第1300話
1時間。
昇降機にしては異常な時間だ。
地球で見たものと比べて早いこの昇降機ですらそれだけかかるのだから、この木の高さがどれほどおかしいのかわかるというもの。
しかし、それほどの高さなだけに、頂上から見える景色はすごかった——————と言いたいところだが、
「おお………」
見渡す限り葉っぱまみれ。
ようやく消えたと思ったら雲がかかっており、地上は見えなかった。
だが、ここはそれほどの高度があるということ。
肌寒い風と、空の近さから、それがひしひしと伝わってくる。
しかし、観光に来たわけではない。
先を急がなければ。
「で、次はどこだ?」
待ちきれず、俺はゲロさんにそう尋ねた。
「そこはオイラじゃなくて、攻略本に聞いた方がいいぞ、少年」
ゲロさんがポイっと丸投げした先にいたコウヤは、とうに地図を広げて待っていた。
準備のいいことだ。
「すぐそこだ。そこの枝から幹に向かってけ、ばっ」
と、その枝に向かってコウヤは飛び降りた。
そう思っていると、幹の方を見て大きく目を見開いている。
何かを見つけた様子であった。
目的地はもう、すぐそこということらしい。
俺たちもコウヤの降りた枝に向かって飛び降りた。
「っとと」
着地をしたがわずかに揺れるだけで枝はしっかりと木にくっついている。
恐ろしく丈夫な木だ。
「さてと………………あそこか」
幹の方を向くと、そこにはわかりやすい空洞があった。
どう見ても人の手によって綺麗にくり抜かれている。
そしてそこから、強い神威を感じる。
「んぉ、お」
流石に複数人が飛び降りると、それなりに枝が揺れる。
ゲロさんは別として、俺を含めてこの場に9人。
これが今の俺たちの戦力。
そして、ここの入ってそれがどれだけ向上するか、それが今後の鍵になる。
「金髪、コイン」
「ん?ああ」
俺は、ゼロから返してもらったコインをコウヤに渡した。
すると、
「枝から離れんなよ。参加条件はこの枝の上に乗ってることだ」
「あ、え、もう始めるの? 心の準備とかいらない?」
とんとん拍子に進む様子に戸惑うゲロさんを見て、確かにと踏みとどまるコウヤ。
「それもそうか………けど………」
だが、周りの準備は問題なかった。
すでに心はそのミッションに向かっている。
「問題ないってさ」
「生き急いでるなぁ。まぁ、みんなが構わないっていうならいいけれど、あっ!」
コウヤはこちらを向いたまま、背後にある空洞に向かってコインを投げた。
「まぁいいでしょ。そんな、コインを入れた段階で急に事が起きるなんてことは」
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「あ?」
突然、コウヤの声が途切れた。
いや、コウヤだけではない。
景色も消え、肌寒い風も一切止んでいる。
ハッとして振り返ると、そこには何もない。
よくある、と言ったら俺も大概おかしな経験をしてきたなと思うが、まぁよくある白い空間が広がっていた。
が、一つおかしな点があるとすればそれは、
「………ん?」
少し見上げると、そこに小さな扉があった。
扉が宙に浮いているのだ。
「入れってこと、か………あ?」
その瞬間だった。
ウインドウが開かれ、ミッションが発令された。
そして、そこにはこう書かれていた。
『試練の泉:完了』
と。
そう、クリアした扱いなのだ。
そして、どうやらこれは報酬ということらしい。
「扉だけってのは妙だけど………」
壁も何もない空間。
扉はおそらく別の空間に繋がっているのだろう。
一体何と戦わされることだろうか。
………戦い。
そう思うと少し不安になる。
と言っても自分のことではない。
俺が心配なのは仲間たちだ。
何かと戦うことになるとして、こんな危険地帯で行うミッションを1人でこなすことになるのは果たして大丈夫だろうか。
ラビやルージュリアはともかく、あの2人以外はユグドラシルで戦える水準を全く満たせていない。
………いや、これは一応報酬という名目だ。
それでプレイヤーを殺すのはおそらくこの空間のルールに反するはず。
「まぁ、信じるしかない、よな」
トン、と。
扉の前まで飛ぶと、少し広めの足場があった。
目の前に立ってみるが、奥から何かを感じるということもない。
しかし、それがむしろ不安を煽ってくる。
例え空間が隔たれていたとしても流石に扉の前でも何も感じないというのは妙だ。
こうなってくると、内容に関して、皆目見当つかない。
本当にぶっつけ本番だ。
「ん〜〜〜〜神様仏様トモサマ。俺はどうでもいいけど、どうかあいつらのはラクチンな試練にしてくれ、よっ!!」
パン、と手を叩き扉に手をかける。
そして、ノブを捻り、勢いよく押し出した、その瞬間、
「ぁ——————」
頭の中に、何かが流れ込んできた。




