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第1382話



 ケン・リンフィア・ゼロ・メルナ・『お嬢』・流・ウルク。


 この7人は8人いるケン一行の主戦力であり、現在行動を開始している者。

 



 しかし、未だ攻撃も進行も補助も行っておらず、ケンの指示にて待機をしている者がいた。

 そう、ラビだ。




 「………」




 椅子の上で魔力を練りながら、今か今かと飛び出せる時を待っていた。


 彼女も敵に因縁のある相手はいる。

 しかし、ケンより重要な役目を預かっている彼女は、下手に戦闘参加をする事が出来なかった。


 当然焦りはある。

 先程まで感知できていたリンフィアの魔力が消えたのも、その要因の一つだ。


 何かしなければならない。

 でも、役目の重要性も理解しているから勝手はできない。


 硬く拳を握り締め、いつかそれを振るう時まで耐え続ける。

 それが今彼女にできる唯一の行動だった。



 「歯痒いものだろう」


 「!」



 同じく眉間に皺を寄せていたサラマンダー族長はラビの肩に手を置いてそう言った。



 「俺も何かしたいが、ここを動けば民を守れん。かと言って敵が来てほしいわけではないがな」


 「族長………」


 「決して戦意を途切れさせるな。だが、気持ちは落ち着けておけ。長保ちは効率からだ」



 

 魔力によって震えていたテーブルが次第に静まっていく。

 ラビも大きく深呼吸をして、気を沈めていった。

 しかしそれでも、目は強く。

 戦意を切らさず、いつでも出られる体制を作った。




 「そう、それでいい………………じきに戦う事になるやもしれんがね」


 「!」




 バタバタと足音が聞こえる。

 衛兵は息を切らしながら扉を開くと、崩れるように膝をつきながら、早口を口を開いた。




 「ほっ、報告ッ!! 敵の大軍が、ディアブレイズに向けて進軍中!! じき到着する模様です!!」


 「敵幹部は?」


 「敵幹部と思わしき人間が1名、中心にいます」


 「そうか」




 族長は巨大な大剣を手に立ち上がった。

 目は変わらない。

 とうに戦う意志は宿っていたから。


 しかしその魔力は荒ぶる。

 戦いがこれから始まるから。




 「領民を退避させろ。戦場から離れさえすれば向こうは殺しはせんはずだ」


 「はっ!」




 燃えるような赤い羽を広げる族長。

 羽の魔力は既に以前よりもずっと小さい。


 名を失った影響はやはり大きいのだろう。

 

 だが、行かなければならない。

 それが族長の勤めだと、彼がもっとも理解しているからだ。




 「ラビよ。敵幹部はお前に任せる。俺ではとても敵わんのでな」


 「うん、任せろ。ここを守り切って、せめてもの償いをしてみせるから」


 「ふっ、そう気負うな。自由に戦え。我らサラマンダーのようにな」




 大きなひげを揺らし、満面の笑みを浮かべる族長。

 やってきた衛兵も、武器を手にそわそわしていた。


 これこそが、戦闘狂と称されるサラマンダーの性であった。




 「ではな」




 族長は大きな羽を羽ばたかせ、颯爽と窓から飛び出していった。


 開け放たれた窓から外を眺めると、ラビにも敵の集団がよく見えた。

 そしてその中心からは、見知った魔力を感じていた。


 そう、それもまた因縁。

 リンフィアに同じく、ゼロに同じく、ラビにもここでつけるべき決着があった。




 「………………よし」













——————————————————————————————














 「殿下」


 「ああ。わかっている」




 城壁の奥が慌ただしい。

 膨大な人数が首都であるディアブレイズに集まり、また戦闘体制に入り始めているのがわかる。


 籠城ではなく打って出ようとしているのは、市民を戦闘に巻き込まないためなのだとなんとなく察しがついていた。




 「何名かは場内に入り、外界への流出を行っているものを調べよ。クッピル、ボルホーンの舞台は周囲の街に残っている妖精を集め、ディアブレイズに近づけぬようにしろ」


 「「「了解」」」




 手早く指示を出し、戦いに備える。

 これは殲滅戦ではない。


 重要なのは、妖精を外界へ脱出させないこと。

 そのためにまず抑えるべきは、街にある神器。


 コウヤからこれがゲートになると聞いているレギーナとしては、これだけは確実に抑えたいところであった。

 逆にいえば、これさえ手に入れば後は帰還すればいい。

 4つ全てが味方の手に渡れば、管理者サイドの勝利は確定する。




 「ルドルフ。そなたは場内にいる族長の相手をせよ。既に名はないゆえ問題はないはずだ」


 「しかし殿下、おそらくここには………」


 「よい。私一人で戦うべき相手なのだ。さっさと行け」




 食い下がろうとするが、ルドルフは気づいた。

 既にレギーナの意識は自分にはない、と。


 レギーナは、城の奥から感じる異様な魔力の感じる方角を向いていた。



 説得は無駄だろう。




 「………ご武運を」


 「悲願達成までは死ぬ気はない。そなたも、決して油断するなよ」




 そう言い残し、十分戦える場所へレギーナは飛んでいった。

 



 「悲願、か」




 何かを“またも”言い損ねたルドルフは、聞こえるわけもなくその言葉をレギーナに呟き、意識を城へと向けた。




 「総員構えろ。決して殺すな。だが、二度と立てぬように確実に潰せ」


 「「「おォォ!!!」」」









——————————————————————————————











 挑発は読めた。

 自分の位置を晒す事で、レギーナを引きつけようとしたのだということを、レギーナ本人は理解していた。


 その上で、彼女はこの決闘に赴いた。

 なぜなら彼女自身が、決着をつけるべきだと思っていたから。




 「………もしも殺されるなら、そなたかコウヤがいいと思っていた。まぁ、コウヤがああなった以上、もはやそなたしかおらんがな」


 「殺される気か?」


 「もしもの話だ。そう、もしも。これは仮定で実現はしない。私が、ここで死ぬ事はないからだ」




 ディアブレイズ中央に聳え立つブレイズ城より南西。

 サラマンダー族長の治める地域に住む妖精たちの避難先であり、最も広い北区と主戦場である東区を避けて選ばれたこの場所が、今回の戦場となる。


 既に避難は済み、住民は人っ子一人いない。



 吹き抜けの訓練場の中心にて待っていたラビとそこに現れたレギーナは、数日ぶりの言葉を交わしていた。




 「一応聞くけど、こっちに着く気はないな?」


 「もしも管理者が前のままならば応じただろう。そなたらのリーダーであれば、レッドカーペットもどうにか出来たやもしれんのでな。………だが、もうだめだ。私は言い訳を失った」


 「コウヤが管理者だから、求めてる力が手に入るからってことか? 今のコウヤを信用できるのか?」


 「するさ。あやつは()()()だからな。きっと我らの悲願を叶えるために協力してくれる」




 レイピアを抜き、鋒立ててラビを見据える。

 ただの王女ではない。

 ここでは彼女は騎士。

 国のためその命を燃やす忠義の戦士。


 王家の威信を取り戻すためというその目的に向かう意思は、とても強固なものだった。





 「故に、倒すぞ。ラビ。そなたも、殺す気で来い」


 「ハッ、やだね!!」


 「!?」

 




 同じく構えるラビ。

 手抜かりはない。

 油断もない。


 力強く、隙もなく、自分に出来る精一杯を出すつもりで身構えた。



 しかし、殺気はどこにもない。


 

 


 「ワタシは、殺さない。ニール姉が殺されて、ワタシは誓ったんだ。もう、仲間は誰も死なせない。みんなも、お前も!!」


 「ふざけるな! ここは殺し合いの場だぞ!!」


 「じゃあ勝手に殺しに来い!! ワタシは勝手にお前を止める!!」




 こちらもまた、意思は固い。

 あくまでも倒す。

 そして止める。


 仲間として、友人として、ラビはこの場に立っていた。




 「かかってこいレギーナ!! 友達らしく、腹割って殴り合うぞ!!」

 

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