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第1299話


 魔力。

 それは、至る所にあるこの世界特有の力。


 場の性質に応じ、発生する量は異なり、その性質について真に知るものは、少なく人の中にはいない。

 それこそまさに、神のみぞ知る、というもの。


 文字通りの神秘だ。




 そして、その魔力が多く発生する場所も、当然特別と言える。



 このユグドラシルは、視覚的にもわかりやすく特別な場所だ。

 やはり、魔力には恵まれている。

 人にとっては嫌になるほどに。


 まるでモノに触れているような、重量すら錯覚してしまうほど膨大で、濃い濃度の魔力がそこらじゅうに溢れている。

 それは強力なモンスターの発生源でもあり、血に受けたものの刺すような殺気も場に入り混じり、息をするのも辛い環境が出来上がっていた。




 「流石にキツイな………」



 額から汗を滴らせながら、流はそう言った。

 周囲の索敵をしつつ、この魔力にも耐える。

 なかなか辛い作業だろう。



 「ただでさえ気ィ張ってないとダメな状況だってのに、こりゃ大変だわ。やっぱメダルの件を後回しにしたの正解だったな、金髪」


 「確かに、手に入れたばっかの時期に経験値目当てで寄ってたらキツかっただろうな」



 ゾッとする話だ。

 しかし、急がば回れとはよく言ったもので、回ったおかげで、まさしく最高のタイミングでメダルを使えるのだから、結果オーライというものだ。


 だが、今のあまり状況は良くない


 耳を澄まさずとも、仲間たちの息遣いの荒さがわかる。

 精神的な疲労もなかなかだ。

 

 それだけならばまだしも、ここはまだ大樹の内部ですらないのだ。




 「これでも、まだ一番下ってのがな………」




 見上げると、根ですら途方もない高さで幹に貼り付けている。

 数人はそれを見るに大仰に肩をすくめるが、この場合は大仰とも言えないだろう。




 「あららぁ、戦ってもないってのに、オタクらもうへばったのかい?」




 と、運ばれてるゲロさんが、運ばれているくせにそう言った。




 「この場合、戦ってた方がまだ気が楽だったかもな」




 バレてはいけないという心理が悪影響というのはあるだろう。

 それにしても、という話だろうが。




 「そんなに歩きたくないってんなら、一応昇降機はあるよ。ここ」


 「ま、マジ!?」



 と、流が元気よく尋ね返した。

 現代っ子がここに来て飛び出してきた。




 「管理者がインドア派だったんでね。景色のいい頂上には楽に行けるよう細工はしてたのさ。まぁ、これは後付けだから地図にはないと思うよ」


 「………………うん、確かにない、けど………」




 コウヤが訝しむのもわかる。

 ここは敵の本拠地。

 馬鹿正直にそこの施設を利用するのは流石に短慮が過ぎるのではないか、と。

 しかし、




 「行こうぜぇ!!」


 「大型魔法具、バンザああああああああイ!!」




 そんなことも考えてない流とウルクは我先にと飛び出し、そしてどさくさに紛れてメルナがゼロを引っ張って同じく走って行った。




 「あぁっ!? 待てこの馬鹿ども!!!」


 「色々考えてた俺らが馬鹿だったな。諦めようぜ」




 俺はコウヤの肩に手を置くと、流石に観念したようで、そのまま全員で昇降機へと向かうのであった。

 まぁ大丈夫………とは言えない。


 だが、おそらく侵入はもうバレている。


 だったら使えるものは使っておこう。

 どの道向こうは手を出せないのだから。










——————————————————————————————









 「こいつは………」




 案内に従って移動すると、入り組んだ根があった。

 その根を潜って奥に向かうと、広けた空間があり、目的のものは意外にもすぐ近くにあった。

 

 しかし、それはあまりにも、機械らしい機械であった。



 「おぉ………急にSF………………このコンセプトの違いよ」



 黎明期の無骨な鉄の塊ではない。

 一面特殊金属で加工された筒状の建造物で、その最下層に円盤状の昇降機が乗っている。

 しかし、魔法で浮上するタイプではなく、中央の円柱に沿うようにして上下する構造をとっていた。

 外見をきっちりと整えた上で、近未来でメカニカルを感じさせる見た目をしている。



 「からくりってよりはメカって感じだな、こりゃ。いいのかよ」




 あまりの世界観の違いに、思わずそんな声を上げる流。

 しかし、確かに言いたいことはわかる。

 世界樹なんていうファンタジーチックなもの中に、まさかそのまま機械じかけの施設があるとは思わなかった。




 「これも機械………………ケンくんがたまに作る道具みたいな感じがします」




 リンフィアは不思議そうに昇降機を眺めていた。

 ストルムのケーブル以上に見覚えないものだろう。




 「ともあれ、これで頂上までは時間短縮出来そうですね。なんというか、意外と拍子抜けと言いますか」




 拳を突き合わせてそんなことを呟くルージュリア。

 どうやら暴れたりないらしい。

 



 「確かに、戦闘担当のお前や俺からすれば楽な仕事だったかもな」


 「かー、お嬢様に護衛させちまってる状況が情けねぇよ」


 「そう拗ねんなよ、コウヤ。少なくとも、後もうちょいでそんな状況から抜けられるかもしてないんだからさ」


 「そう簡単に行くもんかね」


 


 確かに。

 この先にあるミッションは得体が知れない。

 内容によっては、ずっとキツイものになるだろう。


 何せ、こんな危険な場所で行うのだから。




 しかし、俺たちは向かわなければならない。

 残り2ヶ月。

 それまでに全てを終わらせなければ、俺たちはハルバードとの約束を守れないのだから。




 「とにかく、行ってみるしかねぇってことだ」




 期待も不安もまとめて乗せ、昇降機は世界樹の頂上へ向かうのであった。

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