第1333話
本当に申し訳ありません。
就活で予定が色々とつまりにつまったので、今週1週間ほどお休みさせてください。
何度も何度も本当に申し訳ありません。
「何………言ってるんだよ」
こんな時になんの冗談だと、怒りを滲ませながらラビは問い詰めた。
しかし、返事はない。
ただ、何も言わず、残念そうにレギーナは俯いていた。
「べ、ベルゼビュートはもう倒したんだ!! 危険はもうない。だから、今からでもワタシたちの仲間に………………!!」
「危険かどうかは関係ない。条件が整ってしまった以上、私は勤めを果たさねばならない。それが、管理者との契約だ」
「——————」
管理者。
普通の妖精等では知り得ないワード。
普通じゃないかもしれない。
ルージュリアのようなケースもある。
しかし、このタイミングでそんな話をされてしまった以上、ラビはもう納得する他なかった。
レギーナは、本当に王候補なのだと。
現実逃避は呆気なく失敗し、ラビは質問を変えた。
「………………なんで………手を抜いた………………!!」
「手を抜いた………?」
「とぼけるな!! 力を隠してるのはわかる。回復魔法もなく傷が癒えたんだからな!」
ああ、と。
いつの間にか綺麗さっぱり消えたベルゼビュートから受けた傷のことを言っているのだと、今レギーナは理解した。
そして、その問いに対して、至極憂鬱そうな様子でレギーナは答えた。
「王の選抜など、私はどうでも良いのだ。しかし、コウヤが目覚めた以上、管理者は此奴を是が非でも手に入れるだろうし、此奴も自ずと出向くであろう。こうなってしまった今、管理者につかねば勝ちはおろか生き残る道はない……………少なくとも、私についている守護者はそう考え、それに従い動く」
「!!」
——————再び、空気が張り詰める。
ベルゼビュートが消え、油断してしまったせいで、ラビは気づいていなかった。
何者かが、周りを取り囲んでいたのだ。
不覚をとったことに歯噛みするラビだが、すでに後の祭りである。
その気配の主たちは、まるで付き従うようにレギーナの周りに集い、跪いた。
「私の怪我を肩代わりしたのは?」
「オックスにございます」
「そうか………」
ラビにとっては内容のイマイチ伝わらない会話ではあったが、しかし一つ得心がいった。
そう、レギーナはラビの言っていた通り能力を隠していたのだ。
傷の転移——————誰かから誰かへ傷を移し替えるような能力だと、ラビはそう予測した。
「これで、殿下の念願も………………して、その娘は………?」
長髪で眉がなく、人相の悪い中年の男が、そういいながらラビを一瞥した。
隠す気のない敵意に満ちたその視線に対し、ラビもまた同じくむき出しになった敵意を隠さずぶつけた。
「やめよ。その娘は関係ない………………が、追われれば面倒だ。しばらく眠っていてもらえ」
「はっ」
強面の男が指示を出すと、跪いていた者たちが全員立ち上がり、ラビの方を一斉に向いた。
そこから向けられる魔力の雰囲気から、ラビはそれとなく強さを察した。
額から絶え間なく冷たい汗が流れる程度には、ラビはこの状況に危機を感じていた。
「っ………………」
危機は変わらず。
ベルゼビュートは死んだが、コウヤは立ったまま動かず、レギーナは裏切り、十数名の手練に囲まれている。
何より、切り札の四十鬼夜行の消耗が、今になって効いてきていた。
しかし、怒りに思考を支配されつつあるラビは、歯をむき出しにして武器を構えた。
止めらないと理解したレギーナは深くため息をつくと、2つばかり注文を追加した。
「………制圧は全力で行え。怪我はさせるなよ」
「しかし恐れながら………」
「命令だ」
「………はっ………………行くぞ貴様ら!!」
その号令と共に、剣先を上に向けたレギーナの配下達は剣を胸の前に掲げた。
すると、
「………………!」
男たちの姿が、みるみるうちに変わっていく。
軽装備の周囲を覆うように現れる銀色のモヤ。
それは次第に甲冑のような形を取り、
「っ………………!!」
実像を以て、彼らの身に纏われたのだった。
「………………」
言葉を失うラビ。
その強さゆえか。
不可思議さゆえか。
それとも裏切られたショック故にか。
勝ち目の無さからくる絶望故にか。
————————————全て、否。
今ラビが釘付けになっているのは、甲冑に入った印。
それは、ミラトニアの紋章。
「ミラトニア軍………だと………………!? っ………………散々師匠に助けられたお前たちが………なんで………………!!」
「違う」
「!?」
そう言って、レギーナは前に出た。
そして続けた。
「此奴らは私直属の護衛隊だ。軍とは別の管轄にある。もっとも、数人ばかりは妹の配下の手のものであったり、軍属だったりするがね」
「………………………………ぁ………あ」
顔を見て、今頃ラビはハッとした。
今頃とはいうが、気づかなくても仕方のないことだ。
ラビは、別段アルスカークと仲がいいわけではない。
だから気づかないとしても無理はないのだ。
アルスカーク王とレギーナが————————————親子だったとしても。
「改めて自己紹介だ。我が名はレギーナ・ミラトニア。混血故に秘匿され、日の光を浴びることなく育った………ミラトニアの第二王女だ………………ゆけ」
「!」
号令と共に向かってくる甲冑の騎士たち。
ラビは混乱し切っていた頭を無理やりに切り替え、戦闘態勢をとった。
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同時刻——————
俺たちのいる拠点にて、予期せぬ来訪者が現れていた。
人が来る時点で驚きだが、問題はその人物だ。
あまりに予想外の客に、俺を含めた顔見知りは驚きを隠せずにいた。
「なんでアンタが………………」
まさしく絶句と言っていいだろう。
何せ相手は、ミラトニア人の知り合いなのだから。
「久しいな、少年」
そう俺を呼ぶ男の名なルドルフ。
俺を除いた異世界から来た勇者たちを指導していた騎士であり、今は第三王女フィリアの護衛を務める、王家への忠誠心の厚い男だ。
「おいおいおい、あの騎士のおっさん………」
「うん、ミラトニアの………」
流やウルクも面識があるため、驚いていた。
中が特別いいわけではないが、まぁ嬉しい寄りではある。
が、
「なんか、素直に喜べる再会でもなさそうだな」
足元が透けているルドルフを見て、俺はそう言った。
これはホログラムだ。
何らかのスキルを用いたものだろう。
すると、俺のセリフに対してルドルフはこう返した。
「それでいい。私が来た理由は、宣戦布告なのだからな」
「「「!!」」」
事態は、想像以上に重いらしい。
聞きたくない気持ちはあるが、俺はルドルフに詳細を尋ねた。
「なんのつもりだ?」
「第二王女殿下の願いを叶え、ミラトニア王家が力を得るためだ」




