第1353話
「ま、こんなもんか」
両手の光の中を蠢く7つの光。
これらは全て攻撃魔法。
俺以外の全員分が俺の手の中に集まっている。
わざわざ寝ているメンバーまで集めてこんなものを作ったのにはちゃんと意味がある。
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これは数分前のこと。
ミレアの一件があったとはいえ、ユグドラシルは平穏そのものだった。
しかもまだ早朝。
起きてないメンバーもいたので、流に起こしてきてもらった。
「………何してんだ、メルナ」
寝室から流を引き摺りながら現れたメルナは顔に布を貼って現れた。
怖い。
見た目もそうだが雰囲気が怖い。
そして激しい怒りを感じる。
縄張りに入られたワニみたいな感じだ。
ゼロすら神妙な顔をしてる。
「ゼロ、流どうした」
「奴は星になった。墓を掘ってやれ」
「何があった!!」
と、一瞬動揺したが、それもまぁ一瞬だけ。
こいつの扱いはいつもこんなもんなのでいいとしよう。
ただ捨て置くにはメルナの方はあまりにも怖かったので流石に気にかけた。
あまり話しかけたくはなかったが、恐る恐る声をかけてみた。
すると、ギギギと錆びた金属音でもなりそうな様子でゆっくりと首を曲げて返事をしてきた。
「私………すっぴん見られたらそいつ殺すって小学生の頃から決めてるから」
「嫌なガキ過ぎるだろ」
「ああ嫌なガキだった」
「実話かよ」
証人・ゼロさんの発言に戦慄しつつも、時間が勿体無いので俺は本題の入る事にした。
「お前ら全員、俺に適当な攻撃魔法ぶつけてくれ。おい流。死んでるところ悪いけどお前もだぞ」
「「「は?」」」
「は???」
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つい無駄な回想をしてしまった。
それにしても、流の “は??” は相当怒りがこもっていた。
それはそうと、そんな経緯で作ったこの某元気を分けた玉のような魔法の集合体だが、これから早速使っていくつもりだ。
ぱっと見これで何をするかはわからないだろう。
そして思いついたとて実行するもんでもない。
しかし、現実の改変を限定的に行えるようになった今、何より泉の効果で肉体がさらに強化された今、これをやる意味はある。
「さて、オーバーフローで身体も軋むし、さっさと終わらせる………か」
目を色を黄金へと変質させる。
周囲——————半径数十キロに渡り、探知を行う。
円状に広がる探知が瞬く間に敵を捉え、脳に位置を送信する。
10、20………100………と。
魔物の森と化したこのユグドラシルの無数のモンスターが1匹残らず掛かった。
「よーし。それじゃあ日本人らしく命に感謝しねーとな」
パンッ、と。
両手の間で浮いていた魔法の塊を押しつぶし、合唱する。
チリチリと、合わせた手のひらの中から圧を感じる。
それは俺の中の魔力を喰らい、さらに大きくなっていく。
力だけではない。
複雑な命令を加え、改変の力で魔力を変質させていく。
無茶をするなと言わんばかりに暴れ、今にも呼び出していきそうになっている。
ならば望み通り、好きなだけ暴れてもらう事にしよう。
「それじゃあ、いただきます」
俺はごく小さくなったそれを右手で思い切り掴み、遥か上空へと投げ飛ばした。
甲高い音を立てながら花火のように登っていくそれは、遥か上空にて、圧縮の限界を迎えた。
パン、と。
俺が口に出したその瞬間、空を魔力の花火が覆い、爆風と共に鼓膜を揺らした。
あまりの衝撃で木々が揺れ始める。
しかし、まだ終わらない。
弾けた花火は消えることなく、散った無数の流星となり、地上へと駆けていく。
そして、もっと外側にあったそれが着弾すると同時に、身体の中で何かが溜まった。
そう、それは経験値を得た感覚。
飛び散った魔力は、正確に捉えたモンスターの核を貫いていった。
それも一つだけではない。
今もなお降り注ぐその魔力の全てがモンスターに向かっていき、討伐し続けた。
10、20と。
面白いように討伐し、経験値が溜まっていく。
ウインドウの数字が慌ただしく回転していった。
合唱魔法・メテオワークス
そう名付けた新魔法。
全員分の魔法を止め、神の知恵の能力で魔力を解析。
俺の魔力を神の知恵の改変能力で解析した成分通りに変質させ、全員の魔法の威力を等しく増大させた上で、合成させた。
そしてそれを花火のように炸裂させ、あらかじめ探知していた敵のところに降らせたというわけだ。
威力自体は大した事はない。
しかしその貫通力は絶大で、核を正確に撃ち抜く。
プレイヤー相手ならばこうはいかないだろうが、相手はモンスター。
油断した状態からなら問題ない。
だが、この魔法の真の効果はこの力ではない。
みんなの魔力を使ったこの魔法は、等しく全員の手柄になる。
つまり、多少周りくどかろうが、攻撃を当てさえしていれば経験値は入る。
ヒントはあの忌々しい事件………黒狼の死から得た。
決して無駄にはしない。
ハルバードのため、奴を生き返らせるためにも、ここでもっと強くなる。
「デバッグはきちんとしろって事だ。こんなクソゲー、俺らがぶっ壊してやるよ」




