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第1507話


 「引き剥がされた………そんな………」




 難しいことは琴葉にはわからない。

 ただ、少なくとも、今リンフィア達の元を離れて、守れない状況にあることはきっとまずいことなんだろうという自覚はあった。


 心臓が握られるような胸の苦しみ。

 失敗を叫んでいる、責めている。



 ここじゃなかった。

 使い所を、また間違えた、と。




 「案ずるな。貴様に責はない」


 「!」


 「貴様がいようがいまいが、彼女らの敗北は既に決まっているも同然。無駄な抵抗よ」


 「………だから、諦めろっていうんでしょ」


 「無論、投降すれば余計な痛みを負わずに済むだろう。我らとしても、都合が………」


 「じゃあ、しない」




 いつの間にか、血の気の引いた顔色は戻っていた。 分体も、同じく構えをとっている。


 ふむ、と

 ため息をつくほどでもない、小さな落胆。

 その余裕に、琴葉の心はざわついた。


 そこには中身がわからない、でも確かに何か、根拠があるふうに思えたのだ。




 「どうせ変わらないなら、せめておじさん達だけでも行かせない」


 「健気な少女だ。いいだろう、付き合ってやろう」




 無表情に、無感情に彼は言った。

 しかし、琴葉にはほんの一瞬、ふとその目に光が見えた気がした。

 その一瞬に、彼は小さく呟いていた。




 「………どうか、望むままに。我が王よ」









——————————————————————————











 リンフィア達は、外を歩いていた。

 町民に紛れながら、あくまでも溶け込むように、自然と歩く姿を見せていた。



 『走らないで下さい。あくまで自然な会話の形を保って、出来るだけあの場から離れましょう』



 第一進化形態。

 身体の一部をモンスターの持つ特異なものへと進化させる能力、形態。


 今のリンフィアは喉を変質させ、仲間達にだけ自分の声を飛ばしていた。



 『あの影の能力、再現した琴葉ちゃん曰く、相手を追跡するような能力はないみたいです。アジトは元々バレてたんだと思います。けど逆に考えたら、姿さえ眩ませられれば逃げ切れる。追跡能力の再現が可能な琴葉ちゃんだけが、私たちに追いつける』




 自然な日常を会話を繰り広げる蓮たちに声を飛ばぢて考えを伝える。

 リンフィア。


 そして、これから取る行動の結論は、





 『だから、一か八か、このままヴェルデウスの秘宝を探します』


 「「「!?」」」




 ギョッ、と。

 蓮たちの会話が止まった。


 すぐさま気を取り直すが、それでも急すぎると内心ざわついている。


 しかし、それに無言で頷く者が1人。




 (………師匠)



 そう、ラクレーだ。




 (考えてることは何と無くわかる。この周囲の気配………酒場にいた連中と同等の魔族の気配がある。この場を打破する方法は、力づく…………連中よりも強くなって、無理やり脱出することだ)




 無茶だと思う反面、蓮は納得していた。

 してしまっていた。


 そんな無茶納得してしまうこの状況に、心底焦りを感じながらも、すでに身体はその通りになるよう動き始めていた。




 (やるしかない、これしか………………うん?)





 会話を止め、立ち止まった王女の様子の異変を、流石というべきか察知した蓮は、すぐさまそばへと駆け寄った。


 

 「急に立ち止まって何を………………っ!」




 フィリアの目の先、建物の屋根の上で仁王立ちをしている男がいた。

 それは、既に感知していた気配。

 いくつかあるこの街の大きな力の気配の持ち主が、堂々と表に立っていたのだ。


 しかし、もはや隠れていない。

 いや、むしろ隠す気もないと言わんばかりにその力を見せつけていた。


 そう、見せつけていたのだ。



 立ち尽くす5人。

 奇妙な人物に、奇異の目を向ける。

 ごく自然、ごく普通のこと。




 ()()()()()、と。

 半分は魔族であるリンフィアが、いち早く気がついた。


 しまったと思った時には、もう遅かった。

 



 「こちら“も”発見した」


 「!!」



 

 発言から、このような行動が複数箇所で行われていると推察。

 そして、同じく目をつけられてしまった者も複数。


 まだ疑いの段階。

 しかし、一方通行。


 既に状況は詰んでいた。



 全力で戦わなければ殺されると、男の放つ身の毛もよだつ殺気に武器を取った彼らは、その後に気づく。

 そして全力で戦うということは、能力を晒すということ。


 正体が、バレるということ。




 「戦いに反応を見せない者、その全てに疑いをかける。シラミ潰しの人海作戦。お前達がアタリかどうか—————————」


 


 答えは、見せることにした。

 蓮は、固まっているリンフィアとフィリア手を置き、一言。




 「頼んだよ」


 「っ—————————」





 と。

 逆転を使用し、2人を何も知らない魔族2名と場所を逆転させた。




 「え??」


 「あれ、なんで………え?」



 戸惑う市民を他所に、両者は口を開く。



 「逆転………なるほど。アタリだったらしい。で、なぜ残った?」


 「一番の希望を確実に、逃すためだ。そしてあわよくば、アンタを倒す」


 「いい判断した。それでこそ、アタシの弟子」




 と、逃がされなかったラクレーは、嬉しそうに剣を構えた。

 一触即発の空気の中、魔族は焦る様子も戸惑う様子もない。

 状況は最悪か、その一歩手前か。




 (………“最悪”を引いてない事だけを願うよ)


 


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