もうお家帰るぅ〜!?
「そんなに喜ばなくても良いですよ白亜さん」
「今の私を見てどこが喜んでいると!?」
縋るように結界に張り付きながら抗議の声を上げるハクアだが、やはりと言うべきか全員が苦笑いするだけで助けるような素振りはない。
あまりにも薄情な反応だが、いつも通りと言えばいつも通りなので恨みがましい視線を向けてグギギとしている。
「さあ白亜さん。観念してください」
それでもまだ諦めない白亜の様子に警戒を強めながら降伏を迫るテア。
しかしその瞬間、白亜の口角が上がる様子をテアは見た。
「しまっ───」
「遅い!」
膝を突いた状態からクラウチングスタートのように一気にトップギアに至ったハクアは、密かに体内で練り上げていた鬼気を爆発させる。
「鬼拳・崩禍。って、あれ?」
破壊と脆弱。
二つの属性を混ぜ合わせた鬼の力は崩壊の力へと昇華され、ハクアの新たな力として発現した。
その事に一瞬だけ驚いたハクアだが、その意識とは別に体は自由を求めて反射で動き出し一気に加速した。
だが───
「みぎゅ!? なん……だ……と……」
1mほど進んだ所でまたも見えない壁に思い切り全力でぶち当たり、悔しさと驚きが混ざった声を上げながら力なくその場に崩れ落ちた。
「フゥ……流石白亜さんですね。最近の成長スピードを計算して念の為もう一枚結界を張っていましたが、まさかああも見事に突破されるとは」
「本当に……、まさかテアの結界を壊すほど急成長しているとは……相変わらず成長スピードが未知数な子だな」
「あの……お二人ともしみじみ言ってますがこの私の惨状見てその感想ですの? もうちょっと全力疾走で見えない壁にぶち当たった子の心配しても良いんですのよ? ハクアさん今思いっきり当たったから顔面と首がものすごく痛いのですが?」
恨めしそうに言葉を吐き捨てるハクアは、普通の結界の更に外側、自分を閉じ込める為に張られた見えないもう一つの結界をぺたぺた触る。
そうする事でようやく何故自分が気が付けなかったのかを理解した。
テアは一つ目の結界を壊された流れで、二つ目の結界まで壊されないように隠蔽まで掛けて更に存在を隠していたのだ。
なんという念の入れよう。
それだけでも伊達にハクアと長い時間を過ごしていた訳ではないと理解出来る。
そもそも元と付くとは言え、神の張った結界を壊せると思う者の方が少ないのだから、それだけハクアを警戒していると言っても良い念の入れようだ。
どこまで本気で隠してんだ? というハクアの考えも尤もな対処である。
「くそう。張ってるのを知ってたら、そのまま鬼海を解かずにもう一枚も壊せたのに……逃げる方に集中するために、その分の力を足に集中力したのが間違いだった」
悔しそうに結界を叩くハクアに呆れながらソウが歩み寄る。
「しっかしアレだねハクちゃん。崩壊の属性もちゃんと扱えるようになったみたいで良かったよ。少しは身体が楽になったでしょ?」
「まあ、それはそう。崩壊って破壊と脆弱の複合属性だったんだね。ちょっとビックリした」
「いや、普通はちょっとビックリ所じゃないんだけどね。その辺は流石って感じかな」
「知らぬ。でもなんで身体が楽になったの? 一応前からちょこちょこと使ってたんですが?」
ハクアはここ最近力をつけた事によってまた少し不安定になっていた力が、今の一連の流れで少しだけ安定した。
それが何故だか分からず首を捻る。
「確かににそうですが、今まで白亜さんはその力をなんとなく感覚で理解して行使してきてたんですよ。でも破壊と脆弱の二つの力を正しく理解した事で制御力が上がったんです」
「それならもっと早く教えてくれても良くない? 結構長い間放置されてたんですけど」
破壊と崩壊の力が暴れまくりよ? と思いながらハクアが文句を言う。
「制御力が上がると属性としてのちからも増すからね。今までのハクちゃんだとそれを扱い切れなかったんだよ。今の状態でようやく土台が出来上がったレベルだから」
「ほーん」
「遠回りになったとは言え、破壊と脆弱を別々に使っていたのも良かった。そのおかげで両方をより深く理解出来たからな」
「なるほど」
自分の手を見下ろしてぐっぱっぐっぱっと開閉しながら何かを考えるハクア。
「よし。もう試せたから満足今日はもう終わろうか?」
「何事もなかったかのように逃げようとしても無駄ですよ」
「ド畜生! 良いからここから出せよ! さっきから喋らずに一人で黙々とストレッチしてる奴が怖すぎるんだよ!?」
ハクアが必死に懇願しながら指差す方には、今もまだハクアと同じ結界の中で黙々とマイペースにストレッチをする咲葉が居る。
心なしかウキウキしているのは見間違いではないだろう。
「やめて!? セクシー系の出来るお姉さんの見た目の癖に、実はポンコツでバトルジャンキーな奴と同じ空間に放置しないで!?」
「相変わらず失礼な子ね」
「「「えっ?」」」
その光景を見ていたテアや澪達以外の全員から驚きの声が漏れる。
それはそうだろう。
ここに居るのはそれなりの力を持った集団。
そしてその中には龍族すら混ざっている。
それなのにその全員の目に、いつ咲葉がストレッチをやめてハクアの真後ろに近寄ったのかまったく見えなかったのだ。
今もハクアと何気ない会話を続けるその姿にゾクリとしたものを感じそれ以上の言葉が出なかった。
「ほんとの事やん! 既にウッキウキでストレッチしてる奴をバトルジャンキーと言わずしてなんと言う!?」
「可愛い弟子の成長を肌で味わいたいと言う師匠の優しさね」
「肌で味わいたいと言う台詞が既にやばいと言う事実に気が付けや!? 平和主義なゴブリンさんは大人しく座学が良いです!」
「実践に勝る学習はないのよ。ほら、ごちゃごちゃ言ってないで構えなさい」
「い〜や〜だ〜!? もうお家帰るぅ〜!?」
駄々をコネ始めるハクア。
その姿にしょうがないと咲葉はあるものを取り出す。
「さて、これが見える白亜?」
「そ、それは……まさか!?」
「ええ、そうよ。炊飯器よ」
「な……なん……だと……!? な、何故そんなものがこの世界に……ハッ!? 騙されないぞ。どうせガワだけで使えませんとかってオチが!?」
「フッ、甘いわね。白亜なら知っているはずよ。私……スカサハの伝承と能力の事はね」
スカサハまたはスカアハは、アルスター物語群に登場する予言の力を持った武芸者。
スカハ、スカト、スカーサハなどとも呼ばれ、名前は「影の者」という意味を持つ。
「近代ではその由来から死の国の女王やルーン魔術の伝承者、ケルト魔術の使い手としても扱われてる。なるほど……ケルト魔術は呪歌も含む自然魔術と幅が広い、その知識にルーン魔術も合わせれば───」
「その通り。全ての知識を集約すれば炊飯器の一つや二つ作る事は造作もないわ」
「くっ、こっちの知ってる魔法だけじゃ再現出来なかったが、まさか別体系の魔法や魔術を併用するとはそっち系の知識が疎いばかりに!?」
勝ち誇る咲葉。
悔しそうに地面を殴り付けるハクア。
その二人を前に全員がしらけた視線を向ける。
「実はあいつらって程度が同じなんだよな」
澪の言葉に全員が納得したのだった。
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