表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/1486

第33話


 「行くぜぇ………ボウズッ!」


 ダグラスの武器は短剣。

 間合いが遠いと当たらないが、懐に入られると厄介な武器である。


 「来い」


 よく考えてみれば俺にとってこの戦闘は、魔法をまともに使った相手との初戦闘だ。

 驕らず、油断せずに行こう。


 ダグラスはまっすぐ突っ込んでこなかった。

 演習場を縦横無尽に駆け回る。

 

 右から来るか、左から来るか、はたまた中央か、それとも、


 「上か?」


 「残念」


 ダグラスは、


 「後ろだろ?」


 後ろにいた。

 俺はダグラスと自分の間に木刀を滑り込ませる。


 「!」


 背中への攻撃を刀身で防ぐ。


 「テメェ………」


 「本気で来いよ」


 ダグラスは少し距離をとった。

 すると、ゆっくり魔力を貯め始めた。


 「それじゃあ、望み通り、本気でコテンパンにしてやんよ!」


 貯めた魔力を足に集中させ、ブーストによる機動力をさらに引き上げる。

 ブーストによって引き上げられる身体能力は総量が決まっている。

 他を上げようとすれば他が下がる。

 ダグラスは攻撃力より手数を優先させたようだ。

 

 「フッ」


 「!」


 俺は少し警戒度を上げた。


 「シィッ!」


 右から弾丸に如く飛んで来るダグラス。


 「くっ」


 俺は木刀でいなして左へ流す。

 しかし次の瞬間既に二撃目が飛んできていたので、


 「やば………」


 「オラァ!」


 流しきれず腕を刃が掠めた。

 その後も連撃が続く。


 「どうした! 受けてばっかじゃあ勝てねぇぞ!」


 「チッ」


 これではキリがない。

 対策法を考える。

 ジッと観察する。


 「右、動きは………こう、左は………なるほど、タイミングは0.2ズラして………いやもう少し前」


 考える。

 考える。

 ただひたすらに弱点を探す。

 そして、


 「これだ」


 閃いた。

 これでいける。


 「終わりだ、ボウズ!」


 左からの突進。

 俺はそれを、


 「この位置か」


 体の中心に持ってきた木刀の刀身に当て、体をずらして躱す。


 「!」


 「これの対策はこうでいい」


 軸は変えず、木刀の角度を調整しながら流し続ける。


 「小回りは利くが攻撃が出来ないな」


 魔法は使いたくないのでどうしようかと考える。

 今回は剣だけで戦うと決めてあるのだ。


 「それなら………」

 

 木刀を真ん中で短く持つ。


 「ほっ」


 正面から受けて、ダグラスの動きを止めた。

 ダガーと短い刀身同士でぶつかり合う。


 「どうだ?」


 「がっはっは! これを止めるか。今まで数回しか止められたことねぇってのによ」


 ダグラスは額に小さく汗をかいている。

 少しは焦っているらしい。

 ダグラスは飛び回るのはやめて、ダガーを使って斬り合いを始めた。

 流石に手数は向こうが上。

 しかし、策はある。

 癖は変わってない。


 「右がガラ空きだァ!」


 ダグラスが突っ込んでくる。

 勝利を確信した笑みだ。

 しかし、攻撃が当たっていたのは、


 「開けてたんだよ、バーカ」


 俺の方だった。

 ダグラスの腕に沿って肩に木刀を持って行き、そこを支点にダガーを跳ね上げる。


 「アンタは右からの攻撃の0.2秒前後に隙を生じさせる癖がある。それは致命的だぜ。そのタイミングにダガーを跳ね上げる。その後は、」


 首もとに木刀を当て、


 「俺の勝ちだ」


 「チッ、これ使うことになるたァな」


 その瞬間、ダガーの魔力が膨れ上がった。


 「!」


 俺は反射的に飛び退いた。

 そうしなければ爆発に巻き込まれて木刀が折れていただろう。


 「よっ、と」


 ダグラスは落ちてきたダガーをキャッチする


 「魔法武具………能力は爆発か」


 魔法武具。

 魔法具よりずっと生成が難しいアイテムだ。

 魔法具職人は世界にごまんといるが、魔法武具職人はほんの数人しかいない。

 俺はこの事実を後で知るのだが、今わかるのは、これがいかに凄いものなのかという事だ。


 「ご名答」


 「はぁ………続行か?」


 正直面倒くさい。

 だが、ダグラスの方は俄然やる気だった。


 「当たり()ェだ!」


 ダグラスはダガーを振り上げた。

 鋒が怪しく光ると、その瞬間、


 「マジかよ………!」


 爆撃が俺を襲った。

 連なった爆発はまっすぐに周りを巻き込みながら俺へ迫る。

 その速度はダグラスより上だった。


 空中はまずい。

 とりあえず後ろ………いや、


 「こればっかはリフィに感謝だな」


 俺は爆撃のすれすれを狙い、右前方へ跳んだ。

 不利だからこそ、そこを狙えば突破口は見つかる。


 「おいおい、それは正気か?」


 ダグラスもまさか爆撃に突っ込んで来るとは考えておらず、面食らっていた。

 そして、ダグラスは距離をとった。

 そこから見える事実が一つ。


 「はっ、見えたぜ。そのダガー、」


 どんどん跳んで近づいて行く。


 「クッソ、気づかれちまった………」


 焦りからか、ほんの僅かに爆撃の向きがブレている。

 俺は確信した。

 こいつは接近されたらマズイ事情を抱えている。


 「ここまできたらアンタも無闇に爆破できねぇだろ?」


 「………ああ」


 接近時、この爆破は使えない。

 なぜなら、この爆破で使用者自身もダメージを負うからだ。


 「ここまでか………わーった。俺の負けだ」

 

 ダグラスは降参した。

 このまま戦っても十中八九俺が勝つ。

 それを見越しての降参だ。




 「ふぅ、どうだ? わかったか? 俺をギルドに入れるのはメリットだと思うぜ」


 「その条件でそこの嬢ちゃんを入れろってんだろ?」


 「流石にわかってたか。で? 返答は?」


 ダグラスは少し間を置いて神妙な顔になると


 「………許可できない。入れてやりたいのは山々なんだがやはりデメリットが大きすぎンだ」


 「俺が入るメリットを差し引いてもか? 少なからず利益は出るぜ?」


 「差し引いてもだ。確かにお前さんは強い。魔法武具を持った俺が降参するほどにだ。だがな、そんなお前さんでも流石にここの冒険者の総力より強いってこたァねぇだろ。そんなことはあり得ねぇんだ。それくらいの強さを持ってたらこのデメリットをひっくり返すくらいわけねぇ」


 やはりギルドマスターとしてここの運営には慎重になっているようだ。

 だが、こいつは一つ勘違いをしている。


 「それにな、今は女王っつう戦力が入ってきてンだ。利益は十分出てるんだからよ………」


 「それは違うぜ、おっさん」


 このタイミングだ。

 ここが一番効果的だ。


 「やっぱり俺を入れた方がメリットがでかい。断言できる。だから、」


 身を乗り出してこう言った。


 「俺達をギルドに入れてみねぇか?」


 ダグラスは呆れ顔になって、


 「さっき言っただろうが。お前さんは………」


 「俺と戦った時のことを思い出してみろよ。俺の状態をよ」


 「何を言って………なっ!」


 ダグラスは戦慄した。

 それはあり得ないことだからだ。


 「おい、そんな事が………マイ! 鑑定石もってこい!」


 「は、はい!」


 マイは急いで鑑定石を取りに行った。


 「信じられねぇか? 身をもって体験しただろ?」


 「………いや、現実が受け入れられねぇだけだ」


 



 マイは鑑定石を持ってきた。

 俺はさっき書き上げた紙をかざし、プレートを作る。


 「ほらよ」


 とったプレートをマイに渡した。


 「………………!!」


 マイは口に手を当てて驚愕していた。


 「リフィも見るか?」


 「いや、いいです。見なくても、ケンくんが強いのは知ってます」


 「そうか」


 マイはプレートをダグラスに渡した。


 「………」


 「一応、直に体験させてやるよ」


 俺は【クインテットブースト】を発動。

 さらに全身に極限まで高めた魔力を充満させ、一気に放出する。


 「次元が………違う………」


 全身に汗をびっしょりかいている。

 俺を恐れ、畏れていた。


 「もう一回聞くぜ、おっさん」


 そして、再びこう言った。



 「俺達をギルドに入れてみねぇか?」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 本気出せよ!?やっぱり馬鹿なところがあるな
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ