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第184話


 「お前、よく無傷で帰ってきたな………」


 ダグラスがしみじみと言った。


 「俺もこの女も本気じゃなかったからな。完全に探り合いだった。最初のあれは殺気タップリだったけど。通信魔法具はまだ繋がってるか?」


 「いえ、切れましたわ。あれだけ強い魔力の嵐の中では流石に通信もままならないようですわね」


 だろうな。

 さて、もう一回かけるか。


 「頼めるか?」


 「わかりましたわ」

 

 俺はフィリアに電話をかけてもらった。



 「ケンちゃん魔法も剣もできるの?」


 「ああ、1年の修行期間に粗方魔法を覚えた。剣に関しては完全にイメトレだな。技術は確実に昔よか格段に上がってる。スキルがなかった分をそこで補ったンだよ」


 「………それでも1年でそこまで変わるか?」


 蓮から疑問が投げかけられた。

 確かに当然の疑問だ。


 「まー、そう思うのはしゃーねーわな。んー、お前ら二人には言っとくか」


 俺は、神の知恵について、蓮と琴葉に説明した。


 「なるほど。じゃあ、特異点ってのは実在してたんだな。おとぎ話じゃなくて」


 「おう。今目の前にいるぞ」


 「んー、よくわかんなかった!」


 「うん、知ってる」


 お前じゃ理解できないことはよーーーく知ってる。

 いくら俺が教えても定期テストでドベ3から抜け出さないのがその証拠だ。


 「ひどい!」


 「あまりいじめるなよ、ケン」


 「へいへい。そーいやこの話打ち明けたのはお前らが最初だな。こう言うやりとりも久々だ」


 「………ああ」


 と、そんな感じで俺らが懐かしんでいると、


 「あーーー!!」


 琴葉が騒ぎ始めた。


 「何だ? どうした」


 「ケーキ貰ってない!」


 「お前ホンッットにどうでもいいことだけは覚えてるな! ぐおッ!?」


 頭に巨大な何かが乗っかった。


 「だーれ………」


 「これしてくんのはお前だけだぞ、七海」


 「ぶー、つまんないぞケンケン。おや? 頭が全然揺れない」


 「ステータスが上がったからな。そんくらいじゃうんともすんとも言わねーぞ。だが重いもんは重いから降りろ」


 「何おぅ! ウチだって乙女なんだゾ!」


 七海が髪の毛を引っ張ってくる。

 痛い。


 「いててて! 髪の毛はいてーんだよ! おい涼子! 引っぺがしてくれ!」


 「ん」


 涼子は七海をくすぐった。

 耐え切れなくなった七海はそのまま地面に転げ落ちた。


 「へぶっ!」


 「うはは! ザマミ!」


 俺は七海に大笑いしてやった。


 「涼子よ、素直なのはお前だけだぞ」


 「ん」


 涼子は頭を突き出してきた。

 撫でろと言う意思表示らしい。

 こいつは撫でると結構喜ぶ。

 ネコかよ。


 俺はいつも通り頭を撫でてやってると、昔のことを思い出した。


 学校に行ってるいつもの日常。

 俺の居場所は家にはない。

 誰もいないのだから。

 ここだけだった。

 こいつらだけだったのだ。

 不良だと忌み嫌われている俺を受け入れてくれるのはこいつらだけだったのだ。

 今はここ以外にも居場所はできたが、やっぱりここは居心地がいい。


 そんな事を思い出していた。


 「あ、聖くん。王女殿下が呼んでるよ」


 美咲が呼びにきた。


 「ん、サンキュー………どした?」


 美咲はじーっと俺たちを見ていた。


 「やっぱり、視点が変わると、聖くんがただの不良じゃないって思えるね」


 「あー、なんかお前、俺と話す度にビビってたからな。不良ってのはあってるけど」


 「知ってるよ。悪役になっても悪人にはならない、だっけ?」


 ぬぐ………やなこと思い出させてくれるぜ。


 「やめろやめろ。ありゃつい口に出てしまった恥ずかしい言葉ランキングかなり上位だ」


 「あはは。うん、わかった。早く行った方がいいよ」


 「おう」


 俺はフィリアのいるところに向かった。






 「えらい遅かったな」


 「誰のせいだと思ってるんですの?」


 「さーせん」


 流石にこの辺の魔力乱しすぎたか。

 つーかこの通信の魔法具がボロっちぃのが原因だよな。

 もうちょっと魔力の強度上げるなり、なんなりすれば良いのに。


 「では、変わりますわ」


 フィリアから通信魔法具を渡された。


 「変わったぜ」


 『気は変わらぬか?』


 「開口一番それかよ。ああ、あんたの部下になる気は無い」


 さて、取引開始といこうか。


 と、思ったその時。


 「借りるぞ」


 「お、おい!?」


 ファリスが俺から通信魔法具を奪っていった。


 「アルスカーク」


 『………また主か。ん? まさか、そこにいるのか?』


 「ああ。ちょっと野暮用でな。話は聞かせてもらった。お前、この少年を勧誘してるってな」


 『そうだ。お主には関係あるまい。直ぐに変われ』


 「やだ」


 『は?』


 何言ってんだこいつ?

 やだ?

 いや、アンタ関係ないだろ。


 「関係ないとか思ってるなら、残念だが、たった今から関係する事に決定した」


 そう言うと、ファリスは俺の目の前まで来た。


 「?」


 そして、その口から思いもよらない言葉が出てきた。


 「少年、うちに来ないか? お前を、ミラトニア王国中央魔法学院に推薦する」



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