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第192話


 「っはーーっ! 疲れたな! 久々にいい運動したぜ」


 「む、あたしが本気で戦ったと言うのにその言い草はどうかと思う」


 「ははっ、ワリィ、ワリィ。てんちょー、おかわり追加!」


 「はーい」


 戦闘後、てんちょーの店で晩飯を食っている俺とラクレー。

 ラクレーも前と比べると会話してくれるようになった。

 剣を交えた事で、そこそこ通じるようになったのだろうか。

 まるで少年漫画だが。


 「それにしても、2人とも大怪我しないでよかったよ。君達レベルでの戦いだったら絶対にどっちかが重傷を負うだろうって兄貴に脅されてたからね」


 「アイツホント余計なこと言うな。今回は実力を合わせた状態に強化したからな。クリーンヒットはゼロだった」


 「へぇ、ラーちゃん相手によく無傷だったね。ファリスさん怒らせた時も無傷だったって聞いたよ? やっぱりすごいなぁ」


 「はっはっは。まーな」


 グイッと一杯飲んだ。


 「っはー! うま!」


 「子供とは思えない飲みっぷりだねぇ」


 「ガキの頃から飲んでるからな。何故かどれだけ度数高い酒飲んでも酔わねーンだよ」


 アルコールにすこぶる強いのだ。


 「タルとかもいける?」


 「それはまず腹に収まんねーだろ」


 「あはは。確かに」


 余裕で入るって言ったら引かれるだろうな。


 「確か、明日は兄貴のところでクエストを受けるんだっけ?」


 「ああ。聞いたのか?」


 「兄貴相当喜んでたよ。どのギルドも長年攻略出来なかったダンジョンをやっと攻略できるって。わざわざベラベラベラベラと長話を聞かせられて苦痛だったけどね」


 兄には当たりが強いてんちょー、サクラスである。


 「長年………まさか、あのダンジョン?」


 「あのダンジョン」


 「名前は………“龍姫の逆城”、だった気がする」


 「それそれ。なんだ、行ったことあンのか?」


 「理不尽としか言いようのないダンジョンだった。100層あるらしいけど、1層目でリタイアした記憶がある」



 「なっ、お前が一層でか!?」


 「頭が痛くなるダンジョン」


 あー、(察し)。

 なるほど。

 モンスター系じゃなくて頭使う系の方か。



 「わかった。よーくわかった。お前頭悪そうだもんな」


 「………てんちょー、 こいつ斬っていい?」


 「いや、ダメに決まってるでしょ」


 何やら物騒なこと言って、物騒なもの持っているが、スルーしよう。


 「ま、何にせよ。俺なら楽勝だな。俺の()()的に頭使う方が簡単だ」


 「君も見た目は相当頭悪そう。若気の至り丸出しすぎて痛い」


 「………てんちょー、こいつ埋め込んでいい?」


 「いや、ダメに決まってるでしょ」


 








———————————————————————————









 結構急いだが、もうそこそこ暗いな。

 俺はドアを開けて部屋に入った。

 


 「お帰りなさい、ケンくん」


 「おかえり、ししょう」


 「お帰り、ケン」

 

 「お帰りー、ケンちゃん」


 「お帰りん、ケンケン」


 「ん」


 「お邪魔してますわ」


 「お帰りなさい、聖くん」


 「お邪魔してるわよ、聖くん」


 「邪魔してるぜ、聖」


 「んーただいま」


 ………ん? なんか多くね?


 俺はリビングへ急行した。

 すると、案の定大人数いた。

 定員オーバー気味だ。


 「お前らは何故ふつうに寛いでいる」


 「堅いこと言いなさんなよ、ケンケン。お前のハウスという事はうちのハウスって事だぜ?」


 「七海よ。お前は何を言っている」


 俺はこめかみをグリグリ押した。

 しゅーっと煙が出ている。


 「あ、痛い。痛いよケンケン」


 「ヒジリ様、こんな狭いところよく我慢出来ますわね」


 「今現在進行形でお前らが狭くしてんだよ。つーかその様付け気持ち悪ィからヤメろ。こいつらみたいに呼び捨てでいい」


 見た目が妹に似てるので、苗字に様付けされるとモヤっとする。


 「じゃあ、ケン」


 ………すっごい上から目線を感じた。


 「………なんかそれはそれで違和感あるな」


 「妹に見立てているなら無駄ですわ。うちは権力争いで兄弟なんてみんな敵ですので、どうしても兄弟に親愛は持てませんの」


 なるほど。

 王族っぽいっちゃ王族っぽい。


 「じゃあ、呼び捨てでいい」


 「はーいですわ」


 フィリアは適当に返事した。


 「つーか、高橋は俺とそこまで面識ねーだろ」


 俺の中でこいつはクラスの中で好きでも嫌いでもない、割とどーでもいいモブキャラだったのだ。


 「お前今失礼な事考えてただろ」


 「ああ」


 「少しは否定しようよ」


 「まぁ、お前は他の連中と違って、俺の事を訳もなく嫌ったり、煙たがったりする事は無さそうだから別に構わねーからいいけどな」


 「訳もなく? いや、色々悪い噂が出てるじゃん」


 「ありゃ9割嘘だ。残り1割もかなり脚色された1割だ」


 「ちなみにどれ?」


 「コンビニヤンキー皆殺し事件(仮)」


 「一番エグいのが実話じゃねーか。そりゃ尾鰭や背びれもつくよ」


 「あれにはまー、色々ある。あれだって結局正当防衛だぞ? こいつの」


 俺はピッと琴葉を指差した。

 

 「殴ったのはしょうがないよ。あの時はケンちゃん相当荒れてたもん」


 「おうよ。それが今は超絶スーパー真人間でこのアホタレ3人の面倒を見てる冒険者だ」


 「真人間は髪染めたりしねーよ」


 「こりゃもう、俺のトレードマークだ。昔みたいな黒に戻したらお前らもうたまげるぞ」


 「お前黒だったの!?」


 「当たり前だろ純日本人だぞ。最初っから金髪なわけねーだろ」


 「なんか釈然としない………」


 「あ、そういやリフィ、こいつらいつ来たんだ?」


 「さっき外に買い出しに行ってたら偶然会ったんです。そのままここに来るか聞いたら来るって言ったので」


 俺はやれやれとため息を吐いた。


 「仕方ねー………暗くなる前に帰れよ」


 「とてもヤンキーのセリフとは思えないわね金髪」


 「はっ倒すぞ万年2位」


 「あんたこそぶっ飛ばすわよ金髪ヤンキー」


 喧嘩腰の綾瀬である。


 そして、 こいつらは結局、うちで一晩明かしたのだった。

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