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第1342話


 発狂しつつも、何とか情報を手に入れたコウヤ。

 相変わらずろくな会話は出来ない。

 彼ら個人の好みの話などは当然として、管理者のパーソナルな話や、雑談のような話題に関してはまるで返答がなかった。


 ただ、本来の目的である脱出のための情報など、組織に所属する以上必要な情報については、吐いてくれた。

 外への道や警備状況、その他セキュリティ問題に関してもスラスラと教えてくれたあたりむしろ心配になるほどであったが、都合がいいと言うことでとりあえずそこは置いておくことにした。




 (えらく従順だったけど………とりあえず、色々わかったな。それにしても………………ゲームプログラマーか………)




 ゲームプログラマー。

 コウヤがそう呼ばれる存在であるということについての詳細をつい先ほど機械から聞いた。


 それは、この世界のシステムを管理する者の役職であり、本来は管理者ではなくコウヤが担うはずだったという。




 (何らかの理由で俺がここから消えて、俺の代わりを管理者がすることになった………………記憶がないから覚えちゃいないけどな)




 生物迷宮の祖母に拾われるまでの記憶のないコウヤからすれば、他人事としか思えない話だ。

 だが、下手をすれば自分が管理者となっていたと言う話について、コウヤは怖気を感じずにはいられなかった。




 (俺が管理者………そして、その俺を模して作られた存在が、こいつら………ゲームプログラマー・ローカルサポートエンジン)



 目の前の人型機械を見つめるコウヤ。

 コウヤが消えたことで、代役として管理を行なっているのが、彼らである。


 コウヤが力の半分を持って消えた以上、本来の力は発揮出来ないにしても、彼らを複数作ることで、管理者はこのフェアリアの人々や土地の管理を全てになっていたのだ。

 妖精一人一人に細かいお告げを下したり、監視をしたりする事ができたのは、ローカルサポートエンジンあってのことだったのだ。




 (びっくりしたな………………まさかこいつ、俺と同じ顔してるとは)




 そう、彼もゲロさん同様ローカルサポートエンジンであるため、コウヤと同じ顔をしていた。

 それも奇妙だったが、何よりコウヤが奇妙に思ったのは、管理者の異様なまでのコウヤへの執着だ。


 本来、コウヤに力を分けていなければ、こんな面倒な状況にもならなかっただろう。

 それをリスクを冒してまで行ったのだ。


 しかも、ローカルサポートエンジンの顔を全てコウヤに合わせているときた。

 理由のわからないその執着が、コウヤにはただただ不気味であった。




 (あの野郎………一体何で俺に………………やっぱり兄弟なのか?)




 チラッと機械の方を見るコウヤ。

 管理者の目的を尋ねたいところだが、パーソナルな話をしてくれない以上期待はできない。




 (けど、ダメ元で言ってみるか………)




 しかし、退屈凌ぎだと、コウヤは期待なく機械に話しかけた。




 (なぁ、管理者は何で俺にこだわるんだ?)


 「………」




 無言。

 とうとう無視かと思い、コウヤは意識を機械から逸らそうとした。

 すると、




 「管理者は、ずっと夢について語っていました。ひいては、それに必要なあなたの事を、ずっと欲していたのです」


 (!)




 意外にも、何故この質問だけ返すのかの答えごと、返答が来た。

 そう、管理者は彼らローカルサポートエンジンに、夢の話について語っていたのだ。




 「彼の目標は、異世界にいた頃抱いていた兄弟でゲームを作るという夢の再現。リスクを冒してまであなたに力を譲渡したのも、その夢のためです」


 (! じゃあやっぱり俺は………………ということは、こいつらが俺と同じ顔をしているのも)




 途端に胸が苦しくなる。

 兄弟だったかもしれないものを傷つけ、そして代替品でしかないような人間もどきを作った原因が自分にあるのだと、コウヤは知ってしまったのだ。

 


 「彼の夢は、1人では叶えられない。我々がこの部屋に通されたのも、あなたの代理が必要だったからです。そうする事で、誤魔化そうとしたと彼は言っていました。もっとも、納得はしていなかったようです。しかし、先日偶然にも貴方を発見した。その時の管理者は、涙さえ流すほどに歓喜していました」


 「………そうか」




 申し訳ないなどという感情を抱く。

 代わりにしかなれない存在の、いかに虚しいことか、コウヤも想像くらいはつく。

 そんな想像すら持てない者たちを前にして仕舞えば、それすらも傲慢だと思うが。


 しかし、それでもコウヤは何かこの〔兄弟〕たちに対して、償いは出来ないものかと考えた。

 自己満足と言われればそれまでだが、動かずにはいられなかった。




 (なぁ、お前ら何かこうしたとかああしたいとか、そういうのはないか?)


 「ありません。それを作り出すものを持っていません」


 (何でもいいんだ。興味があるとか、必要だと思うものとか、何かないか?)


 「………………何も、私は………………」




 言葉が止まる。

 そして、少し間を置いて、彼はこう言った。




 「以前、我々ローカルサポートエンジンには管理者より感情を覚えるようにというミッションを下された事があります。今では役に立つかはわかりませんが、それを習得できれば、何かの役に立つ可能性があります」


 (おぉ! そいつはいい!! それなら、俺も会話を楽しめるかもしれない!)


 「それではよろしくお願いします」




 事務的に頭を下げるB28号。

 すると、早速コウヤは不満そうに文句を垂れ始めた。




 (ブー。違う違う。もっとこう、嬉しそうにとか楽しみに思う感じにだな)


 「わかりません」


 (そりゃそうか。んじゃ例えばだな………)





 教えつつ、中身のない会話を楽しむコウヤ。

 償いの意もあるが、体が動かせず、口も聞けず、敵地の真ん中で1人置かれたこの状況の中で、少なくともこの会話はコウヤにとって希望であり救いだった。


 時間は刻一刻と過ぎていく。


 真実へと、ゆっくりと近づいていく。

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