第164話
「これは、デスウェポン………」
リンフィアだけが、こいつの正体を知っていた。
「デスウェポン?」
隣にいた蓮が聞き返す。
「悪魔の兵器です。とてつもない強度を誇る装甲、備え付けている武器の凶悪さからそう呼ばれています。何種類か存在するうちの一機がこの蜘蛛なんでしょう。モデルとなった生物の特徴を捉えた兵器だと聞いています。こんな物まで作るなんて………」
「あくまでもモンスターなんだよね」
「はい、だから核は魔石です。あの体の中心部にある魔石を破壊すれば一瞬で消えます。ただ、魔石から生成された様なので魔石回収はかないませんが」
「いや、それよりこの鉄の蜘蛛の体内に入り込めるのかい?」
「たぶんほぼ不可能です。だから、コツコツ倒しましょう!」
リンフィア達は武器を構えた。
蜘蛛はまだこちらに攻撃をする様子はない。
ならば先手を打つのみ。
ダグラスが合図を出した。
「突撃だーーーッッ!!!! 足を一本ずつ、確実の破壊しろ!!!」
「うおおおおおお!!!!!」
冒険者達は蜘蛛の足へ向かっていった。
そして、ついに攻撃を開始する。
「魔法用意!!」
後方の魔法使い達が一斉に詠唱を開始した。
その中にはフィリアの姿もある。
「『収束した大炎は豪炎球となりあらゆる生命を焼き尽くす』」
「撃てーーーェッッ!!!」
一斉に魔法が射出された。
「【フレイムキャノン】!」
さまざまな属性の魔法がデスウェポンの脚へ直撃した。
「キュリリリリリリリ!!!!」
攻撃を受けたことで、デスウェポンも臨戦態勢に入る。
そして、巨大な脚を上に持ち上げた。
「降って来るぞ! 分かれて飛んで避けろッ!!!」
デスウェポンは冒険者達へ脚を振り下ろした。
轟音とともに、地面が揺れ、衝撃で何人かが吹き飛ばされている。
「ぐっ………脚を振っただけでこれか!」
蓮は忌々しそうに蜘蛛を見上げた。
「これは………根元から壊すしかないな」
蓮は脚へ飛び乗り、魔力を操作してデスウェポンの脚に張り付いた。
「獅子島!?」
「上まで登ってくる。高橋、手伝ってくれないか?」
「仕方ないなぁ。わかったよ!」
高橋もデスウェポンの脚に張り付いた。
「っと………スッゲェな。体が嘘みたいに動く。これならもっと能力を活かせそうだ」
「急ごう。さっきの感じからすると、下はかなり厳しそうだ」
「おう」
蓮達は脚の根元まで駆け上がっていく。
ダグラスはその様子を見ていた。
「なるほど、根元から斬るつもりか。だったら」
ダグラスは大きく息を吸い込んで大声で指令を出した。
「今登っているやつを援護しろ! 足元を氷魔法で固めるんだ! 他の奴はその間、魔法組の守護だ!」
魔法使い達が前線へと移動する。
氷をぶつけるならともかく、凍らせる場合はそれなりに接近する必要があるのだ。
「キュリリリリリリリリリリ!!!」
デスウェポンは2本の脚を浮かせて開いた。
挟み込むつもりだ。
「前衛組とタンク組は攻撃を上にそらせ!」
「「了解!!」」
魔法使い達の盾になる様に前に立つ前衛達。
そこにはダグラスの姿もあった。
それぞれ剣と盾を構えて攻撃に備えた。
「来たぞ………」
冒険者達はぐっと脚を踏ん張った。
脚がどんどん迫る。
あまりの迫力に彼らは息を飲んだ。
そして脚が目の前にやって来た瞬間、
「今だァーーーーーッッ!!! 跳ね上げろォォォォォォ!!!!」
デスウェポンの脚を思いっきり跳ね上げた。
攻撃を見事に外させ、とりあえず危険は回避した。
「攻撃再開だ!」
七海は少し離れた場所にしゃがんで様子を見ていた。
観察しているのだ。
こいつはバカだし、抜けてた様な喋り方をするが、結構いい目を持っている。
なかなかに鋭い観察眼だ。
「んー、脚ばっかだけど、あの口も怪しいぞよ。多分今までの動きからして蜘蛛っぽい何か………糸か何か吐きそうだと思うんだけど、いいんちょはどう思う?」
「確かにその通りかもしれないわね。まぁ蜘蛛が糸を出すのは一般的にはお腹だけど、口もないこともないわ。だとしたら前線の人たちが危ないかも………山本さん、行くの?」
「モチよ」
七海はよっこらしょと言いながら立ち上がって体を伸ばし始めた。
「およ?」
蜘蛛の様子がおかしい。
今までとは違う行動パターンだ。
「これは、マズいっすな」
七海は準備運動をやめ、 クラウチングスタートポーズを取った。
「行ってくるぜ!」
「気をつけて」
七海は蜘蛛の下まで急いだ。
クインテットブーストのお陰で、常人離れしたスピードを出している。
「あたい、風になるわ!」
よくわからないセリフを叫びながら走る。
まだ能力は発動されてない。
そして、足元に到着する。
やはり改めて見上げてみても途方もない大きさだ。
すると蜘蛛の様子が変わり始めた。
「何だ?」
蜘蛛が上体を上げ始めたのだ。
何かをしようとしている。
「ありゃ? 糸じゃないの?」
蜘蛛の口元には気味の悪い色をした液体の球が出来ていった。
あれは確実にこちら側へ悪影響を及ぼす。
「うわぁ、あれ絶対毒じゃん」
「マズいぞ。あんな大きさのもん食らったらひとたまりもないぞ!」
「ウチの出番かな」
スッと脚を上げた。
そして、
ドゴッッ!
地面に埋もれている巨大な岩を蹴り砕いて、その上に乗った。
「行くぞー!」
その瞬間、岩がゆっくりと上昇を開始した。
「重力魔法? いや、魔力を感じないし、そもそも引きつける魔法はあそこまで強くない。一体こりゃあ………」
ダグラスの驚きをスルーしたまま上がっていく七海。
「むむむ………フンッ!」
その瞬間、地面から次々岩が飛び出して来た。
それと同時に、グリップのない刃が50本ほど、腰の周りの入れ物から浮かび上がる。
「やっ!」
それらは全て合図と共にデスウェポンの頭部を囲んだ。
「これで仕上げ!」
ある程度まで浮上した七海は、デスウェポンの口元の毒液に何かを念じる様に手をかざした。
すると、
ボコッと液が泡立ち始める。
徐々にそれは広がり、ボコボコと音を立てながら毒液が不安定になっていった。
そして、
プシャッ!!
球が形を保てなくなり、デスウェポンの頭部に直撃した。
「突撃!!」
刃と岩が一斉に頭部へ飛び出して行く。
一点に集中させ、確実にダメージを当てていった。
これが、七海の能力。
触れずにものを操り、現在の身体能力で持てるものの10倍の重さまで持ち上げられる。
それ以外にも衝撃を曲げたり、空気砲の様なものを繰り出すことも可能。
『念動力』
サイコキネシスというやつである。




