表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
98/1486

第98話


 俺たちは、次の目的地に向かって移動している。


 「私達の父は魔族でした」


 メイはそう言って語り始めた。


 「父の名前はヴェルデウス・オグル。鬼人(オーガ)族の戦士です」


 オーガ。

 戦闘タイプの魔族で、鬼のような容貌が特徴だ。

 戦闘タイプの魔族は基本的にみんな強いが、オーガはその中でもトップクラスの強さを誇る。


 「国内でも指折りの戦士だったと聞きます。人望も厚く、気のいい人でした」


 「へぇ」


 「父はとある任務で、国内のある集落に向かうことになりました。そこにいたのは吸血鬼(ヴァンパイア)族でした」


 吸血鬼族は、血液を吸って魔力を供給できるスキル【ブラッドドレイン】が使える種族だ。

 

 「吸血鬼族は度々人間を攫って奴隷にしていました。もちろん魔力供給も。当時国では魔王様が人間の隷属を禁忌としていたので、彼らのやっていたことは罪になります」


 魔王………世代的にリンフィアの親だ。

 おそらく、人間を身内に迎えたことが人間の隷属禁止の原因だろう。


 「父は、そこで吸血鬼族と戦いました。敵は数十人いましたが、一切傷を負うことなく勝利したそうです」


 「ほう………」


 それは関心を持つに値する。

 吸血鬼族といえば武闘派が多い。

 特に奴隷という違法行為を行なっていると言うことは強い奴もいただろう。

 それを無傷で勝つとは。


 「父達は捕らえられていた人間達を解放しました。その中の1人が」


 「お前のお袋さんか」


 メイはゆっくり頷いた。


 「母は、その中でも特に虐げられていて、救出した時には目も当てられない程ボロボロだったそうです。そこで父は母を連れて帰ることにしました」


 「それ絶対反対されただろ」


 「ええ、中にはこの場で死なせてやったほうがいいという意見もあったそうです」


 「だろうな」


 魔族の中には人間を毛嫌いしている奴も少なくない。

 助けた後どんな目に遭うかは火を見るよりも明らかだった。


 「しかし、父は反対を押し切って連れ帰り、そのまま養ったんです」


 「おお、それはカッケーな」


 「ふふ、そうですか? 理由は詳しくは知らないです。ただ、その選択があったから私と姉は産まれていたんだと思ったら………」


 そこで一旦言葉が途切れた。


 「すみません、続けます。そうして父は母と暮らし、やがて結ばれ、私たちが生まれました。その頃にはもう母も魔族達に受け入れられていました。でも………」


 メイの表情が曇っていく。


 「………ある日、起きたんです」


 「………」


 「魔族至上主義を掲げる国の重鎮達による過去最大の事件、【終焉ノ十二】が」


 「終焉ノ十二………?」


 「名前の由来は、事の中心人物が12人であること、国家転覆まで1年、つまり12ヶ月要したこと。その他12にまつわる事柄からきています」


 「うん………それで?」


 「()()()彼らは国内の人間を奴隷にしていきました。その中にはもちろん母も………」


 だろうな。

 あいつらの徹底っぷりは常軌を逸している節がある。

 しかし、最初のってのは引っかかる。


 「父は魔王様と共に、人間との共和を掲げる共和派を立ち上げました」


 そうか、リンフィアの親も片方は人間。

 自然とそうなるってことか。


 「しかし、集まった人数は魔族至上派の僅か5分の1程度。どう考えても勝ち目はなかった。でも………」


 「でも?」


 「どういうわけか共和派が勝利したのです」


 「は!?」


 どういう事だ?

 なんでひっくり返せた?


 「私も訳がわかりませんでした。ですが、()()()()()()、魔族至上派の大半がひっくり返ったのです」


 何だ………?

 何をしたんだ?


 気になるが、これだと決定するにはことを知らなさすぎる。


 「そして、何故か魔王様が急死されたのです」


 「………………!!!」


 リンフィアの家族が死んだ。

 いないのは知っていたが、そんな事件が原因だったのか。

 いや、直接的な原因はわからない。


 「後を継がれたのは、そのご息女だとか。彼女のことは国でもほとんど広まってはいなかったので、皆戸惑っていました。その弟のランフィール様が継がれると皆思っていたので」


 確か、前にリンフィアが『一度はその座についた』と、言っていた。


 それはこの時だったのか。

 あいつ弟がいたんだな。


 「ん? 待てよ? それじゃあその事件で親父さん死んでないだろ」


 「いえ、そうではないです。最初に言いましたよね? “最初の彼ら”って。今までのは例の事件ではないです。“終焉”はまだ始まってもいなかった。そう、真の終焉は、新たに現れた者達によって引き起こされたのです」


 「なっ………」


 「王が変わる時。彼らはそれを狙っていた」


 「まさか………」


 リンフィアが、親を失ったのも、奴隷に落とされたのも、


 「彼らは王を利用して、王弟や王に忠誠を誓った臣たち、そして父を………誅殺しました」


 そいつらのせいか——————


 いや、リンフィアだけじゃない。

 こいつも、マイも、その連中のせいで全てを失った。


 「市民を苦しめ、傷つけ、殺した狂王とそれに与する裏切り者。その烙印を父は押されたのです………!」

クーデターから事件に変えました

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ