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第1319話


 「失礼する」




 そう言いながら、ギラついた目つきのレギーナは剣を持って飛び出して行った。

 その針の様な剣身の様に鋭く、強い闘志に、ラビは一瞬たじろいだ。


 それ故、その意識が自分に向けられていないことにラビが気づくのに、少しばかり遅れが生じた。




 「っ、その目、標的はワタシじゃない………っ、コウヤ!!」




 スライムに変形し、ラビが攻撃をしようとしたその瞬間、




 「!?」



 レギーナはもう、視界から消えていた。

 そして、ラビが振り返る頃には、すでに間合いを詰め、コウヤへと迫っていた。




 (早すぎる………!!)




 「コウヤッ!!」


 「わかってる!!」




 自身が持っている最速の形態。

 コウヤはその中から、“限界まで” 力を引き出していった。




 「………」


 「ォオオオオオオオオオオオオッッッ!!!」




 右肩、関節の部分。

 動きを防ぐべく、コウヤは被害を最小にかつ確実に機能を削ぎ落とせる部位を狙った。


 しかし、




 「重すぎる」


 「!?」




 腕が消えてみるほどの一撃。

 コウヤよりも後に放たれた細剣による一撃が肩をついた。


 コウヤの腕をみるみるうちに速度を落とし、そして、




 「“柔” を極めたくば、“重” を捨てよ。と、説教は後回しだ。どうやら、()()()()()()()()


 「間に合った………って、え………………!?」




 レギーナの持つ細剣に、透明な粒が貫かれていた。




 「城の文献で見た。ベルゼビュートは、小さな卵を敵に植え付ける習性を持つとな。それは数時間かけて孵化し、親に居場所を知らせる役割を持つ………………む」




 が、




 「!? おい、君………………そいつは………!?」




 すんでのところで孵化し、逃れた個体がいた。

 10、いや、20,30と分裂している。

 小さな塊に、幾つもの幼体がくっついていた。





 「クソッ、散っていく!! さっきの話が本当なら、このままじゃベルゼビュートに——————」




 「やれやれ………羽虫風情が」






 


 それは、闘志が明確な殺意に切り替わる瞬間だった。

 敵が孵化し、行ける標的になった事で、レギーナは殺すべき敵であると認識を改めた。


 散り散りになる全ての幼体に、狙いを定めたその瞬間、




 「っ………!?」




 コウヤは、レギーナの身体が分裂した様な錯覚を起こした。

 もちろん、分裂したわけではない。


 これは、残像が見えるほどの高速で動いているという事。

 そしてその速度は、全て攻撃に転化し、幼体達へと向けられた。



 「………」



 思い描くは、剣の軌跡。

 剣を立てて構え、深く呼吸をし、そのイメージを鮮明に刻む。


 時間はかけない。

 かけるほど、イメージは乖離してしまう。


 だが、速度というものを、戦いにおいてなにより重視する彼女にとっては、言うまでもない事。

 最速最短。

 無駄な時間は使わず、すでに身体を動かしていた。

 そして、




 「頑丈故下手な魔法は効かない。故に、一体一体確実に潰す」




 その瞬間、花が咲く様に剣身が開いて行った。


 耳に残る甲高い音は風を切る音。

 それがいくつも重なり、一つになる。



 そして、ピタリ、と。


 レゴーナの動きと音が止んだ頃には、全てが終わった。

 様々な方角と場所、その一つ一つに狙いを定め放たれた無数の攻撃は、撃ち漏らしなく、全ての幼体を突き殺した。




 「ひとまず、場所を知られる心配はないだろう。突然剣を向けた非礼を詫びよう。すまなかっ、た………ぁ!?」


 「ど、どうやってそんなに強くなった!?」


 「な、何を………………」




 コウヤを引き剥がそうとするレギーナだったが、その唯ならぬ様子に思うところがあったのか、無理に引き剥がすのではなく、そっと手を添えて一言声をかけた。




 「………そなた、変身して戦うタイプの能力か?」


 「あ、ああ。いろんなジョブに変化して戦う。剣、弓、魔法、多分思っているのは全部使える」


 「コウヤ………!!」



 ベラベラと自分の能力について喋るコウヤを見かねたラビはすぐさま止めに入ろうとするが、それより先にコウヤは手を出して制止した。



 「大丈夫だ迷路ちゃん。どの道俺くらいなら瞬殺してくる様なレベルの子だ。問題ない。それに、恩人だぞ」


 「………!! ………………わかった」




 コウヤの視線は、再びレギーナへと戻った。

 だが、レギーナを掴んでいた手は既に離されていた。




 「コウヤと言ったな。仲間の忠告は無碍にするものではない。が、今のは尋ねた私にも落ち度がある。私がいては言い争いになるだろう。恩を返せぬのは些か忍びないが、私は去るとしよう」




 そう言って、穴の方へ向かおうとすると、




 「待ってくれ!!」




 なんと、止めたのはコウヤではなくラビであった。




 「お前、行くところは?」


 「特にない。流浪の身だ」


 「だったら、しばらくワタシたちと行動しないか? ベルゼビュート、倒したいんだろ?」




 パァッとわかりやすくレギーナの表情が晴れた。



 「良いのか!」


 「ただし、ステータスを全て見せてくれ。信用した、い………」




 何かを投げられ、咄嗟にそれを掴むラビ。

 投げ飛ばされたのは、冒険者プレート。


 すると、




 「閲覧許可する。思う存分調べると良い」




 レギーナはあっさりと、ステータスを明らかにした。

 プレートの一機能だ。


 情報提出のため、自身の能力値を記録することが可能。

 鑑定と似た性質を持つため、正確。


 そして、鑑定封じのチェーンがないため、誤魔化しは絶対に効かない。




 「………ダメか?」


 「いや、悪かった。恩人なのに、失礼なことを言ってしまった」


 「良い。そなたは正しい。もしまだ怪しいのなら………」


 「本当にもう良いって! ワタシが悪かった!!」




 本能的に同情を誘ってくる様なその顔に、ラビはつい態度を軟化させていた。

 しかし、同時に確信もした。


 彼女は、本当に何もする気がないのだ、と。




 「じゃあ、しばらくよろしく頼む。レギーナ」


 「ああ、世話になる」




 固く握手を交わす2人。

 こうして、3人の奇妙な共同生活が始まったのであった。


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