表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1320/1486

第1315話



 「うぉっふぁああ!?」



 首元に手を当て飛び起きる。

 これで数度目の死。


 割り切っていても襲いかかる恐怖と共に追って来た安堵が、強張った身体をすぐにほぐしていった。




 「はあぁあぁあ、疲れた………」




 ぐにゃぐにゃと身体の力を抜きながら、というか抜けながら、木の枝にベッタリと寝そべるコウヤ。

 あれから数日、同じ敵を相手に何度も戦い挑んでは負けるのを繰り返していた。




 「疲れたって、体は動かしてないだろ」


 「む?」




 枝の下から飛んできた人影に、コウヤは目だけを向けた。

 そこには、汗だくで帰って来たラビが倒れているコウヤを見下ろしていた。

 


 

 「あのねぇ、迷路ちゃん。心も疲れんの。こちとらぶっ殺されて戻って来てんだぜ? で、どうだった?」


 「昨日のノルマは超えたぞ。ふふん、ワタシは着実に強くなってる」




 自慢げにそう語りながら、モンスターから抜いて来た牙をその場に落とし、戦果を報告するラビ。

 コウヤが泉で戦っている間、ラビは少し離れた場所に行って、モンスター相手に経験値を稼いでいた。


 これまで彼女は、同行していた流達や敵視していたころのコウヤの事など、様々な悩みの種や問題があったために、集中して訓練することができなかった。



 しかし、気兼ねなく鍛えることができる今、その実力をメキメキと伸ばし始めていた。


 だが、



 「かー、これでまたお前と差が開いちゃったな」



 得意げにするラビの裏で、コウヤはそんな愚痴をこぼした。



 「そう拗ねるなよ。お前はワタシと訓練してる間、どんどん記憶が戻って力の使い方を取り戻してるだろ」


 「そうでもなくなってきたから拗ねてんの」



 開いた攻略本でコウヤは顔を隠した。

 おちゃらけながらも、妙な焦燥感に駆られている事は、ラビもどこか気づいていた。

 だが、あえて何か言う事はなかった。

 


 「んじゃ、今日も付き合ってもらうぜ、迷路ちゃん」



 こんな風に、本人が何事もない様にしてくる以上、ラビは見守るのに手する他ないと考えたのだ。

 まだ何か手出しをする段階にないと。


 だから今日も、いつも通りに接するだけであった。



 「えー、ちょっと休憩させろよ。レディを気遣わないからいつまで経ってもモテな」


 「うるせぇな!!」













————————————









 朝はコウヤとラビが揃って経験値を稼ぎ、昼はコウヤだけが泉に、ラビは継続して経験値を稼ぐ。

 そして、夕方から夜にかけて、2人で訓練をする。


 この数日、2人は戦い漬けであった。


 暇さえあれば、戦いに明け暮れていたのだ。






 そして現在、夕方。


 

 茜色の光が僅かに差す枝の上。

 いつも2人は、ここあたりで光が消えてしまうまで戦っていた。


 ここで戦うのも、2人にとってはもう慣れたもの。

 しばらく戦ううちに、コウヤもだいぶ戦いの記憶を取り戻してきていた。




 「今日も一本勝負を何十本でいいな?」


 「ああ。よろしく」




 これは2人の中でのルールであった。

 無闇に模擬戦をするのではなく、当て止めで一本とった方が勝ちというルールにする事で、怪我をするのを防いだのだ。




 「どうだコウヤ。昔の記憶は戻りそうか?」


 「さっぱり。なんかもう無理な気がしてきた。それに、力の方もだいぶ戻ったからか、最近は打ち合っても殆ど変わんないんだよね」


 「そうかー」



 軽々と、以前より滑らかに変身を行うコウヤ。

 成果は確かに出ていた。


 だが、先ほどの態度を見ればわかる通り、昨日今日あたりで、行き詰まりを感じ出していることもまた事実であった。




 「例の“一番重い本棚” にある本は、一冊でも開そうか?」


 「てんでダメだ。うんともすんとも言わねぇ」




 コウヤの精神内に存在する書庫。

 コウヤは、そこにある本を読み込む事で、様々なジョブに変化できる。


 だが、本には重さがあり、強い力であるほどに重くなっていく。


 神威をより使いこなし、また力を理解するほど耐えられる重さが増えていくのだが、それが最近はあまり成長できていない。


 打ち止めというのはそういう点だ。




 「じゃあもう、火事場の馬鹿力作戦だ」


 「ん………?」




 武装をし、背中に翼を生やすラビ。

 憑依召喚。


 自身が有するモンスターの姿を憑依させ、その能力を得る生物迷宮の特殊なスキルだ。




 「行くぞッ!!」


 「え、ちょっ、待………」




 上空へ飛び上がったラビは、そのまま落下する勢いでコウヤへと突っ込んでいった。

 慌てふためきながら、慌てて本を開いたその直後、




 「!!」




 黒い忍び装束で身を包んだコウヤが、いつの間にか飛行するラビ背後へと回っていた。


 が、




 「………見えてた?」


 「当然」




 コウヤのクナイを後ろに回した手で受け止めていたラビは、身を捻りながらコウヤを弾き飛ばした。


 上空へ放り出されるコウヤは、いつの間にか、その手に弓を携えていた。

 しかし、姿に変わりはない。


 コウヤはシノビのまま、アーチャーの弓をもっていた。




 「………………照準、セット」




 呼吸を落ち着け、魔力で弓を生成。

 体感1秒を、何倍にも引き延ばすほどの凄まじい集中の中、気流とラビの動きを読む。


 距離が離れているので、乱射は有効ではない。


 故に一本。

 本気の一本を矢に込める。



 そして、弓を引いた。





 「弓遁・五月雨」




 合技。

 それは、複数のジョブの技を、組み合わせ放つ、コウヤの新たな技。

 シノビの持つ影分身と空蝉。

 そしてアーチャーの射撃を喰らわせたこの技は、

 


 「!?」



 本気の一本が、無数の増殖する。

 瞬く間に、ラビの視界は矢に覆われた。




 「げっ、シノビとの合わせかよ!!」


 「お前これ嫌いだろ!!」




 この技は全てが幻影であり、全てが本体。

 実態が幻影のある場所へ自在に移動可能であり、幻影に触れた瞬間矢が瞬間移動し、突如実態を持つ。

 実質回避不能な技。


 だが、



 

 「——————召喚」


 「は」





 空間を覆い尽くす巨大なゴーレムが、幻影ごと矢を飲み込んだ。

 矢は特段貫通力を失ったりはしないが、肝心の幻影は消えた。

 そして、視界も塞がれてしまった。





 「いやズルっ——————っ!?」





 人影、左奥。

 僅かに動いたその影を、コウヤは見逃さなかった、が、それはもう、コウヤの目の前に来ていた。


 しかし、同時に違和感も察知した。

 神威がまるでない。


 そして、その気配もラビのものではなかった。

 つまり、身代わり。





 それを理解し、魔力探知を広げた時には、もう既に致命的であった。


 背後から迫る人影。

 今度こそ間違いなくラビだ。

 そう、目の前にいるのはラビを模したゴーレムだった。






 (ああ、負ける)





 そう思った瞬間、コウヤの意識は、自然と書庫へと潜った。

 がむしゃらに、必死に。


 いつまで経っても持ち上げられない本へ手を伸ばし、今日こそはと力を加えるが——————
















 「はい、終わり」



 一本。

 結局今日も、コウヤは新たな力を得る事なく、一本を取られてしまった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ