第111話
俺は久し振りに教会に来ていた。
別に信心深いわけではないが、この世界では数少ないであろう神さまを認識しているので存在は信じているという事になる。
信仰はしていない。
「おーい、トモ。どうせここに来んの知ってたろ。早よ出て来い」
呼んでみるが返事はない。
留守か?
そもそも留守なんつーシステムじゃないだろ。
俺はおもむろに座った。
「やっぱ人すくねーな」
やはりガランとしている。
広く信仰されているのだろうが、なぜか此処に人がいるイメージはない。
「あいつが神ってのは重々承知してるけど祀られてるってのは妙な感覚だな」
俺からしてみれば知り合いが信仰されているようなものだ。
そんな感じのことをぼやーっと考えていると、
「おぉ! 貴方は!」
以前ここで見かけた爺さん見つけた。
「お、爺さん。久しぶりだな。相変わらずここはガラガラで………」
「神の使い!」
ん? なんだって?
「この老いぼれめは貴方の正体を知っているのです。貴方は知恵の神と対話なさっていた。つまり! 貴方は神の使いということだ!」
いや、違うけど。
興奮してるなぁ爺さん。
「いや違うぞ。俺は………」
「嘘を申すなァアア!」
「えぇえええ!!!?」
さっきまでの謙った言葉遣いはどうした!
「お前さんは神の使いじゃッ!」
「いや断定!?」
なんつーメチャクチャな爺さんだ。
ボケてんじゃねーか?
「つかなんで爺さんこんなところに居ンだよ。まさか毎日来てんのか?」
「当たり前じゃ。わしはこの街で最も信心深い町民かっこ自称」
「かっこは口に出すなよ」
しかも自称。
「わしはただ純粋に知恵の神を信仰する者。それが毎日お祈りのために足を運んで何が悪い!」
クワッと目を見開いた。
謎の迫力だ。
「おぉ………」
「神よ! わしの腰痛を治す知恵を与え給えー!」
「いや、思いっきり私利私欲のためじゃねーか!」
なんなんだこの爺さん。
こんなノリで過ごしてたら、面白爺さんとしてさぞ有名なことだろう。
「おいトモ! どうせ見てんだろ! さっさと出てこい!」
「あはは、神の使いだって」
突然頭上から声が聞こえた。
ケタケタと楽しそうに笑っている。
間違いない。トモだ。
「テメっ、面白がって出てこなかっただろ!」
トモはくるくる回りながら俺の前に移動した。
「だってこのタイミングで出てきたら、ほら」
「やはり神の使い! ああ、知恵の神様ああ………」
すっごい拝んでくる。
腰痛を治すために。
「最初に呼んだだろうが!」
「いいじゃん別に」
何て神だ。
皆さんこれが神の真の姿ですよ。
「ハァ………もう爺さんは放っておいていいや。用件はわかってるだろ」
「魔族の件かい? いや、」
トモはニヤリと笑みを浮かべてこう言った。
「魔族側の召喚について、かい?」
「! やっぱ知ってんだな!」
「もちろんさ。僕は神だからね。御察しの通り、僕以外の神による君らの世界の人間の召喚さ」
やっぱりか………
この人間の世界には三柱の神が存在する。
まず、力の神。
これと言った名前はなく、その逸話や性質から皆そう呼んで居る。
【力を司りし“力の神”。其の剛力で大地を割り、其の剛力で海を裂き、其の剛力で天を落とした】
そんな神話が語られている。
なんと力だけで惑星を破壊したと聞く。
やはりモノが違う。
次に命の神
こちらも決まった名はない。
あらゆる生命の根源となると神らしい。
【生命を司りし“命の神”。風を、自然を、人を創り出した万物の母】
これが命の神の神話だ。
最後は知恵の神。
こいつにも名前はなかったが、この前俺がつけたトモという名前を気に入ってるらしい。
【叡智を司りし“知恵の神”。全ての理を創造した、あらゆる叡智の源】
だそうだ。
「それで、どの神が呼んだんだ?」
力だろうか。
命だろうか。
はたまたこいつか。
しかし、其の問いの答えは俺の予想を外れていた。
「僕らじゃないよ」
「は?」
「彼らを呼んだのは向こうの、魔族の神様」
「!」
まさか………
「封印されてたんじゃなかったのか………?」
「されてるよ。でも、指示は与えられる」
「あ………」
そうか、なら後は魔族達に召喚させればいいのか………
俺たちの時も呼んだのは結局こちらの魔法使いだった。
「君らの時みたいな1年の修行期間はなかっただろうけどね。あれは神がいないと出来ない裏技だから」
空間の創造と時間操作。
紛れも無い神業だ。
「で、ケンくん。そんなこと聞くだけのために此処に来たんじゃないよね。だから、さっさと本題に入りなよ」
そう、本題は別にあった。
色々聞きたいことはあるが、1番知りたいこと。
これは正直修行時代も考えていた。
そして、場合によっては、やはり俺があいつらの元を離れたのが正解だった言える。
それは、
「お前ら神の目的を、俺に教えろ」




