第87話
「あった、居酒屋」
少しボロッとした感じの店だ。
だが、そこが何と無くいいなと思う。
居酒屋だーって言う雰囲気がすごい出ている。
「よーし早速………」
「うおあああ!!!」
入口から人が吹き飛んで来た。
俺は真正面にいたので、そのままキャッチして床に置いた。
「おいおい、物騒だな。大丈夫か?」
「あ、ああ。ありがとう。イタタ………」
エプロンをつけている。
どうやらここの従業員らしい。
痛いと言ってるのはどうやら腕の怪我が原因のようだ。
飯が食えないと困るな。
「ヒールでいいか」
俺はとりあえず【ヒール】をかけておいた。
この程度の傷ならこれで治せる。
「いたたた………た? あ、あれ、痛くない」
「どうしたんだ、にーちゃん。訳があったら聞くぜ」
「それが………わあ!!」
今度は酒瓶が飛んで来た。
とりあえずキャッチ。
「暴れてるんだな?」
「う、うん。今度の大狩猟祭に出場する冒険者達が集まっていたんだ。それも店がいっぱいになるくらいに。そうしたら」
冒険者同士で喧嘩を始めたらしい。
とんだ迷惑者だ。
「従業員の女の子が止めに入ったんだけど、捕まっちゃって………助けようとしたらこのザマさ」
「なるほど………ちょっと待ってろ」
「え、ああ、危ないよ! すごく強そうな冒険者達が沢山いるんだ! 君みたいな子供が入ったら………」
どうやら心配してくれているらしい。
良い人だ。
「なぁ、にーちゃん。これ収めたら、酒奢ってくれよ」
「え?」
俺は店の中に入った。
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中は酷い有様だ。
店はボロボロ。
従業員も巻き込まれている。
中には武器を出している奴も。
「死ねや! コラァアア!!」
「消えろ雑魚が!」
「へっへっへ、可愛いネーちゃんだなぁ」
完全に無法地帯。
「………」
俺はその中の一人の肩を掴んだ。
「あ? 何だこの——————」
威圧を発動。
その冒険者は一瞬で硬直した。
「そんなに遊びてェなら」
俺はそのまま地面に埋まるくらい叩きつけた。
床の板が割れる音が店中に響いた。
一際大きい音を聞いて、全員がこっちを向いた。
「疲れて寝るまで遊んでやるよ、ゴミが」
速やかに終わらせるために強化を使う。
「このクソガキッ!」
今埋めた奴の仲間だったのか、周辺の冒険者4人が一気に向かって来た。
「潰れとけや」
俺は一瞬で全員を同じく地面に埋めた。
そして同時に魔法で追い討ちをかけつつ右に飛び、そこの冒険者の頭を蹴って気絶させる。
従業員を襲っていた冒険者には少し痛めつける事にした。
両足の骨に少しだけヒビを入れ、崩れる瞬間に顎を殴って、脳震盪を起こさせた。
最後に奥で酒瓶を持って暴れていた連中は、さっきの酒瓶のように放り投げて壁にぶつけた。
この間10秒も無かった。
「よーし終わった。弁償くらいしろよー」
と言いながら、全員の財布から半分を徴収して行く。
「退治完了。アンタら怪我ァねぇか?」
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とりあえず冒険者達は、街の警備隊に持っていって貰った。
喧嘩してたって言ったら案外すんなり終わった。
日本と違って適当だな。
「ありがとう、ケンくん。君のおかげで怪我人も少なくて済んだ」
「良いって別に。大したことはしてねーよ」
「店を元どおり以上に直してくれて………本当にありがたいよ」
俺は壊れたテーブルなどの修復を行い、可能な限り店を元に戻した。
だいたい木製なので、固めた後に土魔法で補強して以前より頑丈に作り直している。
剥がされた塗装は上から魔法で塗り直したりした。
「あんま何回も言わなくて良いって。飯くれてるんだからおあいこだ。あ、これ美味いな」
「それはムコラドの佃煮だよ」
「へぇ、あれってこんな風に出来んのか」
ムコラドというのは魚の一種で、途轍もなく硬い。
とても食えたもんじゃないが、調理次第では食えるようになるらしい。
今度俺も作ってみるか。
「それにしてもケンくんあんなに強いんだねぇ。冒険者かい?」
「ああ、まだGランクだけどな。あ、これも美味い」
「Gランク!? 君ほどの力でかい!?」
ああ、なるほど。
この人は知らないのか。
「ついこの間登録したばっかりだからな」
「ああ、なるほどね。ところで君は大狩猟祭には出るつもりかな?」
「出るつもり」
「じゃあ、チャンスじゃないか。最優者にはランクアップの報酬もあるそうだからね」
「マジで!? それは良いこと聞いたな」
やっぱりこういうところでは情報が集まるんだろう。
ランクアップか。
できればAくらいにはなりたい。
「じゃあ、あいつらには尚更修行させとかないとな」
「お仲間さんが?」
「ああ、子供と女二人。うち一人はアンタも知ってるであろう《女王》だ」
「《女王》!? じゃあ君が《金髪のガーディアン》かい?」
俺は思わず酒を吹き出した。
「ゴホッゲホッ………え? なに、それ広まってんの?」
「知らないの? 君は多分この街では結構有名になってるよ。チンピラ冒険者を吹き飛ばしたとか、ギルドマスターと戦ったとか、女性冒険者でハーレムを作ろうとしてるとか」
「最後のは根も葉もないデマだな。うわぁ、そんな事になってんのか」
何てこった。
ギルドの中だけかと思ってたのに。
「え? 他のは本当なの?」
「まぁな。でもあんまり言いふらすなよ」
「すごい! あのダグラスさんと戦ったなんて!」
「ん? 知ってんのか? おっさんの事」
「うん。ツケがもうかれこれ銀貨40枚くらいになるよ」
「あいつホントクソだな」
メイにもツケとけって言ってるのを聞いたことがある。
「もうちょい頼んで良いか? ほいこれ」
俺はポケットから金貨一枚置いた。
「きん———! ちょっ、受け取れないよ!」
「良いよ別に。今から両替するのも面倒だし。今日は儲かったしな」
俺は無理やり金を渡してもっと食う事にした。
すると、一人の客が現れた。




