聖女ってのは肉体言語が主流なん?
ふむ……情報が少なすぎてなんとも言えないな。
色々と質問を繰り返して見たがやはり実態は全く掴めない。
ここで掴めない事がわかったとは言えるが、それにしても情報がなさ過ぎる。
「どう思う?」
「情報がなくてなんとも言えないな」
「ですよね。それでも強いて上げるなら違いぐらいですかね?」
「かなー?」
「違いって?」
瑠璃の言葉に同意すると、千早がなんの事を言ってるのか分からず聞いてくる。
「ケース1村人の反応、ケース2調査に行った人間達、ケース3行商人、ケース4ディルガ」
この場合、村人はなにか処置が施されそのまま生活をしている。もしくは知っているけど話す事が出来ない可能性がある。
次に調査に行った教会騎士と見習い聖女だが、こちらは村人と違いそのまま生活をしたり、帰ってくることもなく行方不明になっている。
行商人の場合はもっとおかしい。
村人をなにかに使った、もしくはなんらかの実験の最中だから、一見するとなんの問題もない日常を演じさせているはずだ。
それなのに素人にバレるレベルのもので満足し、あまつさえ外部に簡単に知られている。
これは明らかにおかしい。
「つまり……見習い聖女一行のように行方不明になってないのがおかしいのね」
「まっ、そんな所。で、最後にディルガだけど、これは単純にディルガの実力的に手が出せなかった可能性だね。とはいえ、やっぱり異変を感じ取れる程度なのが気になる」
「だな。どちらかと言えば撒き餌に近い印象だが」
「その場合、大物のディルガさんをそのまま帰すのもおかしいんですよね。せっかく撒き餌に掛かったのに何もしないなんて、それなら見習い聖女さんも含めて手を出さない方がマシなんですよ」
「な、なるほど、よく今の情報だけでそんなに分かるわね」
「じゃあハクア達はなんだと思うの?」
黙って聞いていたアイギスの質問にやはり答えが出せずに私達は考え込む。
「撒き餌の印象が正しくて、思ったよりも大物来ちゃったからどうしようもなかった?」
「いや、それマヌケすぎないかしら?」
うん。私もそう思う。
とはいえ、お粗末な偽装工作をしているのだとしたらその線も全く捨てきれないのが問題だ。
「確かにな。撒き餌なのか、本気で騙せると思ったのか。まずそこから分からないからな」
「どっちにしてもまず全部の情報がおかしいんですよね」
「どういう事だ?」
「簡単だよ」
出揃っている情報を分けるとこうなる。
遠見の聖女とやらでも覗けない程の力、しかもそれは聖女に近しい力を持っている見習い聖女と教会騎士を害する程である可能性。
その割に素人の行商人にすらバレる偽装工作と、せっかく来た聖女をみすみす逃す手際の悪さ。
「ねっ? まったく正反対の印象でしょ?」
「確かにそうね」
「そもそも人間を襲いたいなら行商人も犠牲になってないとおかしいしね」
「う〜ん。サッパリね」
「まっ、そうなるよね。で、もう一つ聞きたいんだけど」
「なんだ?」
「どうしてそれで私の所に話が回ってきたの?」
私が引っかかったのがそこだ。
知り合いならば話は分かるが、よく知りもしない人間に助力を頼むくらいなら、聖女数人で行った方が遥かに楽だし、武力が足らないなら教会騎士や冒険者ギルドを頼る手もある。
それなのに何故それらをせずに一足飛びで私のところに依頼が来たのかが気になる。
まあ、なんとなく流れ的にわかってるんだけど。
「それは……」
ディルガはとても言いにくそうに後ろを気にしている。
うん。やっぱりそうなのか。
意識が向いてるのはやはり破邪の聖女だ。
恐らくはディルガは、遠見の聖女に頼った後に自分でも足を運んだ。
そこで何かを感じ取り、破邪の聖女にでも応援を頼んだのであろう。
しかしそこで返ってきたのが何故か私への依頼と言う形だった。
しかもこの様子ではその理由もちゃんと説明されてないのだろう。
私が呆れつつ破邪の聖女に視線を向けると、何故か破邪の聖女は私とバッチリ視線を合わせ、嬉しそうに微笑んだ。
くそう。顔はベールで隠れてる癖に、正統派聖女っぽい雰囲気を醸し出す感じが絶対美人だと確信できるからちょっと嬉しいじゃないか。
「まあ、しばらくはゆっくりするつもりだったけど良いよ。その代わり依頼を冒険者ギルドを通して出してくれる?」
「ああ、構わないがなんでだ?」
「……最近仕事してなくてさっき嫌味言われて来たから」
「お前あんまり仕事受けないし、ちょこちょこ音信不通になるからな」
「そうですね。行方不明だったり、研究で引きこもったり、死んだように眠ってたりしますもんね」
「その上、顔出すと騒動起こしたり、巻き込まれてたりだものね。白亜さん」
くっ、言い返せない。
でも私のせいじゃないのも結構混ざってると思うのだが? 言ってもダメなんだろうなぁ。
「わかった。重ね重ね協力に感謝する」
「さて、それじゃああんたの話を聞こっか?」
「ふふっ、はい。おかしなものですね。ずっと待ち焦がれていたのに、このたった少しの時間すら待ち遠しいと思ってしまうなんて」
「いや、なんで二人がそんなに驚いてんの?」
破邪の聖女が喋り出すと何故かアルカとディルガの二人が驚いている。
いや、なんで?
「い、いや。破邪の聖女様がこんな事を言うのが珍しくてついな……」
「と言うか、お恥ずかしい話なのですが、破邪の聖女様がこんなに喋るのを聞いたのが、私は初めてなんです」
「俺もだ。そもそも彼女が聖国から出ること自体が稀なんだ。私ですら両手で数える程しか知らない」
いや、そんなんがなんで私に会いに来てんだよ。
「改めてまして聖国にて序列第一位の聖女を務めております。ルシフェ=フォールと申します。どうぞお見知り置きをハクア様。ワタクシの事はルシェとお呼び下さい」
「「「なっ!?」」」
そう自己紹介したルシェの行動に今度こそ全員が固まった。
アルカとディルガですら軽く頭を下げる程度だったが、ルシェはベールを取ると私に対して何故か片膝を突き、カーテシーのような最上級の礼を取ったのだ。
「どういうつもり?」
「どうもこうもございません。これはワタクシの誠意です」
「会った事もないんだけど?」
「ええ、そうです……ね!」
次の瞬間、バネ仕掛けのように起き上がったルシェが三本貫手で私を襲う。
速い。
そうは思っても反応出来ない速度ではない。
後ろに下がりながら貫手を払い、返すように私も三本貫手でルシェを襲う。
しかし相手もそれを予測していたのか逆の手で払うと、更に踏み込み下段蹴りを放つ。
軽く地面を蹴って躱すが、通り過ぎた足はそのままの勢いで角度を変え、回し蹴りのような一撃へと変化した。
その一撃を腕でガードすると同時に巻き付かせ、宙に浮いた身体を固定してハイキックを見舞う。
だがやはりその攻撃も受け切られ私達は同時に距離を取り、着地と同時にお互いに前へ出る。
徒手空拳の応酬は段々と速度を上げ、より複雑に、より殺意の高いものへと変化していく。
それでも互いに一歩も引かず、無傷のまま応酬を続け、互いの拳がぶつかり合った衝撃で再び距離が出来た。
「ふーん。聖女ってのは肉体言語が主流なん?」
っていうか、いきなりの展開にお仲間の方が面食らってんだが? ディルガなんて武の聖女なんて呼ばれてるのに、戦闘スピードに目がついて来れなくてなんか落ち込んでない?
「ふふっ、そんな事はございませんよ。ただ少し私もハクア様に良い所をお見せしたかっただけです」
さっきまでの勢いは何処へやら。
ルシェはパンパンと何事もなかったかのように裾を払い、再び私の前に跪く。
そして───。
「ご無礼をお許しくださいハクア様。どうしてもワタクシの力を見知って頂きたかったのです」
「それはなんで?」
もう戦う気はないと態度で示され私は純粋な疑問として聞く。
「それは……ワタクシは今日この時より、序列第一位の聖女の位を返還し、貴女様の旗下に加えて頂きたいからです。この日、この時、この瞬間からワタクシの身も心も血の一滴まで貴女様に捧げる事をお許し下さい」
「「「えっ、えぇ〜!?」」」
いや、なんでこうなった?
読んで頂きありがとうございます。
ハクアの事を応援しても良いよって方は評価、感想、レビューとかどれでもしてくれると嬉しいです!




