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第1506話


 「っ………」



 絶望的とまでは悲観するつもりはない。

 しかし、望ましくないことはリンフィアにも同じことだった。


 顔を見てすぐにわかった。

 彼らは、かつてエヴィリアルで名を馳せていた戦士達だ。


 それはつまり、彼らは主戦力である異世界人ではないにも関わらず、こちらの戦力の大半を圧倒できる力を持っているということだ。




 (………いや、今は考えちゃダメだ。まずは、目の前の問題を解決しないと………)


 「立派になられましたな、リンフィア様」


 「っ………!!」




 揺らぐ。

 かつての臣下から放たれるその言葉が、懐古を乗せてやってくる。

 戦意に、ヒビが入りそうになる。


 だが、と。

 それ以上に、戦う理由がリンフィアにはあった。




 「………惑わされませんか」


 「たとえ、あなた達を傷つけても止めないといけないと思っていますから」


 「我ら民を殺してもですか」


 「間違いを裁く覚悟がなきゃ、王様なんてやるべきじゃないって、私は思います。だから………」




 銃口を向けることに迷いはなかった。

 “それ” はもう、リンフィアの中では乗り越えている。




 「知己に刃を向ける恐怖を越えてらっしゃったか。………では、何も言いますまい。予定通り、例の2人以外を殲滅する」


 「はッ!!」



 「こうなったら………………」




 リンフィアの神威が、ゆっくりを目を覚ます。

 しかし、




 「待ってよ、リンフィアちゃん」




 そこに、琴葉が待ったをかけた。




 「こ、コトハちゃん………」


 「それ、リンフィアちゃんがやる必要ないよ」


 「けど、私が戦わないと………」


 「リンフィアちゃんに覚悟があっても、私はそれ見たくないよ。知ってる人たちと殺し合いなんて、やらなくていいなら“やらない方がいい”。だからここは、私の番」


 「!」



 肩に触れる琴葉の手から、神威が流れていた。

 飛び抜けて強いわけではない。


 しかし、恐ろしく緻密なコントロールを、していた。



 「………琴葉ちゃん、まさか………」


 「多分、使い所はここだよ」




 そっと手を合わせ、握り込む。

 祈るようなその姿で、神威を溜めていく。


 敵に神威はない。

 しかし、それでも感じる圧迫感と、経験値が訴えかける直感的な不安に突き動かされ、彼らは動き始めていた。


 だが、すでに遅い。

 祈りとは、神への儀式。

 絶対者に誤差などない。


 始まりと共に、応えは出る。




 「【再現】—————————先代・命の神」



 「「!!」」





 やろうとしているのは、囮。

 囮に必要なものは何かと、琴葉は苦手な連想ゲームをやってみる。


 得意じゃないから、捻りはない。

 答えは至極単純。


 壊れないこと。

 ずっと守れる盾であれば、ずっと囮になっていられる。

 考えうる最強の盾。


 壊れない盾。

 無限に再生する盾。


 それが、この再現の内容だった。




 「よし、どこからでも—————————」





 ズパンッ、と。

 腕が、ズレる。


 血が出ないほどの美しい切れ口。


 剣の主と、琴葉の目が合う。


 片や呆れ。

 拍子抜けだと言わんばかりに、剣をしまう。


 そして片や、



 「………!?」




 笑顔。

 理解のできない表情に、剣をしまおうとしていた男の手が止まる。


 そして、驚愕は続く。


 切れて落ちるはずの腕が、止まっている。

 ゆっくりと、腕は元の位置に戻り、傷口はすーっと消えていく。




 「—————————かかってきてよ。好きなだけさ」



 「「「!!!」」」





 強さとはまた異なるプレッシャー。

 何が目の前にいるのか理解できず、しかし直感する魔族達は、一歩後ろへと引いた。


 紛い物、されど神。

 その力の途方もなさに、リンフィアも驚愕を露わにしていた。




 「行って、みんな。後で絶対追いつくから。絶対」




 力強く、誓うように琴葉はそう叫ぶ。


 死ぬわけにはいかなかった。

 当然だ。

 だが、いつも以上に、そこには意義があった。



 これだけの力、当然制約がある。

 有体に言えばリミット、その上で、琴葉はアジトで仲間を救うためにこの力を使おうとしていた。


 だが、しなかった。

 他でもない、その仲間たちが止めたから。




 使い所を間違えるな。

 みんなそう言って、敵の手へと落ちていった。



 皆、すでにこの世界の最も高い場所の戦いについていくだけの力も自信もなかった。

 だから、リンフィアに使わせたくはなかったのだ。


 救うべきは、別にある、と。





 「私馬鹿だからさ、使うどころなんかわかんないし、多分間違える。だから、私は仲間のくれたこのチャンスを信じる。きっとここが正解なんだ!!」


 「左様か。しかし無意味だ。ここで貴様らは殲滅する。安心しろ死にはせん。人間という種が、なくなるまではな」


 「人間界は負けないよ。ケンちゃんが居なくたってね」


 「愚か者め………たった1人で我々を止めようなどと—————————!?」







 琴葉の周囲に、人形が浮かぶ。

 これはかつて、先代命の神が使っていた、魂の分体。

 戦闘力を持った、強力な人形。




 「これで全員一対一。そんで死なない私は、最強!」




 虚勢だった。

 腕を切られた痛みを誤魔化すために声を上げ、涙を止める代わりに冷たい汗が流れている。


 しかし、止まらない。

 何度切られようとも、ここだけは死守すると誓ったのだ。




 「頼んだよ、リンフィアちゃん! さっさとお宝見つけちゃって!!」


 「はい!!」




 翼を広げ、天井を突き破って空に飛び出したリンフィア。

 それを見届け、琴葉は小さく笑った。


 そしてこれで、と、笑みを殺して敵を睨んだ。

 



 「愚直は相変わらずですな、王よ」


 「ぐちょく………」




 言葉の意味がわからずおうむ返しをする琴葉。

 しかし、次の言葉の意味は、嫌というほど理解できた。




 「我々だけとお思いか?」


 「ぁ………ま、さか」




 最悪の想像をしてしまった琴葉は、すぐに踵を返した。

 しかし、この場合状況は鏡合わせ。

 敵を逃がさないよう1人ずつついたということは、敵もまた、逃がさないよう1人ずつついておけるという事。





 「時間稼ぎか、人間。“()()()()”」



 

 

 そう、つまり敵も—————————






 「引き剥がしたのではない。お前達は、引き剥がされたのだ」

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