第108話
あの後、全員の家を回りガキどもの家族の治療を終えた。
最初よりはずっとスムーズにことが進んだ。
やはりこいつを連れてきて正解だった。
思った通り全員顔見知りだったらしい。
「ふぅ、これで終わりか。助かったぜ、ブル」
こいつの名前はブルと言う。
ちなみの妹の名前はテリアだ。
「役に立てて嬉しいです」
さっきの一件以来、尊敬の眼差しで見てくる。
懐かしい。
昔カツアゲやってた奴らボコボコにしたら舎弟にしてくださいって言ってきた奴が何人かいたな。
そいつらもこんな感じだった。
「そうだ、これ聞いとかねーと」
俺は治療のついでにある事を聞いて回っていた。
それは、ブルに薬を売っていた奴のことだ。
どうやら全員同じやつから薬を受け取っていたらしい。
そして、その家族もブル同様薬が効いていると信じ込んでいた。
調べてみると、全員なんらかの暗示がかかっていた。
割と弱い暗示だったので、先刻のヨルデにかかっていた遠隔操作とはまた別だ。
魔法やスキル以外でこんな真似ができるのは限られている。
俺が怪しんだのは、魔族だ。
魔族の中に幻覚を見せるものがいる。
そいつらは幽鬼族と呼ばれる種族だ。
もうそいつら自体が幻覚のようなふわふわした存在だが、結構厄介な魔族である。
まず、物理攻撃がほぼ通じない。
殴っても斬ってもすり抜ける。
そして何と言っても幻覚は厄介だ。
ただでさえ物理攻撃が通じないのに、幻覚でダミーなども設置させると混乱してしまう。
だが、付け入る隙がないわけではなく、魔法攻撃には弱い。
「ともかく、その医者とやらを探さねーとな」
「医者………」
「次に薬を渡すのは今日なんだよな」
「一応その予定ですね」
今まで聴いた中では3件目の家が1番早く薬をもらう予定だった。
ここを調べて次に来る時間帯を把握すれば………
「あの、ケンさん」
「あ?」
「顔が怖いです………」
俺は気づかぬうちに顔に力が入っていたらしい。
いかんいかん。
琴葉に注意されちまう。
ケンちゃん顔こわいと言われ、昔軽くショックを受けた記憶がある。
今は全く気にしてないが、これは完全に癖になってるな。
「ワリ、考え事してた」
「そうですか。俺、代わりに聞いときましたよ、次の時間帯」
「おお、サンキュ。気ィ利くじゃねーか」
俺はバシバシとブルの背中を叩いた。
「あ、あざっす、いてて」
おっと、つい叩きすぎた。
「それで何時だ?」
「7時です——————」
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薄暗くなった貧民街。
明かりが無いせいか、いつもの7時よりもずっと暗い。
人通りも少なく、ただただ静かだった。
すると、街の方から足音が聞こえてきた。
「さて、薬を出さないとな」
足音の主は、体格の小さい男だった。
見た感じ40歳前後といったところか。
声がめちゃめちゃ高い。
「馬鹿な人間どもだ。騙されてるとは知らずに。ウヒヒヒ。まずはこの家から——————」
「医者はっけーん」
俺は即座に鑑定をする。
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ホロー
魔族《幽鬼族》
HP:3000
MP:2000
攻撃力:1500
守備力:400
機動力:2000
運:10
スキル:幽鬼族スキルLv.4/格闘Lv.3/隠密Lv.3/暗視Lv.4
アビリティ:魔力操作/魔法【炎魔法・三級/水魔法・三級/土魔法・三級/闇魔法・三級/光魔法・三級/強化魔法・四級】
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「よっしゃ、当たりィ」
俺はガッツポーズを取り、ホローに接近した。
「!」
突然距離を詰められ、警戒したのか、人間に化けていた状態から本来の姿へ変身した。
そして、動かない。
通り抜けると思ったのだろう。
「馬鹿が」
「ぐっ、ぇ………ぁ!」
俺の手はホローをバッチリ掴んでいる。
向こうは何が何だか分かっていない。
「手ェ、見てみな」
「! きッ、さまァ………」
手には土四級魔法の【ロックグローブ】をつけている。
これは、腕に岩で出来たグローブを付け、それで敵をボコ殴りにする魔法だ。
「テメェらゴーストは魔法生成物の透過は出来ない。だろ?」
「ぐぬ………」
ジタバタしているが、離す気はさらさらない。
「さァーてと………」
俺は徐々に声のトーンを落としていき上目遣いで睨みながら、威圧を発動する。
「何が目的であんなモン渡したんだ?」
さっきまで苦しんでいた彼らの様子を思い出し、つい手に力が入る。
「………ぐぎィ」
「………さっさと答えろォォオオ!!」
体が押しつぶされ、上擦った声で助けてくれ、と言っていた。
俺は少しだけ緩め、喋らせた。
「め、命令されたんだ!」
こいつは案外簡単に吐いた。
「誰に………?」
「そ、それは言えない! 言ったら殺されちまう! 頼むよ! 見逃し——————」
俺は魔法で地面を作り、そこに向かって気絶するギリギリの威力で叩きつけた。
「ッラァ!」
「ッッ………ァ!」
ホローは地面でのたうち回っている。
俺はそれを拾い上げ、顔を近づけてこう言った。
「お前らの拷問と俺の拷問、どっちがツライか試してみるか?」
その後、ホローは情報をベラベラと喋ってそのまま何処かへ行った。




