第1302話
謎の人物………と言っていいものか。
とにかくそれは、ゲロさんは、語り始めた。
己の持つ目的を。
「オイラの目的は二つ。まず一つ目は管理者、カラサワ・エイトへの復讐だ」
「「「!!」」」
復讐。
わかりきっていたことではあるが、その復讐という言葉で、ゲロさんと管理者の間に繋がりがあることが明確になった。
しかし、だからと言ってそれを聞いてゼロが信用をするわけでもない。
敵の敵は味方だと安易に考えるのは早計であることは、周りのものもよく理解している。
だから、まだ先を聞かねばならなかった。
「理由は何だ?」
「デリカシーないなぁ、魔族の少年」
「そうよ、魔族の少年」
「黙ってろメルナ」
コホン、と咳払いをし、仕切り直すゼロ。
そして再び尋ね直した。
ダメ元もいいところ。
話をしないと言われていた以上、聞かせてもらえない事は前提で尋ねていた。
しかし、
「詳しくは言えない。けど、真っ当に恨むだけの事をされた。オイラに、じゃないけどね………っと、これは答えみたいなものだな。いや失敗失敗」
「………」
おどけてそう言うが、声色はまるで笑っていない。
それはどこまでも冷淡なものだった。
それは中々核心に触れる理由であった。
意図はわからない。
しかし、コウヤのために復讐をしていると言う事は、皆何と無く察しがついた。
すると、開き直った方か、誰かが指摘するより早く、ゲロさんは正直に口を開いた。
「ここまで言ったからもう言うけど、復讐はコウヤのためさ。そんでもってもう一つの目的というのも、コウヤを管理者から守るため」
「「「!!」」」
たった今、この発言により、一つの疑問が解消された。
それは、コウヤが管理者かもしれないと言う疑問だ。
「どうしたんだい? そんな鳩が豆鉄砲を食ったような顔して」
「では彼は、管理者ではないと?」
「酷い勘違いだなぁ、ウンディーネのお嬢さん。あ、もしかして攻略本なんて持ってるから、記憶を失う前は管理者だったかもしれないと思った?」
図星をつかれギクリとした表情を見せるルージュリアだったが、素直に頷いた。
すると、馬鹿馬鹿しいと言わんばかりに、ゲロさんは高らかに笑った。
「あっはっは、違うよ。管理者じゃない。だから安心していいよ、生物迷宮のお嬢さん」
「ぇへ………っ………!?」
泳ぎ放題の目と、何かに縋るような表情。
赤の他人でさえわかるほど、わかりやすい不安と期待を表に出していたラビは、話しかけられてつい声を上ずらせていた。
「コウヤは、君の種族を脅かした者じゃない。それだけは断言できるよ」
「そ、そっか!! そっかぁ…………!!」
安心したからか、ラビはその場にへたり込んだ。
これでもう、この先恨む事もない。
それだけでも、ラビにとっては朗報であった。
「では、やはりコウヤ君は管理者の兄弟って事かしら?」
「! それ、本人から聞いたのかい? 魔族のお嬢さん」
途端に反応を見せるゲロさん。
何かあると踏んだメルナは、すぐさま探りを入れようとした。
「メルナよ、ロボット君。どこか間違っているのかしら?」
「オイラ生憎だけど、人の名前を呼ぶのが照れ臭いって言うお茶目な部分があってね。ちなみに間違いかどうかに関しては………そうだな。君らはどう聞いてる?」
「どうも何も、唯一記憶に残っている弟が管理者かもしれない、くらいのニュアンスでしか………」
「………………………弟、か」
どう考えても、どこか含みのあるニュアンスだ。
追及はしかった。
何故なら、
「ッ、うおおおおおおおァッ!!!」
たった今、コウヤが目を覚ましたからだ。
「コウヤ!? 起きたのか!?」
「ハァ………ハァ………め、迷路ちゃん………って事は、ここは」
キョロキョロとあたりを見回し、現状を確認するコウヤ。
しかし、それだけではなく、何かを探るようにして、やたらと胸の辺りをさすっていた。
「あ、穴………」
「穴?」
「………………いや、いい。そっか………なるほど。身体はここにあるわけね………」
パタンと、コウヤは全身を預けるようにして倒れた。
全身から、尋常じゃ無いほどの汗を流しながら、手で顔を覆う。
ただならぬ様子に、皆それぞれ心配そうな視線を送っていた。
すると、
「悪い、みんな。多分、巻き込んだかも」
「え?」
「おい、ゲロさん」
目だけを木剣のある方に向けるコウヤ。
息も絶え絶えな様子で、ゲロさんに話しかける。
「何かな?」
「お前は知ってたのか? このミッションは、誰かが俺に管理者を倒させるために作ったものだって」
「………丁度、その話をさっきしていたところだよ。このミッションは、君もために作られたものだってね」
「………クソッ、ふざけんなよ」
ハッ、と。
鼻で笑いながら、コウヤは悪態をついた。
そして、つらつらと話し始めた。
「………このミッションは、対象の過去を見せるもの。記憶喪失かは関係ない。そいつにとって、最も因縁のある相手との戦いを強いられる。敵か味方かはぼちぼちだ。多分、嫌な思いをした奴もこんなかにいるだろう。悪かった」
「それはいい。しかし、お前は何と戦ったんだ?」
ゼロの質問に、少し間を置くコウヤ。
すると、躊躇いながらもこう答えた。
「………………俺、みたいな奴」
「!? どう言うことだ?」
「わかんねぇ。髪色は違うけど、俺と同じ顔した、俺と同じような能力を使う奴だ。でも、俺よりずっと強かった。そんで、胸にデケェ風穴開けられたところで、こっちに戻ってきた」
コウヤは歯を食いしばりながら、拳を地面に突き立た。
「だああああああああ!!! ちくしょう!! スゲェ悔しい。あれは、いずれ俺が辿り着くべき境地だった。本の能力を完全に使いこなして戦う、俺の理想の戦闘スタイルだ。次は絶対勝つ」
「何を言っている。コインはもう投げ込んだだろう」
「へっへーん。これなーんだ」
コウヤはポケットから取り出したそれを、ゼロに見せた。
そこには、もうないはずのものがあった。
もったいぶる必要もないだろう。
そう、それは泉に投げ入れたはずのコインだ。
「迷路ちゃん、記憶を取り戻すの、ちょっと協力してくれるか? こいつがあれば、管理者にも勝てる」
「それならワタシは協力は惜しまん。やってやろう」
「へへ、そう来なくっちゃ………あれ?」
もう1人、必要な協力を得ようとあたりを見回し、ようやくそこでコウヤは異変を察知した。
「金髪は?」




