「また……またですか?」
名前:神城 結衣
レベル:10
性別:女
年齢:16
種族:人間
クラス:付与師
称号:異界からの勇者
「うう~、お腹空きました。しくしく」
こんな所で勇者に会ってどうしろと!? クソ! 完全に想定外だ。どうするべきだ。戦う、逃げる、懐柔する? ああもう考えが纏まらない!!
「……ご主人様どうしますか」
何か、何か手は無いのか!
「す、すみません。あの、不躾なお願いなんですがご飯分けてください」
……これ、焦らなくても何とかなるんじゃないか?
私はとりあえず、今にも泣きそうな声で懇願してくる情けない姿を見て急激に頭が冷えていく。
とりあえず恩を売っておくかな?
そう思い私は荷物の中にあった食料を勇者に差し出す。
「ふえ、い、良いんですか?」
女の子座りで涎を垂らし潤ませた瞳を上目遣いで聞いてくる女勇者。
正直グッと来る!!
「うん。あげるよ」
私がそう言うと、私の手から引ったくるようにパンを奪い取り一心不乱に食べて行く。
「大丈夫なのハクア?」
「そうじゃ主様。助けない方が良かったのではないか?」
「まっ、一応ね」
私達は勇者に聞こえないように話ながら事態を見守る。すると勇者がパンを食べ終えこちらに話し掛けてくる。
「あっ、あの、ありがとうございました。ここ三日程、何も食べてなくて、本当にありがとうございました。あなた達は命の恩人です」
そう言って勇者が私達に頭を下げる。
やっぱりそうだよね? さっきは勇者っていう事に動揺してスルーしたけど、この子私と同じ世界の出身だよね? 名前も漢字だし、何より称号が異界の勇者だし。
この世界の勇者じゃないなら何とかなるかな?
「君は日本人だよね」
「えっ? あ、えと、は、はい! な、何でご存じなんですか?」
「名前」
「えっ? あ、そうかスキル……じゃあ私も……」
なぬ!
「えと、お名前はハクアさ……ん……貴女モンスムグッ!」
御者に聞かれると面倒なので勇者の口を手で塞ぎ、見えないように指を腹に当てナイフを押し当てているように感じさせる。
(やり方が手慣れておるのじゃ)
(確かにゴブ)
(まあ、ハクアだしね)
うるさいな外野。
「スキル使えるなら称号も見える?」
コクコクッ!
「じゃあ見て」
私の言葉に従って称号も見たのか驚愕に目を見開く。そこまでくればもう平気な筈なので私は勇者の拘束を解く。
「あ、あの、転生者ってあの転生ですか?」
「そう、だから君が日本人だとも分かった」
「す、すみません。私の早とちりでした!!」
おお、見事な土下座だ!
「うむ、素晴らしい土下座じゃな。これが本場か」
私が感動していると横でも感動していた。
「何で知ってんの?」
「んっ? ああ、我が土下座を知っているのが不思議なのか? なに、昔の仲間に主様のような転生者がいたのじゃ」
「なるほど」
「うぅ、本当にすいません」
「とりあえず話は後にしてはどうですか?」
「そうだね」
「ボクも賛成かな」
「君は何処に行く予定なの?」
「私はアリスベルに行こうと」
「なら一緒に乗って行けば良い」
「おいおい、勝手に客増やされたら困るぜ嬢ちゃん達」
私達が話しているといつの間にか近付まで来た御者の男がそう言ってくる。
「すいません。私はやっぱり……」
「悪いね頼むよ」
近付いてきた御者の手に一人分の値段銀貨20枚に10枚多く渡しお願いする。
「しょ、しょうがねぇな! ほれ、そっちの嬢ちゃんも乗りな」
「あ、その」
申し訳無さからなのか勇者が私をチラチラ見てくる。
あっ、微妙に面倒くさい。
「良い。行くよ」
「は、はい」
私の言葉に勇者は慌てて竜車に乗り込む。
「また……またですか?」
「まあまあ」
「仲間? ゴブ」
「まだ分からないかな」
「いつもこんな感じなのか主様は?」
〈ええ、大体〉
「皆も早く乗りなよ」
なかなか乗り込まない皆に向かってそう言うと、何故かアリシアに潤んだ目で睨まれ、皆に呆れた目で見られていた。
正直アリシアに関してはこう……グッと来たよね。他の人間は何であんな反応? 解せん。
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勇者とエンカウントして少しすると森を抜けた。御者はそこで止まり予定通り野営するらしい。
とりあえずここまでの道中、私達と勇者の間に会話は無かった。
と、言うより余程疲れていたのか竜車に乗ってすぐに勇者は寝たんだけどね。
そして私達が御者から少し離れた所に野営の準備をしていると起きてきた勇者がまた謝ってきた。
「す、すみません。竜車のお金まで出して貰ったのにお礼も言わずに寝るなんて」
「気にしないで良い」
「そうですよ」
「うんうん」
最初は警戒していたものの、竜車に乗り込むなり寝こける勇者に皆すっかり毒気を抜かれ警戒を解いたようだ。
これが演技なら大したものだけど。
〈素でしょうね〉
だよね~。
「あの、皆さんはどういった関係なんですか?」
「その前に野営の準備を済ませてご飯を作ろう。話はそれから」
「あっ、はい、そうですね。私も料理くらいは作れるので手伝います」
そう言って勇者は料理をしているアリシアに付いていく。
さっきも思ったけどさ、押しに弱いわ流されやすいわ、初対面の人間に警戒せずに眠るわ、全体的に緩くない? つーか、チョロすぎる。あれだとすぐに騙されそうだな。
〈そうですね〉
「ねえ、ハクア? あの娘このまま一人で大丈夫なのかな?」
「エレオノもそう思う?」
「いや、誰が見てもそう思うよ」
「だよね」
「大きな都市になればなるほど危ない所も増えてくるから、すぐに騙されちゃいそうで怖いな。あの娘可愛いし」
そうなんだよね。茶パツのサイドテール、しかもスタイルが良い上に胸もアリシアより少し小さい位。すぐに騙されて押し倒されたりしそうなんだよね。
「どうしたもんかね」
「う~ん」
「とりあえずはあの娘の話を聞いてから決めようか」
「そうだね」
こうして私達は何故か出会ったばかりのチョロイン勇者の心配をする羽目になったのだった。
〈チョロインはチョロイヒロインの訳。と言うことは、また仲間にするんでしょうか……?〉
何か言ったヘルさん?
〈いえ、何も……〉




