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第1328話


 「………そう長い話にもならない。けど、私にとっては全てなんだ」





 語り出しは重く、それでもレギーナはゆっくりと語り始めた。




 コウヤたちの思っていた通り、レギーナはいわゆるお嬢様だった。

 しかし、生まれつき体が弱く、また望まれた生誕ではなかったために、味方らしい味方はいなかった。



 鬱屈とした日々。

 歪んだ生活環境。

 孤独感は確実に、レギーナの心を蝕んでいった。


 しかし、彼女は仲間を求めることはなかった。




 求めたのは、憧れたのは、強さだ。

 味方がいないのなら味方を増やすと言う考えはなかった。

 味方がいないのなら味方が不要な存在になればいい。


 そう考えた時、彼女は強さに憧れた。



 しかし、かなうのは憧れだけだった。


 何故なら、生まれつきの彼女の病弱は、決して強さを持つことを許さなかったからだ。




 それでも、彼女は強さを求めた。

 力がないのなら知能。

 技がないのなら知識。


 可能なことを、可能な限り詰め込んだ。

 いつか、それが役に立つことを信じて。




 そして、転機はやってくる。

 それがこの白紙の現象。


 全てが無へと帰したこの現象は、彼女の長年の怨敵であった病を、綺麗さっぱりと消し去った。

 彼女の唯一の武器であった、知識と知能を残して。



 まさに天啓であった。




 「初めて救われたのだ。やっと私にも強さが手に入るのだと。楽しかった。日に日に強くなるのが何よりも嬉しかった。これで私もなんでも出来る。誰も必要ないと思った。だが………」





 気がつけば、望んだような強さが手には入って、ふとレギーナは振り返った。

 

 何もなかったのだ。


 今更絶望のしようもないが、しかし、妙な虚無感が彼女を生き急がせたのは確かだった。


 何故強くなるのか、強くなって何になるのか。

 既に彼女は彼女の環境から解放されていた。

 答えはとうに見えているのに、強くなることに目を向けすぎた彼女はその簡単な答えを見つけられなかった。


 そう、意味などないと言う答えを。



 気がつけば、その虚無感を埋めるためにさらに力を欲した。

 彼女は強さを得ると言う行為に依存していた。

 それしかない彼女にとって、それは唯一自己たらしめるものだったからだ。




 年月は立つ。

 彼女も馬鹿ではない。

 日が経つにつれ、強くなる意味がないと言う答えは理解してしまっていた。


 しかし、認めたくなかった。

 強くなる意味がないということは、自分がいる意味がないということだと、レギーナは受け取った。

 依存は強まるばかり。




 そのまま一人フラフラと彷徨う中で、彼女は出会ったのだ。


 そして、今に至る。

 



 「だから、嬉しかったのだ。あのベッドが。よくわからないが、何か見つけられた気がした。でも………壊された。私は強いはずなのに、守れなかったのだ………………」




 壮絶な話しだ。

 孤独は辛い。


 しかし、それを辛いと思っていないのが何より痛々しいものであると、コウヤたちは受け取った。


 そして、



 「じゃあ、お前が人のために力を使いたいって思ったのが、ワタシ達だって事か。へへへ、それはなんか嬉しいな」


 「ははは、だな」



 それ以上に、嬉しかったのだ。

 思ったよりずっと、仲間意識があったのだというその確かな事実が、思わず笑みが溢れるくらいに、嬉しかったのだ。




 「………………怒らないのか? 馬鹿にしてるのかって………」


 「あー、そういうこと? そんな事いう奴がいたのか」



 どうりで怯えるわけだと、コウヤは納得した。


 仲間を知らぬ少女がそんな事を言われれば、怯えるのは仕方のない事だろう。

 確かに、仲間というか協力者がいたであろうその状況で、頑なに自分だけで戦おうとするというのはあまり気持ちのいい行為とは言えない。


 だが、事情を知った今、コウヤは断言することができた。

 それは、誰も悪くない。

 言ってしまえば不幸だったのだ。


 その連中も、彼女も。




 「“お前” が原点にこだわる理由がよくわかった。お前は、たった一つの原点を失いたくないから、それを怖がっていたんだな」


 「そうだ………その通りだ」


 「それじゃ、ここをもう一つの原点にしよう」




 いつかレギーナがやった様に、レギーナの額に指を置くコウヤ。

 そして、こう言った。




 「俺たちのために頑張ってみろ。言っとくけど、お前も含めた俺たちだ。ただ強くなるお前はここで終わりにしろ。ここが原点。“何かのために力を使うお前” の原点だ。ゆくゆく何に力を使うかは、やり遂げてから考えろ」



 「!!」





 何かが変わった気がしたと、レギーナはそう感じた。

 何かはわからないが、しかし、大きなものが変わった気配を確かに感じていた。


 立ち上がる理由が、今生まれた。




 「その前にお前が強くならないとな。10時間以内にあの赤トカゲ倒せるくらいになれそうか?」



 むっとしながら言い返そうとするが、何も出てこない。

 やっとのことでコウヤから出た言葉は、



 「むり」


 「無理なのかよ」


 「()()()の性質上、正しい訓練しないと多分そうそう伸びないと思うんだよな。()()()練習してるってのに制御も効かないし………でも、瞬間火力は、確実にこの中の誰よりもデカいはずだ」




 というわけで、と手を合わせて頭を下げるコウヤ。




 「悪い。お前の指揮が頼りだ。俺を上手く使ってくれ」


 「はぁ〜………………世話のかかる奴だな。それじゃあ、詳しくお前の力を教えろ」




 ラビは頬を強く叩いた。

 時間はない。

 力も不十分。


 そんな中でどう勝つか。


 それを考えるのは、軍師としての教えを叩き込まれたラビの役目であった。




 「ぶっつけ本番だからな。どう転ぶかわかんないけど、やるしかない」




 不確定要素を大胆に切り捨て、あるもの可能性を導きだす。

 どれだけ低い確率だろうと、それに賭けるほかなかった。











 そして——————10時間。

 出来る事を全て行った。


 結局、練習しても、コウヤが身につけようとしている新しい力は完全に身にはつかなかった。

 しかし、もう使えないとわかった以上、それは問題では無かった。


 大切なのは、今の戦力で勝てるかどうか。




 そして、ラビが勝算を導き出したという事実のみであった。




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