第1308話
「………」
目が覚めたら、みんなに顔を覗き込まれていた。
「………あ?」
「「「やっと起きた」」」
そんな口を揃えて言わんでも。
と思ったが、日が落ち始めているあたり、かなり長い間寝てしまっていたらしい。
どうやら、俺が一番最後のようだ。
「………よう。待たせちまったみたいだな」
心配をかけてしまったらしい。
俺ともあろうものが、情けない話だ。
「全く、何に手こずっていたんだ?」
と、ゼロはいう。
なるほど、こいつらはてっきり俺が相当な難敵と戦ったと思っているのだ。
ますます申し訳ない。
「あー、そうか。お前らは戦わされたんだったな。いや、それがな、俺の場合は自分の能力が幸いして戦ってないんだわ」
「何ぃ〜? じゃあのんびりスヤスヤ寝てたって事?」
「随分と気楽なものですね」
「いへえはあ、ひっはんあ」
ウルクとルージュリアが揃って俺の頬を引っ張ってきた。
それで指が触れてふと気がついた。
「おお? おあえあ………んがっ! いてぇ………お前ら、相当強くなったな。予想以上に経験値もらえたみたいだな」
無理矢理引き剥がしたせいで紅くなった頬を冷やしながら、俺はそう言った。
言いながらだが、だんだんと驚いてきた。
上げ幅がかなり大きい。
今までの苦労は何だったのかと思うほどだ。
しかし、それはそうと妙な視線が二ついや、三つ。
「………ん?」
リンフィア、ラビ、コウヤ。
この3人が妙な様子で俺を見つめていた。
「んだよ」
「いや、金髪お前………何かあったか?」
「あ?」
「何つーかその、悪い意味じゃないけど、なんかなぁ」
リンフィア達に訴えかけると、理解するように2人は首を縦に振っていた。
まぁ、正直心情に変化がないわけではない。
しかし、付き合いが長い2人ならまだしも、コウヤにも気づかれるとは。
「ま、色々だ」
「………なら良いんだけどさ」
さて、と。
もう用事も済んだ事だ。
そろそろお暇してしまおうか。
「ここにいても危ねーから、そろそろ帰ろうぜ」
「ああ、それなんだけどよ」
「ん?」
手を上げたコウヤの指の間には、投げ入れたはずのコインが挟まっていた。
なるほど、何となく理解した。
「わかった、誰が残る?」
「話はえーよ。こえーよ」
まぁ良いけど、と言いながら、コウヤはラビの方に手を置いた。
「ワタシが残る。あとはみんな帰るっぽい」
「そうかイ。その辺はもうお前らに任せるよ。今なら早々やられはしねーだろうからさ」
一応、俺は持ち歩いている食料やらの入った収納アイテムをラビに渡した。
「3日分はある。メシの方は作るのが面倒なら、どっちでも良いからちょくちょく補充しに来い」
「へへ、ありがとう師匠」
これで良い………と思ったが、ゲロさんはどうするべきだろう。
コウヤのところに置いておくべきか、俺の手元に置くか。
いまいち扱いに困る。
「少年」
「ん?」
「オイラをコウヤのところに置いておこうとしてるのなら、それは拒否するよ」
と、そんな事を言ってきた。
てっきりコイツはコウヤのところにいたいものかと思っていたのだが。
しかし意外かと言うとそれこそ意外とそうでもない。
コイツはどちらかと言うと、コウヤに対しても隠し事の方が多い………というより、何かをコウヤに悟られないようにしている節がある。
何にせよ、情報源が残ってくれるなら好都合。
利用させてもらおう。
「んじゃ連れて帰るか」
「よろしくね〜」
俺はゲロさんの宿をしまって、帰宅組に魔法をかけた。
「「「ん?」」」
「何があるかわかんなかったから温存してたけど、もう魔力使っても問題ねーだろ」
チラッと残る2人の顔を見る。
コイツらは今後カギになる重要な2人だ。
思う存分、気の済むまで強くなって欲しい。
身体も、心も。
「楽しみにしとくぜ、コウヤ、ラビ」
「「おう!」」
俺は人差し指を上げ、重力と風魔法を重ねがけする。
その瞬間、俺を含めた帰宅組の体がふわりを浮かび、
「じゃな」
弾丸のように、空向かって吹き飛んだ。
そして、数名の悲鳴と共に、とてつもなく高いユグドラシルの頂上から、拠点に向かうのであった。
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それから帰宅し——————ガミガミと説教を受けながら帰宅した俺は、ゲロさんからコウヤについて皆んなに話していた話を改めて聞いた。
『コウヤはこの世界に直接影響する能力を持っているが、それでも管理者本人ではないこと』
『コウヤはラビ達生物迷宮を襲った人物ではなく、やはり以前俺たちがあったあの男こそが首謀者であること』
『ゲロさんは、コウヤのために管理者に復讐をしようとしていること』
これらの点を踏まえ、今コウヤについて出ている話をまとめると、
『コウヤは管理者の兄弟の可能性があること』
『カイトにいる以前、コウヤはユグドラシルで管理者と共にいたこと』
『コウヤは、ゲロさんが代わりに復讐に走るくらいに、管理者から何か酷い仕打ちを受けたこと』
このくらいだろう。
少しずつ、真実に近づいていってる。
少なくとも、疑惑が晴れた以上悪い真実ではない。
………その筈なのに、何故だろうか。
胸騒ぎが止むことは、決してなかった。




