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第1334話


 「王家、か………」




 王家の力を取り戻す。

 ルドルフはそう言った。


 確かに、俺たち異世界人が来てから、王家は中枢として持つべき力を俺たちに依存してしまっていると言っても過言ではない。

 反乱一つ起こせば、簡単にひっくり返るだろう。


 王家の威厳などないも同然。

 まさしく張子の虎だ。


 威厳を取り戻すと言う意味で言っているのであれば、確かに王国の忠臣であるルドルフらしい理由と言える。


 ただし、それが正当であるとは俺は思わない。




 「………で、俺らの邪魔をするってのは、ちょいとばかしおかしな話じゃねぇのか?」

 

 「それは重々承知だ。幾度となく国の窮地を救った()殿()に牙を向くなど、何と謗りを受けようとも返す言葉はどこにもない」




 目を伏せ、絞り出すようにルドルフはそう言った。

 漏れ出す感情が、本心であると俺の心へ訴えかける。


 だが、



 「しかし、我が剣を捧げたミラトニア家の命とあらば、私はどんな不名誉も被ろう」



 こちらもまた、本心。

 難儀な事だ。




 「ハァ…………ってことは、騎士のレッドカーペットを持つプレイヤーってのは、アンタらだったわけだ。ゼロ、メルナ。こいつに見覚えは?」




 と、俺はチラリとゼロ達の方を見た。

 こいつら確か、騎士のプレイヤーに魔界から連れてきた部下を殺されていた筈だ。


 だが、首を振っているあたり、ルドルフのことは知らない様子だった。

 


 「この男ではない。俺が見たのは………民族模様のようなタトゥーを入れた、短髪の女だ」


 「!! ………………第二王女………レギーナを引っ張ってきたんだな、アンタ」


 「!?」




 俺の発言に、ルドルフはわかりやすく動揺を見せた。

 何故知っていると言わんばかりの反応に、俺は律儀に答えを返した。




 「おっと、そう驚くなよ。テメェが根城にしてた時期のある城だぜ? 隅々まで調べるに決まってんだろ………………そこが監獄みてェな離れだったとしてもな」


 「そうか………………貴殿は既に、殿下と面識があるのだな」


 「ちょっと喋った程度だ。そうか、あの病弱姫。ここじゃ自由に身体も動くわけだ」


 


 忌まわれがちな多種族との混血、それも王の血を引いているときた。

 秘匿されるのは理解している——————納得はできないが。


 病気というより、遺伝子の異変で体が弱く設計されて生まれているせいで、俺でも治すことは出来なかった。

 あいつの場合、リンフィアのような異常な状態だったわけではなく、正常状態が異常だったのだ。

 【治す】が通じない以上、俺は春の固有スキルでもどうしようもない。


 それがこんなところに出てきたとなると、ここではさぞ自由を謳歌していることだろう。

 そして何より、王の力を手に入れ、威厳を取り戻すきっかけになれば、あんな囚人のような扱いも受けなくなる。


 俺と敵対する動機としては十分だ。




 「アンタの言い分はよくわかった。けど、争う必要はねぇ。何せ、この王の選別はな………」




 争うだけ意味がない。

 それさえ理解して貰えば、と。


 そう思って、説得にかかろうとしたのは、全て無意味であった。





 「——————管理者が王となったものを生贄にするためのもの、だろう」


 「なっ………………!? アンタまさか………」


 「知っているとも。我々は、奴の協力を得ているのだからな。目的を達成すれば、奴は王の力を殿下に与えるという契約の元でな」




 ルドルフは、事情を知っていた。

 罠である以上、王になったとて望むものは手に入らない。


 それを教えれば、戦いを避けられる………と、思っていたのだが、これは正直予想外だ。

 知っている上で、俺たちと敵対を選んだという気と。


 何故だ?

 理由はなんだ?

 


 考えるが、それについては決まっている。

 力が得られるから。

 つまり、俺たちと敵対しないとそれが得られないということ。



 話を聞く限り、俺たちを倒す理由を持っているのは管理者だ。

 

 そして、おそらくミレアがここにいないのは、バレている。

 ミレアではなく、俺たちを狙う理由がある。




 管理者のメリットとなり、俺たちしか持ち得ないもの——————

 




 『………………………ぁ………あ』


 「?」




 考えている途中で、ゲロさんがうめき声のような声を上げた。

 あまりにも唐突に、しかし妙に気になる反応であった。



 「どうした」


 「………………コウヤが………………!!」


 「コウヤ——————」




 そうだ。

 何故失念していたのだろうか。


 コウヤも、管理者に関係している。

 俺たちの知らない何らかの理由で狙われる可能性は、十分だ。




 「コウヤ………そんな名だった。我々が、連れてくるよう言われた男の名前は」


 「どういうことだ!!」


 「理由は我々には分からんよ。しかし、奴が件の少年を欲し、それを叶えれば力を与えてくれると言った。私はそれを果たすのみ………………いや、もう果たされているかもしれんな」




 「「「!!」」」





 こいつは思念体。

 つまり、本体はどこかにいる。

 当然、仲間は王女1人ではない筈だ。


 おそらくルドルフの仲間は、コウヤを捕えるべく動いている。




 「くそッ………!! ウルク!」


 「うん! メルナちゃんたちも行こう!」




 と、流やウルクを筆頭に、みな拠点を飛び出そうとするが、




 「止せ。行くだけ無駄だ。既に到着済だという知らせは受けた」




 ルドルフは、無常な現実を突きつけた。

 どうあがいても、今から世界樹に行くまでの間には助けられるはずもないという、そんな事実だ。


 悔しいが、そこは認める他ない。




 「流、やめろ。もう間に合わん」


 「けど聖ッ………………!!」


 「()()()が間に合わないなら、もうどうにもならんよ」



 「………あいつだと?」




 怪訝そうな顔をするルドルフをよそに、俺は深くため息をついた。

 送ったとはいえ、かなりギリギリだ。


 しかしまぁ、今朝妙な魔力を感じたのを相談して良かったと、今は心底そう思う。




 「あいつとは、誰のことだ!」


 「ルドルフ。俺の相棒がここにいないってのに、お前はそれに気付かねぇのか?」


 「相棒………………………っ!! そうか………………彼女が………!」














————————————————————————————————
















 満身創痍。

 反動で全力が出せず、まして多対一のこの状況。


 全力であれば勝てた断言できるだけに、ラビは心底悔しかった。

 それだけに絶望した。



 死を覚悟し、それがひっくり返ったと思ったら、ようやく心を開いた新たな友人が自分を裏切り、刃を向けた。

 失意の中で勝てるはずの敵に勝てず、孤独の中ラビの心は荒んで行った。


 意地と執念が意識を保たせ、倒れることを許さず、次第に傷が増えていく。

 命令により初めは加減をしていた敵も、どんどん躊躇がなくなっていき、ただただ苦痛が広がった。




 「………………」




 

 ——————それ故に、その漆黒は奇妙にも、希望に溢れていた。

 禍々しい出立ちとは裏腹に、ラビは救いを見出した。




 「これ以上私の妹分をいじめるのは、やめてもらいましょうか」




 影を纏ったようなその風貌。

 鋭く禍々しい翼と、凶暴さをむき出しにした牙と角。


 敵の1人をいとも簡単に巻き取り、地面に叩きつけている尾。


 飲み込まれそうなほど莫大で恐れすら感じるその魔力。



 ラビは知っている。

 魔を背負う王のその姿は、




 「リン、ふぃ………あ………………姉………」


 「ここからは、私が相手をしましょう」




 魔王——————リンフィア・ベル・イヴィリアに他ならない。


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