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第1296話


 敵のアジトの位置、勢力のあらまし、ユグドラシルの構造などなど、役立つ情報はある程度貰った。

 まだ薄明かりのあった空も、すっかり更けている。


 随分と長い間話を聞いていたようだ。




 「時に少年」


 「あ?」


 「君は四大妖精の神器をどれくらい集めた?」




 というと、俺たちが集めていた例の装飾品のことだろう。

 たしか、




 「あー、ラビがサラマンダー、俺らはウンディーネのを持ってて、んでノームは近々持ってくるっつってたか。手元にはねーけど、事実上3つだな」


 「シルフのは?」


 「まだだけど?」




 ふむ、と言いながら顎に手を当てる仕草を見せるゲロさん。

 今度は一体何を考えているのかと思っていると、




 「少年は、多分この場の誰よりも強い。あってる?」


 「一応そのつもりだ」


 「だったら、君が取りに行くってのはどうかな?」


 「む」



 拭いきれない声色の胡散臭さから来る不信感と、実は考えていたせいで納得しかけていた部分が頭の中で喧嘩をしている。

 確かに、後一つで全てが揃う。

 前倒しにするなら俺直々に向かうのもありかもしれない。


 しかし、




 「………いや、まだ動くわけにはいかねぇな」




 今回は、慎重にいくべきだろう。





 「それは………」


 「誤解すんな………いや、誤解でもねーか。確かに信用し切ってはない。でも、どっちかっていうと、俺はお前に対しての不信感は小さめだ。ただな、パーティ全体の実力が不十分な状態で抜けるのは色々とマズいんだよ」


 「そんなに仲間の強さに信用ない?」


 「はっきり言って、今はない。動かないなら安全だけど、時間がない俺たちは常に何かをしてないとダメだ。今俺が出ちまえば、その間の無駄な時間が出来る。完全に悪手だ」




 しかし、取りに行かないわけにもいかない。

 神器の収集は、この先必須だ。


 状況もラビ次第で、いつその神器を使って元の肉体を取り戻せるかわかったものではない。


 となると、選択肢は——————






 「私が行こう」


 「!!」




 堂々と、頼りになるような声で、そいつはそう言った。

 マントを着た、長身の男。


 ゴツゴツとした肌と、人より外れた牛のような面相を持つ、亜人。


 そう、こいつは、






 「………………誰だ?」


 「え? 知り合いじゃないの?」




 ブンブンと顔を振って否定した。

 が、妙に覚えのある声だ。


 どこかで聞いたような、




 「………………あ? もしかして………」


 「む、そうか。亜人形態は見せていなかったか。では、」




 牛のような顔が、次第に変形していく。

 変わっていくその顔には、俺は確かに見覚えがあった。


 そうだ、こいつは、かつてレイターに操られ、俺たちの前に立ちはだかった、




 「ベヒーモスか!!」


 「ああ、久しいな」




 サバスという偽名をつけられた、あのベヒーモスだった。




 「そうか、アンタ魔物払いしてくれたんだっけか」


 「一応な。色々と自己紹介をしたいところではあるが、そんなことより話したいことがあるだろう?」


 「ああ、さっきの発言の続きをしてくれると助かる」




 話の流れ的にも、間違いなく自分が神器を取ってくるという流れだろう。

 聞かないわけにもいかない。


 こちらとしては、願ってもいない提案だ。




 「元々主………ラビ様からの提案でね。ある程度、流とウルクリーナがこの環境に慣れた後に、神器を取りにいくつもりだったのだよ」


 「そうだったのか………って、それならなんでわざわざ盗人みてーな真似してサラマンダーから奪ったんだよ」


 「ああ、それは単純な話だ。サラマンダーは、五色獣に対する信仰が浅い。それに尽きる。そして逆に、シルフは信仰が深い。悪さばかりする種族だが、妙に律儀なところがあるのだよ」





 犯罪者ばかりだと言われてる種族にそんな一面があるとは。

 種族全体で同じ性質を持つあたり、そういう思想の面でも強く結びつきがあるということだろうか。


 まぁ、そんなことはどうでもいいが、




 「だったら、エルも連れて行くか?」


 「話が早くて助かる。実はその話をするつもりだったのだよ。いざという時、影を通れば、神器をお前たちのところへすぐに届けられるしな」




 ベヒーモスの視線が、影の方へ向けられる。

 辿ってみると、影から少し頭がはみ出ていた。

 どうやら出たがっているらしい。




 「ファルドーラの娘。その姿を見せてはくれないか?」


 「………………」




 モジモジとしながら、エルは姿を現した。

 まるで親戚に対して人見知りをする子供のような反応だ。




 「フ………昔のあいつそっくりだな」


 「………おかーさんを知ってるのですか?」


 「人で言えば同期という奴だ。よく知っている」




 さぁ、と。

 手を差し出すベヒーモス。




 「今から行くのかよ」


 「早いに越したことはない。私に預けるのが不安だというのであれば、話は別だが」




 信頼云々の話では、特に不信感はない。

 大事なのは、エルの意思だ。


 しかし、それについてはもう決まっているらしい。


 伸びた手が、何よりも物語っていた。




 「あ、えっと………」


 「行きたいんだろ? ついてってやれ。そこで存分に、かーちゃんの話聞いてこい」


 「! はいなのです!」




 エルはビュンと飛んだと思うと、ベヒーモスの頭の上に収まった。





 「よろしくお願いするのです、おじさん」


 「うむ。では行こうか」




 ベヒーモスは俺に一瞬目配せをすると、元の姿に戻り、そのまま森を駆け抜けていった。

 

 これで、一つの課題はクリアだ。



 神器が実質全て揃った今、やはり俺たちがやるべきなのは、修行だ。


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