第1327話
ご報告です。
近日就職活動で忙しくなりそうなので、投稿頻度が3日に1度ほどになりそうです。
度々投稿頻度を落としてしまい、申し訳ありません。
可能な日は短縮しますので、何卒よろしくお願いします!
「!!」
蝿の幼体に囲まれた悍ましい光景から一転。
そこは、どこまでも広がる草原であった。
「うぉぉ………………やな記憶が蘇るぜ………」
「ボロボロにされた記憶だろ」
「言うな」
いつも通りなやりとりをする二人のそばで、レギーナは目を白黒させていた。
恐る恐る触れる草木の感触は紛れもない本物。
視界に広がる景色も、暖かな日差しも、草木の香りも、何もかもが本物である。
「ここが、ダンジョン………? 作った………?」
「流石にびっくりするか。まー、生物迷宮は本来歴史から消えてるはずだもんな」
目を瞑り、ほんの少し過去を思い出す。
それは、自分の能力をペラペラ喋るコウヤを止めようとした時のこと。
今更あれが間違っていると、ラビは思っていない。
だが、今ラビがしようとしていることは、その時の行動に反するものだ。
それを許すべきか、短いながらも熟考する。
「………よし」
心は決まった。
やはり、あの時のコウヤの行為は浅はかだと再認識した。
その上で、だ。
情けないと思いながらも、ラビは自分の言動を棚に上げることに決めた。
そしてラビは、そこで生物迷宮のこと、強くなろうとする理由を、レギーナに打ち明けるのだった。
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「そうか………そなたらはそんな強敵と戦うためにここへ来ていたのだな」
「強くならなきゃ、とても倒せる相手じゃないからな。なはは」
言ってしまったという感情半分。
しかし、もう半分はどこかスッキリしていたし、後悔じみた感情はほとんど無い。
ラビの表情は、晴々としていた。
「しかし、話して良かったのか? そなたは………」
「う………それ言っちゃうか?」
痛いところではあった。
発言の棚上げは自覚の上での行動なのだ。
それはレギーナも理解するところではあったが、だが決してあの時ラビがコウヤを止めたのを間違っていないとも思っていた。
それ故に不可解だったのだ。
「俺の時怒ってたのにな」
「モテないぞ」
「言いたいことをそれに集約するのをヤメロ。めっちゃ食らってるからなお前。本当だぞ」
魔法の言葉“モテないぞ”を唱え、コウヤを排除するラビ。
これもある種の照れ隠しというには、コウヤに対して意地の悪い話ではある。
しかしそれは、あの時咎めたコウヤと同じ事をしてしまっていることに対して、バツの悪さを感じているが故であった。
「あんなこと言っておきながらって話しなんだけどさ。ワタシももう、お前のことを信用しちゃってるんだ。だから話した。さっき、お前には本当に救われたんだ」
自分の心に従え。
管理者かもしれないコウヤと、いずれ敵対してしまった時どうすればいいか、それを悩んでいたラビからすれば、この言葉は本人の言うとおり、大きな救いであった。
はっきり言ってしまえば、理性的ではない。
恩人に対する感情による行動だ。
それでも、ラビは信じたかった。
だから、心に従ったのだ。
「………………し………しかし、私は………」
「………」
何かあるのは火を見るよりも明らかであった。
モンスターを討伐していた時のあの自信に満ちた様子がまるでない。
たった一つの失敗で、見たことがないくらいに自分を責めて落ちていた。
思い返されるのは、やはり先刻の発言。
自分を欠陥品と称した彼女のその言動には、暗いものがあった。
ラビはそれと繋がっているんだろうなと、今考えていた。
「レギーナ………」
「すまぬ………しかし、信用に応えることが出来ない。あの幼体は、本当は私が全て倒したはずだったのに、倒しきれていなかった。そのせいでそなたらをこんな状況に追いつけることになってしまったのだ………私が気づいていれば違っていたのだ。もっと余裕を持ってベルゼビュートに挑めたんだ。そうだ。私がもっと強ければ、あの時ベルゼビュートを連れてこずに済んだんだ。私が………私が——————ぁ………………!」
不本意な形ながら、コウヤとラビはようやく剥き出しになったレギーナを目の当たりにした。
漏れ出したのは、嘘偽りのない本心だと直感で理解した。
それは、レギーナにとって失敗だった。
失敗だと断言できた。
何故なら、レギーナは過去、こう言う本音を吐き出したせいで失敗をしたことがあるからだ。
次に吐かれるセリフも決まっていた。
いつも同じだった。
全て自分のせいにして、吐き出す様に愚痴を言った時、彼女はいつも同じことを言われていた。
そう、それは——————
「………君は、人を頼れずにここまで来たんだな」
「………!!」
いつもと違う言葉だった。
いつもならばこう言われていたのだ。
『そんなに俺たちが信じられないか』 と。
責める様に、そう言われて来た。
そして実際、信じきれず心配が勝るが故に、背負い込もうとする悪癖であったのだ。
「師匠と似てるけどちょっと違うよな」
「そうだな。あいつは人を頼れないってよりは “頼らない” だしな」
頼らないと頼れないは似ている様で全然違う。
ケンは周りを傷つけないがために一人で全てをこなそうとしていた。
しかし、レギーナはきっとそうではない。
そう思ったのは、今、レギーナが怯えていたからだ。
信用できる人がいない。
周りの人を信じきれない。
コウヤが考えたのはその二つだ。
だが、これ以上は考えなかった。
「なぁ、青髪ちゃん」
「………」
「憶測で語るのも出来るけど、それじゃちょっとわかんないからさ。折角時間もあるんだ。だから、今度は君の話を聞かせてくれよ」
「私の話………」
意外なことに、話をするのにためらう様子はなかった。
それは、コウヤたちにとっては嬉しいことだった。
預けた信用に、応えが返って来た様な気がしたのだ。
そして、おそらくあまり人に話すような内容ではないであろうその過去を、レギーナは二人に語り始めた。




