見栄張ってすんませんっした!?
やっとお休み
「しかし呪いかぁ……その発想はなかった。これならあれやこれも行ける……のか?」
「どういう事だ?」
咲葉から受け取った炊飯器をマジマジと見ながら呟くハクアに疑問を投げかける澪。
「私はずっと魔法で熱を継続的に加えたり、流動させたり、変化させる方向性で考えてたんだけど上手くいかなかったんだよね。でもこれは釜や米を肉体に見立ててるんだよ」
「えっと……それってお米を呪っているって事ですか?」
「簡単に言うとそうだね」
「それ大丈夫なんですか?」
「平気だよ。呪いにも種類があるし、これは熱を与えて体内の力を乱す効果がある術式だね」
「つまり釜を体、米を力に見立てて呪いをかけている……と?」
「うん。実際継続的な術式としては呪いの方が向いてるのかも。一定温度に保つとかだと普通の魔法で良いけど変化を付けたりってのは呪いの領分の方がやりやすそうだし」
興味深げに炊飯器を調べるハクアは今の自分の状況も忘れて楽しそうだ。
「ふむふむ。段階的に変化をつけるのを呪いの負荷で変えてるのか。それなら───」
「そこまで」
「もうちょっとぉ〜!」
「残念だけどここまでよ。これ以上見せると術式含めて全部解析して情報だけ抜き取られそうだし」
「そんな事はない」
実際、咲葉の言う通りである。
一見すればただ興味深そうに眺めているだけだったが、その実誰にも分からないように解析のスキルを走らせていたのだ。
あと少しで解析が済んでいたが、一番肝心な核心部分の解析が間に合わなかった。
バレないようにやっていたがどうやら勘づかれたらしいと素知らぬ顔で答えながら、内心では盛大に舌打ちしているハクアさんである。
「そんな顔をしても無駄。もちろん勝てとは言わないけど、本気でやらないとあげないわよ」
「クっ、炊飯器を人質に取るとは卑怯な……」
「本当に貴女ってわかりやすいのかわかりにくいのかよく分からないわよね。まあ、ある意味で簡単ではある気がするけど」
「そんな褒めんなっよ!」
「おっと……フフッ、やる気になってくれたようで何よりっ」
会話状態から突如として攻撃に転じたハクアの突きを首を傾け避けると、同時にその腕を取り投げ飛ばす。
しかしハクアはハクアで器用に空中でクルリと回転すると、何事もなかったかのように着地し警戒心を強める。
「嘘!?」
誰の口から漏れ出たものか。
その言葉が発せられた瞬間には、いつの間にかハクアのそばまで近付き槍を振るう咲葉の姿が映る。
───が、攻撃を受けたハクア自身は慌てる事もなく簡単に避けると、今度はお返しとばかりに獣のような低い体勢で一気に間合いを詰め襲い掛かった。
「どうやらこの程度は捌けるみたいね」
「まあ、流石にね? これくらいの動きなら元の世界でも何回も見てたし」
「そう。ならまだまだ上げても大丈夫そうね」
「待って! 間違えた! やっぱり今いっぱいいっぱいでした! 見栄張ってすんませんっした!?」
「あら残念ね。それならもっと上げていくから着いてきなさい」
「ド畜生どっちもハズレだっにゃわ!? いきなり襲うの止めません!?」
慌てて否定したハクアに無慈悲な宣言をした咲葉は、ハクアの悪態を最後まで聞くこともせず神速の一撃を放つ。
先程とは別次元の速度で放たれる一撃を大きく避け、その勢いを利用して咲葉の間合いから離脱するが、やはりどういう訳か咲葉は次の瞬間、瞬間移動でもしたのかという速度を超えた動きでハクアに迫る。
「速いね。さっきから目で追えないけど何かのスキルかな?」
「いや、多分違うっすよミコト様。スキルを使ってる様子はないっすよ」
「そうなの。ムーもさっきから見てるけどそんな感じしないの。と言うわけであれってなんなのミオ、ルリ?」
「正確に言えば私達も分からないですね。でも……」
「ああ、だが予測は出来る。恐らくはハクアと同じく起こりがないんだろうな。ハクアは極端に少ない程度だが咲葉はそれが全くない。それに独特な歩法が加わる事で目で追い切れない動きになるんだろうな」
「歩法かぁ。龍族にも歩法はあるけど多分それよりも洗練されてる……よね?」
「そうっすね。少なくとも私じゃ咲葉様はおろかハクアにも負けると思います。今さら真面目に修行しておけば良かったと後悔するよことになるとは思わなかったっすよ」
「ムーもなの。ハァ〜これじゃあハクアが龍族をバカにしてたのも否定出来ないの。ムー達も頑張んないと」
「うん。そうだね。私達もその為に来たっていうのもあるんだし頑張らないと」
ハクアに関わってまだそんな事を言えるミコト達に感心しながらも、澪の視線は件のハクアへと集中している。
しかしそれはハクアと咲葉の戦いに注目している訳ではない。
いや……正確に言えば戦いにも注目しているのだが、澪にはそれよりも何かが引っかかるような違和感が感じられたからだ。
「みーちゃん。私の勘違いでしょうか? 何か違和感がありませんか? 主にハーちゃんに」
「お前もか? なら間違いはなさそうだな」
「違和感って何、二人共?」
澪と瑠璃の会話を聞いていたエレオノが、その会話の内容に興味を惹かれ聞き返す。
しかしどうやらそれはエレオノだけではなく、この場に居る全員の疑問のようだ。
「ご主人様がおかし───ではなくて、凄いのはいつもの事ですし、特段いつも以上に異常な所はないように思いますが、澪と瑠璃の二人は何に違和感を覚えたんですか?」
「それが何かは分からないんだが何かがおかしいと私の中で警報がなっている。これを見逃すと後々面倒な予感がひしひしとするんだ」
「そうなんですよね〜。経験則としてハーちゃんのこう言った違和感を放置すると本当に……本当に色んな意味で危なかったり、大事になったりしますからね」
二人揃って妙に実感がこもっているが、興味本位で聞けばナニカに巻き込まられそうで聞けない面々は、ハクアと咲葉の戦いに視線を移す。
ここは華麗にスルーする事にしたようだ。
全員ハクア達との関係に慣れてきている証拠である。
視線の先のハクアは時に刀、時に剣、時に槍と様々な武具に持ち替え、次々に繰り出される神速の刺突を回避し、縦横無尽に動き回る槍を見事に捌きながら反撃もしている。
その光景は、正直に言えばハクアよりも高い自分達のステータスで同じ事が出来るかと言われれば、この場のほぼ全ての人間がNOと答える程の猛攻を凌ぐ。
防戦一方になる時間が長いとは言え、その猛攻を防ぎながら反撃までしているのは異常と言えば異常だが、この程度は既に異常とは感じなくなっている訓練された仲間達である。
とてもハクア達に馴染んでいると言えるだろう。
しかしそれ以外に何かおかしな所があるかと言われれば、誰も彼もが首を傾げる状況だ。
そんな中、静かに見守っていたテアが口元に手を当てて笑いを堪えている。
「何かわかったんですかテアさん?」
いつもなら瑠璃の質問にはいち早く答えるテア。
しかし今、その瞳はハクアと咲葉の戦いに釘付けになり瑠璃の声は届いていないようだ。
「そうですか白亜さん。貴女にとっての傲慢とはそうなのですね」
そんなテアは興奮しながら呟いた。
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