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第112話


 「ははっ! やっぱり君が最初にそれを聞いてくると思ったよ」


 トモはクルクルと楽しそうに回っていた。


 「………」


 疑問には思っていた。

 こいつは、俺らが召喚されたのは魔王を討伐するためだと言っていた。

 恐らくそれはその通りだと思う。

 あくまでも召喚したのはこの国だから魔王を討伐してほしいと考えてもおかしくはない。


 しかし、実際には既に魔王はおらず、標的は存在しない。

 いやそれに関してはこの際どうでもいい。

 

 俺が疑問に思ったのは、“魔王の討伐”と言う点だ。

 魔族ではなく魔王。

 言い間違いだとは思えない。

 知らないなんて事はもっとありえない。

 そもそも国王は魔族とも魔王とも言っていなかった。

 その時点で違和感はあったが、ここにきて確信に変わった。


 多分、ワザとだ。


 「相変わらず察しが良いね。そうさ、君らのうちの誰かが疑問に思うようにヒントをあげてたんだよ」


 「白々しいな。俺に気づかせるためだろうが」


 「あはは」


 クラスの連中は何の疑いも無くこの世界では生きているだろう。

 疑問を持ちそうなやつを強いて挙げるなら蓮くらいだ。

 それ以外はたとえ考えてもゴールにはたどり着かない。


 「いや、ね。1人くらい中途半端に事情を知ってる子がいてもいいじゃないかなーと思ったんだよね。でも、知ったところで他の子じゃあっさり死んじゃいかねないから、やっぱ君しかいないってなったわけさ」


 他の神はともかくこいつは完全に遊んでやがる。

 


 「中途半端か………つまり喋る気は無いんだな」


 「うん、それはつまんないからね。それに君だったらいずれ気づくんじゃ無い? それとも」


 全身を締め上げられるような感覚。

 頭の先から足の先まで凍るようなこの感じ。


 

 ゾッとした。



 思念体でもこの迫力。

 さすがは神だ。


 「力づくなんて出来っこねーよ。今はな」


 「へぇ? じゃあいつか挑む気かい? 神の仔である“特異点”の君が」


 俺はトモの目の前に立って顔を近づけてこう言った。


 「いいかダチ公。神だろうが人だろうが、前に立つなら容赦しねぇ。特異点だァ? はっ、俺は俺だ。いつか絶対テメェら神をみんな出し抜いて、好き勝手してやる。出し抜くのはお前もだ、トモ」


 「ふ、ふふっ、ふははっ、あっははははは!! 神を出し抜くと来たか! いいね君。やっぱり君を選んで正解だった。やってみなよケンくん。たかが人間、されど人間だ。もしかしたら君は本当に………いや、此処で言うのはつまんないな」


 「?」


 一体何を言おうとしたのだろうか。

 またろくな事ではないだろう。


 「まあいいや、気がついたご褒美にこれをあげるよ」


 トモはパチンと指を鳴らした。

 すると、それに呼応して、布に包まれた何かが現れた。


 俺はそれを手に取り、布を広げて中身を取った。

 それは、


 「巻物?」


 俺はその巻物を広げる。


 「………何だこれは………この術式………ここが切れて………」


 パン、とトモは手を叩く。


 「うおっ」


 「ストップ。のめり込むのは後にしてよ」


 「これは何だ? まさかまた作ったのか?」


 「まあね。暇だからちょっと」


 中身は魔法創生陣だった。

 しかし、これは特殊なものだ。


 「スゲェ魔法だが、未完成じゃねーか」


 「その段階でもう何なのか気がついたのかい?」


 「? ああ」


 何だ一体。

 まさか違うのか?

 それは無いと思うが………


 「これが解けたら君に使用する許可をあげる。普通の人じゃ一生かかっても解けないくらい難易度上げてるから頑張ってねー」


 「げ、面倒くせぇ………完成版くれよ」


 「相変わらずの図々しさだね」


 やれやれとかぶりを振る。


 「おっと、時間だ。僕は戻るよ。じゃあねー」


 トモは前回と同じくフッと姿を消した。




 「チッ、今回はこれを手に入れただけよしとするか」


 俺はそのまま帰ろうと思った。

 しかし、


 「か、帰られてしもうた………」


 腰痛の爺さんがまだいた。

 今までの会話聞いてたのか?

 んー………


 爺さんからものすごい哀愁を感じる。

 そんなに腰痛を治したかったのか。


 「はぁ………」


 俺はため息混じりに爺さんに近づいた。

 この爺さん、今更だがものすごい猫背だ。

 なら、


 「爺さん、動くなよ」


 「?」


 俺は爺さんの後ろに回り込んで背中に手をやる。

 やっぱり、これなら治る。


 「神の使い何を………」


 「せー、」


 手に軽ーく魔力を帯びさせ、


 「のッッ!」


 「ぎ!?」


 傷をつけないように背骨と周辺の骨や筋肉を整えてやった。

 魔力は血管を通っている。

 つまり、全身を流れているので、俺の魔力と呼応させ、爺さんの肉体を調整し、腰骨を元に戻すことができるのだ。


 「立ってみ」


 「む………」


 爺さんはのそのそとゆっくり立ち上がった。


 「お?」


 そして、何歩か歩いて、そのあとに走ったり、跳ねたりしていた。


 「よ、腰痛が!」


 「じゃあなー爺さん。あんま背中曲げてくれんなよー」


 「待っ………」



 早く魔法を解読したかったので急いで宿に帰った。










———————————————————————————












 場面は変わって、現在宿の屋上。

 俺のお気に入りスポットだ。


 「さてと。さっさと解読してやろうかな」


 俺は巻物を広げてじっと見つめた。

 見た感じ恐らく補助系の魔法だ。


 しかし、これは魔法を覚えるための創生陣では無い。

 これを解読すればある魔法の効果が増える。

 ゲームで言う拡張パックみたいなものだ。


 「でも難しいと言っていた割には案外あっさりいけそうだな」


 確かに厄介だが、時間はあまりかかりそうも無い。




 ……………






 

 「あれ? マジでどうなってんだ?」

 

 何と1時間かからずあっさり解けてしまった。

 本当にいつの間にかと言う感覚だ。


 「んー、拍子抜けだな。でも、これで使える」


 俺は勉強は嫌いだ。

 大学を卒業できるくらいの知識は大体得ているのでこれ以上学んでも面白くも何とも無い。


 しかし、魔法は別だ。

 どんどん覚えれば覚えるほど使える。

 理科は道具が必要だが、こちらは基本的にいらない。

 好きなもんを好きなだけ使える。

 凝り性な俺は、1年間得た知識を使って様々な魔法を覚えた。

 それでもまだ全てでは無い。

 さて、お出ましだ。



 「よし………!」



 紙に魔力を注ぎ、術式を脳に叩き込む。

 この感覚は嫌いでは無い。


 「………きた」


 これは、なるほど。

 久々にいいのが来たな。

 トモめ、いい土産くれやがって。


 文字が流れ込む。

 まるで踊っているかのように術式が舞っている。


 「!」


 完成と同時に、周りの魔力が反応し、小さく風が舞った。

 そして、役目を果たした魔法創生陣はボロボロに崩れ去った。


 「ふぅ」


 首をグルンと回してパキパキっと音を鳴らす。

 術式を覚えた後は何となく首の辺りが凝ったような感覚になるのだ。


 「うっし。完成っと」


 目を瞑り、魔法をイメージする。

 これは、複合魔法の新しい使い方を記してあった。

 

 その効果は、魔法の二重複合だ。


 今まで試していたが、どうもうまくいかなかったが、ようやく理解した。

 

 「さて、それじゃあ使ってみるか」


 俺は町の外に飛んでいった。

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