第167話
「予想通りっちゃあ予想通りだけどよ………」
帰還などしていない。
奴らは何事もなかったかのようにこの街に残っている。
「よくもまあここまで虚仮にしてくれたなぁ………………!」
そうか。
覚悟の上なんだな。
じゃあ、何されても文句はいわせねぇぞ。
上等だ。
誰に喧嘩売ったのか分からせてやる。
「………後悔しろよ」
「!?………ケンくん?」
多分ものすごい顔をしていたのだろう。
メイが少し怯えている様子が伝わって来た。
「メイ、ちょっと抱えるぞ」
「え? ケンくん何を………」
俺はメイを持ち上げて、路地裏の壁を蹴って建物の上に登った。
目指すは中心だ。
屋根伝いにギルドへ戻る。
ギルドにたどり着いたら、そこでメイを下ろした。
「マイが待ってるから中にいろ」
「どう、なさったんですか?」
「ちょっとだけ、 イラついてンだ」
ギルドが立って(建って)いるのは街のど真ん中だ。
ここなら、いいな。
見渡せる。
俺はゆっくり目を瞑った。
魔力感知。
人間と魔族の魔力の質の違いは分かりづらい。
だから、裏技だ。
神象魔法とは、厳密には魔法では無い。
MPを消費するので、魔法だとカテゴライズされているが、モノ自体は全く別のものだ。
これは、理に干渉する。
世界に干渉するものが魔法。
つまりどういうことかと言うと、この世界にのルールに則った法則を魔力に組み込み命令する。
しかし、神象魔法は別だ。
これは、ルールを外れたイレギュラーな力。
異常なまでの魔力と、桁外れの才能が、それを使う事を可能にする。
ゲームのチートと一緒だ。
システムによって、決まった攻撃を行うのではなく、外からプログラムに干渉して全く別物に変えてむちゃくちゃにするという事である。
今からする魔力感知に、その神象魔法の法則を利用して、細かい魔力の感知を行う。
「さぁ、何処だ。魔族共」
頭の中に街のイメージが広がる。
小さな粒一つ一つが町民だ。
俺の真下にいる一際大きい粒がギルファルドだ。
ギルドにはいない。
いた。
成る程、スラムか。あそこなら確かに目立たない。
そして俺は運がいい。
全員集まってる。
一網打尽にできる。
向こうには少しマズイ弱みを握られているが、おそらく何も起きない。
向こうにとっても簡単にはことは起こせないはずだ。
気にする必要はなし。
中に人間の気配はないか。
よしよし、ますます好都合だ。
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「我らが王からお達しだ。当初の冒険者のみを対象とした計画は失敗。そして、イレギュラーの発生により、十二の王の数名はご帰還なされた」
「なんだと………!」
「そんな………」
魔族達は驚愕の色を隠せない様子だった。
すると、前に出ている魔族が大声をあげた。
「狼狽えるな! 馬鹿者共め。作戦はまだ終わっていない。今から街に散らばって町民を皆殺しにする。我々の民になるはずだったもの共だったが致し方ない。こうなって仕舞えば奴らはただの敵。遠慮なく殺して仕舞え!!」
「うおおおおおおお!!!」
部屋の隅には、ゼロの姿があった。
そして、ゼロは前に立っている男に声をかけた。
「おい、気をつけろよ。お前が言ったイレギュラーは俺をも凌ぐ強さだ」
「なっ………! それは誠にございますか?」
「ああ。危険だと判断したらすぐ逃げろ。お前たちに死なれては困るからな」
「何という勿体無いお言葉。了解しました」
魔族の男はくるっと振り返った。
「聞いたか、貴様らァ! 今のご指示を忘れる事なく任務に向かうぞ! 私に続けッ——————げぎぐぉおおおおおお!!!?」
男は扉を開けようとした瞬間、蹴り飛ばされ、奥の壁まで飛んで言った。
俺は足を再び曲げて、ドアを蹴り壊した。
「どぉもー、イレギュラーでーす。テメェらをぶっ殺しに来ました」
「!! 貴様………」
「お、ゼロか。悪いが後でな。今虫の居所が悪りぃんだ。いくら同郷のお前でもうっかり………」
前を睨みつけた。
全員が怯んだ。
「殺しちまいそうだ」
「!!!」
次の瞬間、耐えきれなくなった魔族が奇声をあげながら突撃してきた。
「ぅ、う、うわあああああああああ!!!」
「馬鹿、止せッッ!!」
恐怖で剣が乱れている。
隙だらけだ。
あーあー、こんなにガタガタ震えちゃって。
安心しろよ、殺しはしない。
「しないが………」
ズバッッ!!
血飛沫と共に腕が宙を舞う。
目の前の魔族は急停止してそれを呆然と見ていた。
俺はその腕を燃やすと、口角を上げて魔族にこう言った。
「痛くないだろ? 斬り方によってはこういうことも出来る。お前らの再生能力なら一月で腕は戻るだろうよ。今戦えなくなるだけだ。あ、ちなみに」
男の顔が徐々に歪み始める。
「!! ぁ、ぅ………ぃッ、ぎッ!!」
「こういう事も出来る」
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」
時間差で痛むようにした。
空気に触れれば触れるほど痛いだろう。
俺以外出来る奴は殆どいないであろう妙技だ。
通常よりはるかに痛みが激しいはずだ。
その証拠に、戦い慣れているであろう魔族の戦士が、ボロボロ泣きながら奇声をあげ、のたうちまわって譫言を云っている。
「今からお前ら全員にこれをやってやる」
「ひっ………!」
俺は一歩ずつ前に出て魔族達を追い詰める。
すると、
「そこまでだ」
「あ?」
ゼロが拳を構えている。
おそらく固有スキルは使用済みだ。
「お前たち、私の能力でこの場は魔法が使えなくなっている。全員でかかればこいつを倒せるぞ!」
その一言で、魔族達に活力が戻っていった。
「………はは、あはは! あっはっはっは!!」
「何がおかしい?」
「いやいや………………身の程知らずにも程があるだ、ろッッ!!」
「ぐッ………ぉお!」
ゼロは俺が張った壁に衝突した。
消されてはマズイので、何かする前にここまで引っ張ってくる。
「お前は最後だ」
おお、いい感じに怒り狂ってるな。
「いいぜ、全員で来いよ。ここは俺の魔法で出られなくしている。俺が死なねぇ限り、無事にここから出すことはない」




