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第1301話


 その扉は、地獄へと繋がっていた。


 或いは恐怖の対象。

 或いはトラウマのある出来事。

 或いはそのどちらでもないもの。


 しかし皆等しく、それは当人にとってまさに、地獄というべき場所へと繋がっていた。





 「………なるほどな」





 そう頷くのは流。


 鮮明に記憶に残る、あの日の出来事。

 姉の死んだあの日、仲間を、友人を、兄弟失ったあの日のこと。



 その情景が今、目の前にあった。




 紛うことなき地獄。

 確かにトラウマだ。


 しかし、これを見る事が果たして試練なのだろうか。





 否。





 「………!」





 心臓が跳ね上がる。

 目があったのは、かつて死んだはずの姉。

 留華の目は、確かに流に向いている。


 その殺意もまた、流に向いている。




 「………そう言う試験ね」




 しかし、流は動揺しなかった。

 彼はもう、全てを受け入れているのだから。



 









——————————————————————————————











 「んがっ」




 むくり、と。

 声を上げた流は、スッと起き上がってあたりを見ると、そこはもう、世界樹の枝の上であった。




 「ん………身体は置いてきてたのか………あれ」


 「やっと起きたか」


 「え? みんな早くね?」




 ぞろぞろと待っていた仲間たちを見て、流は驚いたような声を上げていた。


 そして、そこに居る全員、皆一様に不機嫌な様子であった。

 なので、ついつい聞いてしまう。



 「みんな気分は?」


 「「「最悪」」」




 思った通りの答えに、思わず吹き出す流。

 それを見たゼロが呆れたように尋ねてきた。




 「おかしな奴だ。お前も同じような扉に入ったんだろう?」


 「まぁね」


 「何故そうも平然としている………いや、楽しそうにしてる?」




 目を丸くする流。

 少し考えて、肩をすくめながらこう言った。




 「………久々に、兄弟喧嘩が出来たから。かな?」


 「流兄………」


 「そんな顔しないでよラビちゃん。形はどうあれ、会えないはずの奴と会って、会えないはずの奴と殴りあえた。変に仲良くするような夢見させられるより、俺はずっとそっちの方がいい。多少居心地が悪いくらいの方が、後からいい思い出になるってもんだよ」




 さて、と。

 そう言いながらあたりを見回す流。


 一人一人に視線を向け、そして足りない2人に気がついた。

 視線をを少し離すと、その2人の姿が確認できた。


 

 それは、あまりにも意外な人物であった。




 「あれ………マジか………!?」



 1人はコウヤ。

 そして、もう1人というのは、




 「はぁ〜………………珍しいこともあるもんだ。あの聖が手こずってんのか」




 そう。

 ケンだった。


 この中の誰よりも強いはずのケンが、いまだに出てきていない。

 特に、この国に来る以前のケンを知っている者は、驚いている様子であった。




 「それなんだよねー。あのケン君が、だし。精神的にクるけど、正直あんな試練に手こずるなんてねー」




 と。

 皆何か思うところがあるのか、やたらと強く反応を見せた。




 「うん………やっぱり、少し拍子抜け、ですよね?」


 「確かにね………」




 ルージュリアやメルナ。

 そして他の全員も、それには同意していた。




 「こんな危険な場所で、しかもボーナスなんて破格の報酬付きのミッションのくせに、やっぱ簡単すぎるよな」


 「それは多分、このミッションがコウヤのために作られたからさ」



 「「「!!」」」





 そう言ったのは、寝ているケンの手元にいるゲロさんだった。




 「このミッション、何かおかしいと思ってたよ。少なくとも、文字化けなんか起こるわけないからさ」


 「というのは?」




 ゴクリと息を呑みながら、ラビはそう尋ねる。




 「あいつの本に記載されている情報の中で、確かに閲覧不可能なものはある。その中にはまぁ、ミッションもあるのよ。けど、文字化けはない。これにそう言う仕様はない」


 「………随分と、詳しいんですね?」




 低い声で、ルージュリアはそう言った。

 私は信用していないと、釘を刺すような視線だ。


 そして、同じような視線を向けるのがもう1人。




 「お前、どこまで何を知ってる?」




 そう、ゼロだ。




 「そもそも、コウヤ自体出自の知れないのに、何故お前はそれを知っている? 一体なんなんだ? お前の目的は、何だ?」




 数人は慌て、数人は宥め、数人は静観する。

 しかし、誰も止めない。


 何故なら、皆それを知りたいから。


 気になること、気にしなければならない事の答えが、ここにいる。




 「疑り深いのはいい事だ。けど忘れてないかい? 信用していないのはオイラも同じこと。前にも言ったはずさ。知りたいなら、オイラを信用するんじゃなくて、オイラを信用させてくれよ」


 「………」


 「けど、それはあくまでコウヤについての話さね。オイラの話は別だ。だから、彼のことに触れない程度には、オイラのことを話してあげるよ。だから、その殺気を抑えなね?」




 ゼロは鞘にかけた手を下ろし、その場に座り込んだ。


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