鬼拳・崩禍
今回も読みに来てくれてありがとうございます
先程とは違う速度に特化した高速戦が目の前で繰り広げられる。
「……速い。シーナなら着いて行けそう?」
「当然、余裕っすよミコト様……と、言いたいところっすけどあれは無理っすね。私の速度は空中戦で最大に発揮されるものっすから」
風龍として速度に自信のあるシーナが、ミコトの質問に悔しそうに答える。
シーナの言う通り風龍の最大速度は空中戦でこそ発揮されるが、それは地上における戦いで遅いと言うわけではない。
むしろその速度は地上戦であっても十分に他を圧倒するのが常だ。
だが、シーナ達の目の前で繰り広げられるハクアと咲葉の戦いは次元が違う。
目で追うのもやっとの速度で互いに動きながら、相手を出し抜く為のフェイントも織り交ぜられている。
はっきり言えばそのフェイントは、同じ速度域の者同士だからこそ有効なものであり、そこに至っていない相手に行っても無駄に終わる。
そんなレベルの高度な応酬が繰り広げられているのだ。
しかもそれを行っているハクアは、龍の里で修行した時よりも更に数段上の動きをしている。
この短い期間での成長速度を感じ取り、龍族の面々は改めてハクアの異常ぶりを目の当たりにしていた。
そしてそれとは別のところに注目している人間。
その人物である澪はこの中でただ一人、ハクアではなく、ハクアと戦っている咲葉に注目していた。
テアの授業により、元々あった力───崩壊の属性の理解を深めたハクアは、既にそれを澪から見れば完全に扱う事が出来ている。
本人に言わせればまだまだと言うだろうが、傍目から見ればその扱いは少なくとも澪には完璧に見えた。
だからこそ澪の視線は咲葉───正確に言えば咲葉の使う槍に注がれていた。
(咲葉の持つ槍は訓練用にコロナが用意したものだ。圧倒的な鍛治の才能を持つコロナが作った物だが、それでも特別なものではない。それなのにあいつの攻撃を受けられている)
澪の考えの通り、今、咲葉が使っている槍は咲葉が頼みコロが作り上げた物だ。
しかしその材料はどこにでもある普通の鉄。
ハクアとコロの研究で、不純物を限りなく取り除く事に成功した物とは言え、この世界に存在する素材としてはなんの力もないありふれた物。
いくらコロの才能が高かろうが、普通ならハクアの攻撃を何度も受けられるような物ではない。
(今のアイツはパワー重視の鬼神モード。そこにあの壊れスキルのヘルorヘブンが乗る。あのバカの事だから10連以外は引かないとなると、少なくとも通常攻撃の倍率は25倍以上。期待値は更に高くなる)
全ての攻撃に適用される訳ではないが、少なくとも無数の攻撃の中に紛れ込ませているだろうと澪は考えた。
そしてそうであればやはり、あの程度の槍でハクアの攻撃を受けるのは不可能だと判断する。
しかもハクアはそれだけではなく、攻撃に鬼海の力を宿し、崩壊の力も叩き込んでいるが、咲葉はそれをも軽く受け止めているのだ。
澪は先程のテアの説明を聞き、破壊の属性は攻撃部位を外部から壊す力───つまり、攻撃範囲を広げると同時に起点として外傷を大きくする力、脆弱は攻撃部位を起点に脆くする力と仮定した。
そしてその二つの力を宿す崩壊は、攻撃部位を起点に範囲を広げ、外と内の両方に力を伝播させ、両側から崩す性質があるのだと結論付けた。
だが、そんなデタラメな力を使っていてもやはり現実に、咲葉はそれを槍で捌くのではなく、受け止める事が出来ている。
(と、なるとやはり鍵となるのは咲葉の纏う力───神力か)
ハクアのパワーを防ぎ、崩壊の属性も寄せ付けない力。
その力の凄まじさに澪は一人戦慄していた。
同時にその力を手に入れるための算段を既に頭の中で思考し始めている。
そんな澪の様子を盗み見ていたテアは内心満足していた。
そもそもこの戦いは、ハクアの隠していた力を確認するためであり、ハクアのための試練でもあった。
それと同時に今現在のハクアとこの場の全員の現在位置を知らしめるためのもの。
目論見通り、この場の人間は自分とハクアを比べ、中には自分に必要なものを再確認した者も居る。
テアからすれば今回の目的の半分は果たしたようなものだ。
(さて……後は向こうですが)
視線を前に戻すといつの間にかハクアは龍人鬼に姿を変え、今度は速さから力にシフトして咲葉と戦っていた。
(色々な事を試して防御を突き崩す算段のようですね)
龍人鬼は、鬼の力に龍の強化を上乗せした、ハクアの全形態の中で最も力に特化した形態だ。
その真価は通常攻撃ではなく、スキルの威力を底上げすることにある。
単純な力だけで比べれば鬼神モードには劣るが、鬼神モードではハクアのスキルを使っても、通常の倍率でしかないが、龍人鬼モードではスキルも変化し、その全てのスキルがより強力になる事が確認されている。
それ故に鬼神モードよりも遥かに体力の消耗が激しく、ヘルorヘブンのようなスキルとは相性が悪い。
単純火力の鬼神モードと、スキル威力特化の龍人鬼モード。
どちらも一長一短である。
ハクアが咲葉の槍の一撃を後ろに倒れ込みながら避け、羽による姿勢制御で通常では有り得ない挙動を取る。
それと同時に龍人鬼モードの時に生えた尻尾を蛇のように移動させ、咲葉の足に巻き付け体勢を崩し、その隙を狙い強烈な一撃を放つ。
「鬼拳・崩禍」
一瞬にして膨れ上がった膨大な力が、ハクアの拳に圧縮され、先程テアが防いだものよりも数段───いや、下手をしたら数十倍の威力を持って放たれる。
「蒼穹穿」
ハクアと咲葉の必殺の一撃がぶつかり合い、行き場を失ったエネルギーが両者の間で爆発を起こす。
土煙が舞う中、先に動いたのは咲葉だ。
腰溜めに構えた槍が眩い閃光を放ち、ミシミシと今にも壊れそうな音を立て握られる。
そして───。
「穿て裂創迅」
槍先に集められた光が目の前の空間を抉るように穿つと、ハクアが居るであろう場所へと土煙を貫きながら突き進む。
「金剛六花・天蓋!」
「なっ!?」
ハクアの掛け声と共に荘厳な光が降り注ぎ、見る者を魅了するような美しく輝く光の花が咲く。
その奥にはいつの間にか天使モードへと変化したハクアが、その姿に似合わぬほど必死な顔で咲葉の一撃を防いでいる。
ハクアの新しい形態である天使モード。
その真価はハクアに今まで足りていなかった防御力にある。
光の属性は他者を清め、邪なるものを浄化する。
その性質上、他のどの属性よりも癒しと防御に特化しているのだ。
そしてその最たる存在である天使もまた、癒しと防御に特化して居る者は多く、ハクアも例に漏れず防御型としてその力を発揮している。
「ハアァァア!!」
両手を前に突き出し、咲葉の攻撃に耐えるハクア。
一枚、また一枚とガラスが割れるような音を響かせ、光で出来た花弁が砕けていく。
そして最後の一枚が砕けるかと思われたその瞬間、一瞬の力の緩みを見つけたハクアは、なんとか咲葉の攻撃を上に逸らす事に成功した。
「まさか、これを防がれるとは思わなかったわ」
「こっちは必死だっての」
互いに不敵に笑いながら軽口を叩き、それと同時にハクアは力を解放する。
黒い光の奔流が包み込み中から漆黒の悪魔が現れた。
読んで頂きありがとうございます。
ハクアの事を応援しても良いよって方は評価、感想、レビューとかどれでもしてくれると嬉しいです!
新しい挑戦。ラブコメ始めました。良かったらこっちも読んでください。普通のラブコメとはちょっと違う……と思う
クラス一の美少女は主人公が嫌いで、ハーレムラブコメ被害者の俺と友達になりたがっている
── クールで近寄りがたい“真白”が、なぜか俺に「友達になってください!」って?
モブ男子×美少女のじれ甘青春ラブコメが今始まる。
読む:book1.adouzi.eu.org/n6678lr/




