第193話
体が痛い。
キッチンで寝たせいだろう。
「………んん………んぁ、もう朝か………ん? うぉおッ!?」
布団を剥ぐってみると、ラビが寝ていた。
以前俺が作ったスラ左衛門寝袋を着ている。
ついでに目を開けていた。
「………何してんの?」
「いまワタシのへやせんりょうされてるのだ。もうここしかおちついてねられるばしょがない」
「あー………」
この宿のルームには4つの部屋がある。
リビングと寝室と多目的室とキッチンだ。
今、リビングでは綾瀬と七海と涼子が寝ている。
ちなみに端っこに高橋が追いやられていた。
俺の寝室(俺は基本的にリビングで寝ている)には、蓮とフィリアが寝ている。
フィリアの護衛のために蓮が付いているので、多分まだ起きているだろう。
リンフィア達の部屋には、リンフィアとニールと琴葉と美咲が寝ている。
ラビは本来ここだった。
よって俺は強制的にキッチンとなったのだが、これがまた狭い。
敷布団を持っていたから良かったが、最悪布団なしで寝るところだった。
「いや、それは関係ないか。お前リフィの部屋でも良かっただろ。あの部屋のやつなら誰でも布団入れてくれたろ?」
「うるさいんだ。ぜんぜんねない。ずーーーーーーーっとしゃべってる」
「うわっ、マジか。出たよ女子特有の集まったら延々と喋るスキル」
もちろん、中にはちゃんと寝るやつもいるが、 あの中には琴葉がいる。
アイツはオールの達人だ。
「おーじょさまのへやはおーじょさまがレンレンうるさいし、リビングはふつうにせまい。だからししょうのよこしかなかったんだ」
「はぁ、アイツら結局帰らねーもんなー………っと。そろそろ準備するか。全員叩き起こせ。王女はドアノックして蓮に起こせっつっとけ」
「はーい」
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「おはよー、ケンケン」
「ん〜〜………」
「あら、早いのね聖くん」
「うおっ、お前が飯作ってんのか、聖」
「あ、おはよう、聖くん」
ポツポツと起き始めた。
「ふぁあぁ………おはようです、ケンくん」
「んー。お前が眠そうにしてるとは珍しいな」
「………ちょっと夜中色々ありまして」
リンフィアがこめかみを掻きながら目を逸らした。
一体何を話したんだ。
「寝起きでワリィが、食器出しといてくれ。人数分」
「はい」
さて、まだ寝てる奴は………蓮が王女を起こしてるとして………ニールと琴葉か。
「お、噂をすれば」
「んぁが………はっ!」
かなり寝ぼけてるな。
「おう、起きたか」
「あ、ケンちゃんのごはんの匂いがする〜」
よく覚えてるな。
確かに今作ってる味噌汁の味付けは向こうにいた頃に作ってたものほぼ同じだ。
流石に調味料が違うので完全に同じとはいかないが。
「そろそろ出来るから、リビング行ってろ」
「ふぁあい」
のしのしと歩いて行った。
「………ケン」
「お、起きたか………うぉお!? どうしたニール!? 髪ぐっちゃぐちゃだぞ!」
「………あいつ、寝相半端ないぞ」
ニールはそう言い残すと洗面所に向かって行った。
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「ほら、食え」
「「いただきます」」
はぁ………俺は一体何してんだろうな。
と、思うが、客に飯作らす訳にもいかないし、コイツらの下手くそな飯食わす訳にも行かないので、結局消去法で俺が作る事になる。
「あら………美味しいじゃない。意外だけど」
「マジで一言多いな、オメー」
「あぁ………ケンケンメシ、やっぱウマシ」
「ん」
コイツら2人には何度か食わせた事があったっけな。
「マジで意外な特技だな。俺ここ数日でお前の印象ガラッと変わったわ」
「ほー、どんな?」
「傍若無人キングオーガヤンキーからオカン」
「よし、飯はもういらねーらしいな」
「おおおおお! 冗談だ! 勘弁してくれ!」
必死に飯を守る高橋。
「クラスメイトの連中にもこれ見せればお前へのイメージが変わるんじゃねぇか?」
「どうだかな。よく考えろ。ここにいるメンバーは俺と腐れ縁の2人と、バカ2人と、世論に流されないが頭デッカチの女と、ポワポワしてるよくわからん女と、面倒くさがりの極致に立つお前という奇妙なメンバーだからこそ、俺を敵視してないんだぜ?」
「お前ちょいちょいディスるよな」
「頭デッカチとは失礼ね」
「ぽ、ポワポワしてるかなぁ………」
「おいケンケン! バカって言った方がバカなんだぞ!」
「ん!」
「いや、お前らはまごう事なきバカだろ」
「う「ん」」
………話が逸れたな。
「オホン。あと数人くらいは俺に対する認識が変わると思うが、学校そのものが俺を腫れモン扱いしてたんだ。今さらそれに抗えるタマ持ってるやつがいるとは思えねぇ」
「んん〜………そう言われると何も言えねぇな」
「別にいいンだよ。俺も認識を改めて欲しいとは思わねぇし、今はコイツらもいるしな」
俺はリンフィア達の方をチラッとみた。
「つーかヤンキーで暴れてたのには変わりねぇし、 チンピラ共をしばき上げてたのは否定しようのない事実だからな。はっはっは」
「そうか〜。ならいいか」
高橋が再び飯を食い始めた。




