込もうとしても、何枚かの魔法障壁が破れるだけで、貫通するには至らない。
「ぐっ、ぬぅっ……!」
装填障壁という魔法は、魔力を追加することで障壁の強化を行うことができる。
もちろんそれによって得られる防御力は、非常に高いものがある。
多人数で行使すれば強固な壁となるだろう。
ただ、当初この魔法の性質では、壁を分厚くするイメージになるため範囲魔法には強くとも、一点突破には弱いと言う弱点を克服することはできていなかった。
そこで俺の発案で開発したのが、魔法を複製する術式を組み込んだ「多重・装填障壁」という魔法だった。
この魔法は範囲攻撃への防御力という点で言えば、通常のローディングシールドと同等となる。しかし一枚一枚の障壁は破壊されやすく、その分の魔力を補填しないといけないため、コスパはかなり悪い。
その一方、一点突破に対してはかなりの防御力を誇っている。もちろんコスパはお世辞にも良いとは言えないが、複層構造によって攻撃の魔法的性質を減衰させやすく、内側から次々に発生する魔法障壁が、弱まった貫通力を更に弱める。
一点防御に対する検討はずっとされてきた命題らしいが、一つの回答と師匠にも言わしめた魔法だった。
もちろん、かなりの量の魔力を込める必要はある。実用には複数人で行使するか、俺の神気憑依といった補助が無ければ運用は困難だろう。だが逆に言えば、俺にとっては相当に信頼できる防御魔法なのである。
「……っ、ぜぁっ!」
ズーグが槍を引き抜いて再び突きを放っても、結果は同じ。
俺は攻撃後の死に体に、拘束魔法を浴びせかける。
余裕が生まれたことで、今度は魔法強化魔法をたっぷり乗せている。
数も十分。ズーグは竜魔法の翼や尾で対抗はするが、それらも不壊ではない。つまり最終的に、物量を押し付けられたズーグの竜魔法は、魔法同士の衝突で削られ消滅し、俺の拘束が完全に決まる結果となった。
「……参り、ました……」
「……よし」
ズーグから降参の言葉があって、魔法を解く。
拘束から解放されたズーグは、膝から崩れ落ちて大の字に寝転んだ。
「おいおい、そんなに疲弊してたのか?」
「魔力欠乏と言うやつですね……。初めて経験しましたが、これは中々……」
確かにズーグは竜魔法に相当魔力を注ぎ込んでたっぽいからな。
それを俺が全部削り取ったから、欠乏状態になったんだろう。
身体強化の魔力消費は、外に放出する魔法と比べて極めて微量らしいから、ズーグが魔力欠乏を経験したことがないのも当然か。
さっきの戦いみたいに、あのズーグを追い詰めるような相手もそうはいないだろうしな。
「まぁ、激しい戦いだったからな。見てみろよ」
ズーグに手を差し出して引き起こしながら言い、改めて周囲を見渡す。
辺りは俺がさんざん打ち込んだ魔法や、ズーグの踏み込み、竜魔法の尾や翼を振り回した形跡が至る所に残っている。
ありていに言って、惨状と表現できるレベルだろう。
「我ながら、よく生きていたという戦いでしたからね。手加減はされていたようですが」
「仕方ないだろ。解除魔法なんかやったら興醒めだし、火力のある魔法はマジでヤバいんだって」
「これから見せていただけるのでしたか? そちらも楽しみです」
「そうだ。まぁそのせいでこの惨状がもっと酷いことに……いや、惨状ごと綺麗さっぱり消えてなくなるかもしれないな」
と言いつつ、地表付近に向けてあれらの魔法を打つつもりは無かったりする。
あんまり大地を壊してもアーテリンデさんに悪いしな。
「ところで、第二の目標は達成できたか?」
「ええ、それは大丈夫でしょう」
第二の目標とは、つまり決戦に参加する竜人二人へのデモンストレーションである。
戦いの途中、拳を握って見入っているさまはちらっと見えたが、今は脱力して呆けているから効果はあったと見ていいだろう。
怖気づかないか若干心配ではあるが、その辺は説明――つまり主力の中心とまでは考えてないことを教えてあげれば大丈夫だろう。
もちろんここまできたら嫌がっても引きずって……じゃなくて、説得して連れていくつもりではあるが。
「少し休憩するか?」
「俺のことは気にしないでください。旦那が問題無ければ、このまま始めても大丈夫です」
そういう訳なので、ズーグには少し離れてもらうことにする。
他の竜人たちの所まで移動したのを確認し、俺は再び神気憑依を発動させた。
さて。
新魔法の試し撃ちだ。
よろしければ、ブクマ・評価をお願いいたします。





