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第1316話



 あれからしばらく戦う2人だが、やはりコウヤ負け続きであった。




 「だあああああ!!! 全然勝てん!!」


 「手の内勝負のお前にとって、同じく引き出しが多いワタシは相性が悪いからな。決定打が足りないんだぞ」


 「わかってるよ。お前と戦うには圧倒的に火力不足だ。経験値差がここに来て響きやがるぜ………いて」



 不貞寝を決め込もうと地面に倒れ込むコウヤだが、削れた枝が頭にチクチクと刺さっていた。

 そこだけではない。

 枝はもう全体がボロボロで、そもそもこの戦いに使っていた空間自体、見てられない様な有様になっていた。




 「なー、次は場所変えないか? ここもうボロッボロだろ?」


 「ああ、確かに。あんま木を痛めつけるのも忍びないしな」




 チラリとコウヤが目を向けるのは、真下にある広間だ。

 世界樹内部は入り組んでおり、時折広いスペースが存在する。


 そこを利用して戦っていたのだが、同じ場所で戦っていたせいで、木はもうボロボロになっていた。




 「あちゃー。悪いことしたな」


 「お前の技、無駄に広範囲だもんな」


 「あぁ!? おめー、俺のせいにばっかすんなよな!! そっちの攻撃も結構マズいだろうが!!」


 「いいやワタシの方が被害が軽いね。………ゴーレムが大きい穴開けたけど」


 「ほらみろ!! あのクソでかい風穴、お前のだろうがああああ………………あ?」




 ラビの開けた風穴から、モゾモゾと何かが動く気配があった。

 和気藹々とした雰囲気から一転、目付きの変わった2人は、武器を構えて物陰に隠れた。




 「………何かいるぞ」


 「ああ。でも、隠れてる感じじゃない」




 息を潜め、じっと様子を伺う。

 だが、それが穴に入ってくる様子はなかった。


 それは慌てた様子で上へと向かっていた。




 「モンスター………だよな?」


 「多分。でも1匹だけじゃなさそうだ」




 ラビの言う通り、複数の物音が近づいては遠ざかった。

 バタバタと、慌てた様子で。


 そして、1匹たりとも穴に入る様子はなかった。




 妙に統率されたモンスターたちの行動。

 群れの様であるが、しかし種族はバラバラ。


 それでも敵対する様子はなく、足が向くのは同じ方向。



 2人は何処となく、それを奇妙だと思っていた。




 「うーん、なんか変だな?」


 「確かに、いつも殺気立ってるモンスターたちが喧嘩一つせずに移動してる。まるで何かから逃げてるみたいな………」


 「っ………!!」




 すると、何か思い立ったコウヤが、慌てた様子で攻略本を漁り始めた。

 ただならぬ様子のコウヤを見て、ラビも胸騒ぎを覚え始めていた。




 「お、おい。どうしたんだよ」


 「この辺のモンスターについて調べるんだよ。どう考えても妙だ。何かがこの近くにいる」


 「何かってなんだ——————」



 

 ズン、と。

 重い気配が、2人の探知圏内に入った瞬間、会話は止まった。


 枝の上じゃ場所が悪いので、機を見て穴へ近づき、そっと下を覗き込んだ。

 すると、




 「っ、あいつは………」




 雲の下から見えるシルエット。

 それは、竜のものだった。




 「なるほど、ドラゴンか。それなら確かに、他のはビビるだろうな」


 「………違う」


 「違うって、何が………うぅっ………!!」




 ビュンッ、と強い風が穴の外から吹きつけた。

 そして、巨大な影が穴を一瞬だけ塞ぎ、すぐに消えていった。


 そう、竜はもう、この下には居ない。



 つまり、




 「あの竜も、逃げてたんだよ」


 「!?」


 「ここいらの竜は、確かに他所じゃてっぺん張れるくらいには強い。でも、ユグドラシルにはもっとバケモンがいるって話さ。そんでもって、そいつは今、この真下にいる」


 「………………」





 恐怖はあった。

 2人とも、それは同じだ。


 知性のあまりないモンスターが、一目散に逃げると言うことは、その低い知性ですら理解可能な危険度だと言うこと。


 その意味のわからない2人ではない。



 しかし、2人の口角は上がっていた。

 好奇心と、何よりここ数日で高まった闘争心が、2人に火をつけていた。




 「行くか?」


 「当然」


 「それじゃ………」




 と、本を見ようとしたコウヤの手を止める様にラビは手を掴んだ。

 そして、いたずらっぽい笑みを浮かべてこう言った。



 「にひひ、分かってないな。直接見てびっくりしたいだろ?」


 「む………それもそうだな。それじゃあ行こうぜ」


 「おう!」




 そして2人は、躊躇なくその穴から飛び出したのであった。

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