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第1361話


 「………………………………」




 何が起きたのか、地竜には理解できなかった。

 万全な状態、完全な勝ちし筋から一転、全身からは絶え間ない激痛と流血で急激に衰弱していく中、敵からは見下ろされていた。


 動こうにも手足はなく、力も入らない。


 最高は最悪に変わっていた。




 「おはよう。申し訳ないんだけどさ、手を振り下ろしてトドメをさすところとその先の展開考えるのもう良いやってなったから、そこへん曖昧にしちまった」


 「………………我ニ、何ヲ………シタ」


 「立ってみ?」




 と、無茶なことをコウヤは言っていた。

 当然出来るわけがない。

 足がないのだから。


 愚弄されたと、地竜は当然憤る。

 しかし、




 「!?」




 地竜は立っていた。

 意思どころか、現実さえ無視している。




 「コレハ………幻カ?」

 

 「こいつは夢さ。お前が ”描きたがっている“ ものを、俺が現実にしてやってる。そんだけ」


 「デハ、我ハ………」




 笑顔は当然ない。

 硬い面の色は変わりようもない。


 それでも、笑顔よりずっと上手な絶望の色が、地竜の顔には浮かんでいた。




 「なんだ、怖がるのは上手いじゃないか」




 恐怖した。

 戦慄した。


 もとより管理者は、地竜にとって反則の様な相手。

 だが、少なくとも隙はあった。


 戦力さえあれば勝ち目はあるし、死にもする。




 だが、今の管理者は、コウヤは、まさしく理不尽の権化であった。




 「我ハ始メカラ、戦ッテナド、イナカッタノカ…………………?」




 肯定も否定もない。

 だが、何よりの答えをコウヤは示した。




 「さて問題。お前は今、どこにいる?」


 「我、ハ——————」






——————



———








————————————










 「ココ、ハ………」




 そこは、地竜がコウヤを吹き飛ばす前、攻撃をしようと飛び出した地下のとあるポイント。

 今まで居た………否、居たと思っていた地下の最下層からは少し離れた場所で、地竜は瀕死になっていた。


 そして、周りにはコウヤと他4人どころか、大勢の妖精………集合をかけられた組織のメンバーがいた。

 無様な姿を、晒し続けていた。


 当然戦闘跡もない。

 強いていうなら、地竜の血だけが、攻撃の証で合った。


 まぁ、決して戦いとは言えないのだが。




 つまり、そういうことだ。


 地竜は、戦ってなどいない。

 初めから、コウヤを蹴ちゃその前から、何もしてない。


 指一本触れる事も叶わないまま、負けてしまっていた。




 「あの蹴りも嘘だ。俺はずっとお前がここに来るのを待ってたよ。どうだ、戦ってみた感想………………」


 「カ、カカカ、ケカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカ!!!!」




 顔と声だけが笑っている。

 誤魔化しきれない恐怖が、震えとなって表に現れ、目は泳ぎ続けている。


 そして、あの地竜のそんな姿を見た仲間たちもまた、恐怖していた。

 同じく虚像を見続けた彼らも、今のコウヤの力を身をもって知ることになったのだ。




 「【聴従(ちょうじゅう)偽画(ぎが)】。管理者が以前構想してた力らしい。相手の脳にある理想を物語として俺が編成し、それを脳に流し込むことで幻覚を見せる技。誰しも甘言には聴従したくなるもんだ」




 壊れた様に笑い続ける地竜の頭を掴み、コウヤは笑顔を浮かべる。




 「昔、”兄貴“ がよく言ってたっけな。人を笑顔にする物語を作りたいって」




 そしてコウヤは、満足そうに、愉快そうに、無邪気に、満面の笑みを浮かべたままこう言った。




 「ほら、こんなに笑顔になってる!」




 「「「っっ………………!!」」」




 壊れないことが、一番壊れている証拠だった。

 正気のままの狂気。

 それはつまり、これが()()彼の本性だという事。




 「ケカカカカカカカカカカカカ!!!!!!」


 「あっはっはっはっはっはっはっはっはっは!!」




 トップが変わる事による反発。

 当然それはコウヤも予測していたところではある。

 だが、正直然程気にしてはいなかった。

 気に食わなければお告げを使えばいいし、最悪殺す事もできる。


 しかし、たった今、その必要すら無くなった。


 恐怖、羨望、畏怖。


 それらはみな、彼らの心を縛りつけ、逆らえない上位の存在としてコウヤを認めさせるには十分すぎるくらいの仕事を果たした。





 「じゃあ、青髪ちゃんと他3人。後は適当にトドメを刺しておいてくれな。それで4人分の経験値としては十分だろ」


 「………わかった」




 レギーナを肩を軽く叩き、コウヤはそのまま地上へと足を向けていった。

 地竜を取り囲む様に集まっていた組織の妖精たちが左右に割れ、造られた道の真ん中を歩くその様を見て、レギーナは思った。



 あれはもう、コウヤではない。

 誰も逆らってはならない邪悪な神が、現れてしまったのだと。


 妖精界は、本当に終わったのだと。

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