第143話
「っ………! この人間供(共)強いぞ!」
「ハァ、ハァ………みんな油断禁物だ。ステータスの割に手強いぞ!」
蓮達のグループと魔族達の交戦はまだ続いていた。
今の所死人は出ていない。
だが、双方ともに体力が限界に近かった。
「チィッ! おい、どんどん攻撃を入れろ!」
魔族はお得意の魔法攻撃を仕掛けてきた。
「『収束した大炎は豪炎球となり、あらゆる生命を焼き尽くす【フレイムキャノン】』」
巨大な炎球は蓮に向かってまっすぐ飛んで行く。
この魔法は、魔力消費を大きくする分強力になったファイアボールの上位魔法だ。
「はっはァ! 囲まれた状態から避けられるかァ? 避けなければ直撃、横に飛べば斬られ、上へ飛べば魔法の餌食だ。つまり貴様はもう終わりだァ! はっはっは!」
「さァ、それはどうかな?」
すると、蓮はわざとそれに近づいていって、固有スキルを使用した。
「跳ね返ッ、ろッ!!」
『逆転』を発動。
魔法の向きが逆転し、ファイアボールが向こうへ飛んで行く。
「何ィ!?」
魔法を放った魔族は上に飛んだ。
しかし、
「上に飛べば魔法の餌食と言ったのは自分だぞ?」
「し、しまったッ!」
「殿下ァァア!」
背後で待機していたフィリアは既に詠唱を終えていた。
「喰らいなさい! 【ロックエッジ】!」
ロックエッジ
細かく、鋭い石を無数に飛ばす魔法。
無防備な状態で喰らうとかなりのダメージになる。
「ぐっ………がァッ!!」
まともに喰らい、そのまま落下する魔族。
「そんな! クッソォォォ!!!」
もう一体の魔族が怒りに身を任せて飛び出してきた。
「おい、止せ! そこには罠が!」
ほかの魔族の忠告も聞こえておらずまっすぐ突っ込んできた。
そして、
「掛かった!」
蓮は床に魔力を流し、仕掛けていた魔法を発動させる。
「ぎッ!?」
雷五級魔法・スタン。
相手を麻痺状態にさせる魔法だ。
「冷静さを欠いて罠の存在を忘れてたな?」
そう言って蓮は、魔族を気絶させた。
「この狭い岩場では人数に利は活かせないだろう? このまま戦ったら十中八九俺たちが勝つ。投降しろ。今なら痛めつけはしない」
「クソォ………これを使わされるとはな!」
「!?」
魔族は何か道具を取り出して床に叩きつけた。
中から黒い靄が出てくる。
徐々に広がって行く靄は、どこか不吉な雰囲気を醸し出している。
「何が出てくるんだ?」
蓮達は警戒しながらその靄を見つめていた。
しかし、しばらく経っても何も出てこないどころか、靄はいつのまにか消えて無くなった。
それでも気は抜けない。
魔族達のあの表情からして何かあるのは間違いない。
「出てこい! モンスターども!」
「モンスター!?」
掛け声に応じるように、空間が歪み始める。
これは間違いない。
モンスターバブルを引き起こしたのだ。
「ギィアアアアア!!!」
次々とモンスターが湧いてくる。
先程見かけた巨大モンスター程ではないが、強力なモンスターばかりだ。
「何だ? 何が起きたんだ………!?」
モンスターバブルは、周囲の魔力が飽和状態になって起きる現象だ。
この辺りは既にその状態に近かったが、魔力が荒れてない事でギリギリモンスターが発生しなかったのだ。
さっきの靄は、大気中の魔力に溶けこむ事で魔力を活発にし、強制的にモンスターバブルを引き起こすのだ。
「はっはっは! 人間供(共)! そこでくたばって………なっ! く、来るなァ!」
ちなみに、モンスターバブルで発生したモンスターは当然野生のモンスターなので、操作不可能なため魔族でも見境なく攻撃を行う。
「ぐああああ!!!」
「うっ………!」
魔族の一体は無惨に食い殺されてしまった。
「みんな気をつけて………下手を打ったら俺たちもああなるよ。殿下、 俺が先頭で戦いますから、二人から離れないで下さい。合図をしたら一気に逃げてください。魔族達がモンスターに気を取られている今しか逃げられません」
「レン………!」
蓮はここでモンスター達の足止めをするつもりだった。
「行くぞ………!」
「シュルルルル………」
まずは先頭にいるダルクロスと言う布のモンスター。
反応を鈍らせる催眠系のスキルを持っているので、使われると退却が出来なくなる。
その上、剣とはすこぶる相性が悪い。
一度捕まえて、固定した状態で斬らなければ、まともに斬ることが出来ない。
しかし、蓮にはその必要はないのだ
蓮は一気に距離を詰め、先手を打つ。
「ッア!!」
本来必要な工程を省いて、蓮は攻撃に及んだ。
宙に舞っている状態での攻撃。
普通はするっと躱される。
空中を自分の意思で動き回る布を斬るというのはとんでもない難易度だ。
しかし、蓮はひらひらと動き回っているダルクロスを、なんの苦労もなく簡単に切り裂いた。
「セァッ!」
そしてそのまま連続で、別のダルクロスも斬る。
斬る。
斬る。
斬る。
周囲の敵をある程度排除して余裕が生まれた蓮は合図を出した。
「今だ! 行けーッ!!!」
躊躇って止まろうとするフィリアの手を引きながら2人は走って行った。
蓮は去って行くのを確認すると、少し安心したような表情を見せた。
これで、殿下は守れる。
あとは………俺か。
もう少しで見えなくなりそうになった時、遠くから叫び声が聞こえた。
「レェェェェェン!!!」
「!!」
蓮は振り返らずに聞いた。
「絶ッッッッ対に! 生きて帰りなさいッッ!! 約束ですわ!!」
本当にワガママな王女だ、と蓮は笑った。
ふぅーっと小さく深呼吸をし再び戦闘に集中する。
「俺は死なないぞ………来いッ!」
その瞬間、フレイムウルフが三匹襲いかかってきた。
一匹目、二匹目の攻撃を避けた。
三匹目をの攻撃が来ると同時に背後の二匹が攻撃を仕掛けてくる。
「まだだ、あと少し………」
攻撃が当たる寸前まで引きつけた。
そして、正面のフレイムウルフが牙に炎を纏わせ、噛み付こうとした瞬間だった。
「ここ、だッ!!」
正面のウルフに『逆転』をかけ、位置を反転させる。
二匹が一匹に噛み付いた。
傷口から火柱が上がる。
その瞬間、
「ハアアアアア!!!」
蓮は背後から剣を突き刺し、真上に斬り上げた。




