いや、まじで知らんのよ
「貴様がハクアか?」
お互いに牽制しあってる二組の間をスルーして、しれっと入ろうとしたら教会騎士に捕まってしまった。
面倒臭いな。
「そうだけど?」
「この……恐れ多くも聖女様方が貴様のような者に会いに来てくださったと言うのに、こんなに遅れた挙句その態度はなんだ!?」
なるほどそれでいがみ合ってたのね。
突然押しかけられた側としては、こんな事でイチャモン付けられたらたまったもんじゃないだろう。
後ろを見ると今の言葉で更にいきり立っている。
ちょっと堪え性なさすぎじゃないですかねアイギスさん?
うん。顔を逸らしやがったね。
「そうか。それは悪い事をした」
「ふっ、そうだ。分かれば良───」
「それじゃそんな失礼な事をした私は聖女様のお目汚しにならないよう退散するよ」
「「「はっ?」」」
私の言葉に教会騎士達の声が重なる。
「だってしょうでしょ? こんな失礼な奴聖女様に会えませんよ。そうだな聖女様にはそっちから、あまりに無礼だったから追い返してやりましたとでも伝えてくれ」
「ちょっ、ちょっと待───」
「じゃ。そういう事で」
「待てと言っているだろう!」
教会騎士達が私の行く手を阻むように立ち塞がる。
「どうかした?」
「どうもこうもどこに行くつもりだ!」
「それはもう言ったけど?」
面倒な事になるのがわかってるから行きたくない所に、あんな事を言ってくれたのだからお言葉に甘えるんだよ?
「待てと言っているんだ! その……は、早く中に入れ!」
「いや、失礼の事したから聖女様にはとてもお会い出来ないっす」
「くっ……わかった。貴様の無礼は許してやろう」
「いや、許さなくて良いよ。帰るから」
「貴様、聖女様が直接お会いしてくださる事がどれほどの栄誉かわからんのか!」
「知らん」
いや、まじで知らんのよ。
「こ、この!」
私の態度に腹を立てた教会騎士が腰の武器に手を伸ばす。
おっ、やるか。大義名分貰えるからやっちゃるぞ!
「無礼なのは貴方達よ」
響き渡る女の声。
その発生源に視線を向けるとそこには眼鏡を掛け、肩の辺りで髪を切り揃えた紫色の髪を持つ修道服の女性が立っていた。
「き、金の聖女様」
金なのに紫髪とはこれ如何に。
「し、しかしこの者は───」
「黙りなさい。私達が今日この場に来たのは突然の事、それなのにここまでの対応をしていただいて、お会いしに来た方を遅いだなどと叱責するなど何を考えているのですか!」
「も、申し訳ございません」
「この後に及んでまだ謝る方を間違えているようですね」
ふむ。怒らせてみようと思ったけど、どうやら聖女の方は思った以上にマトモなようだ。
「そ、その───」
「その男を下がらせなさい。この国の騎士の方々、ハクア様達には大変ご迷惑をお掛けしました」
「いえ。お顔をお上げください聖女様。ハクア、中でお話を聞きましょう」
「そうだね」
まあ、この場での最高権力者はアイギスなので顔を立てないとね。
しかしこの金の聖女とやら……とんだタヌキだな。
この女は外の騒動に気が付いたから出て来た訳ではない。
あくまでこの女は私が理由を付けて帰ろうとしたから出てきただけだ。
何かしらの交渉を有利に進める為に、今の状況を利用出来るなら利用しようとしていたに過ぎない。
チラリと私の事を見る視線は、どちらかと言えば歴戦の商人に近い感覚を覚える。
金の聖女の金は経済を意味しているのかもしれない。
中に入るとまず目に入ったのは大柄な赤髪の女性。
聖女と言うよりもアマゾネスと言った方がしっくり来そうな女性は、金の聖女と同じような修道服を着ているが、内側からの筋肉でパツパツに見える。
おそらくはこちらが武の聖女と言った所か。
武の聖女は見た目も相まってその雰囲気は武闘家のそれだ。
金の聖女が一挙手一投足から情報を盗み出し、要求を通す商人のような視線なら、こちらは一挙手一投足から私の動きを予測しようとする武芸者のような視線だ。
そして次に目に入ったのが目を閉じて自然な姿で窓辺に立つ、スラリとした肢体に大きな胸が際立つ金髪ロングの女性。
ベールとマスクのように巻いた布で顔を隠していてよく見えないが、纏う空気にその佇まいは、私達が思い描くような聖女の雰囲気を醸し出している。
こっちが破邪の聖女か。
入って来た私の気配に気が付き、破邪の聖女が目を開けてその瞳で私を捉える。
その瞬間───。
ゾワリとした。
視線があっただけで私の中を覗き見るようなその視線は、二人の聖女とはまったく別の異質なナニカ。
私の身体は自然に動き出し一気に破邪の聖女から距離を取る。
その行動にいち早く動き出したのは澪と瑠璃の二人だ。
一気に最大レベルの警戒心をあらわにした私の前に立つように、二人が一気に戦闘態勢に入る。
他の人間がその一瞬の行動に呆気に取られる中、いち早く声を出したのはアイギスだった。
「澪も瑠璃も落ち着いて。ハクア、どうしたのよ!?」
悲鳴にも似たその声に我に返り気持ちを落ち着ける。
「悪い」
素直に謝る私を見て、アイギスは訳がわからないという感じだが、同時にその様子にゴクリと唾を呑んだ。
私も早鐘を打つ心臓を落ち着けようとするが、背中は一瞬で冷や汗で濡れている。
頬を伝う汗を拭い再び前に出る。
「悪かったな」
「……いいえ。むしろ流石と言った所でしょうか」
佇まいだけで言えば、すぐに倒れてしまいそうな儚げな印象を与える彼女。
しかしどう見ても私の目にはそうなものには見えない。
「フフッ、そう警戒なさらないで下さい。私には敵意は一切ございませんよハクア様」
優しげに笑うその顔に、澪と瑠璃以外のメンツから惚けるような吐息が漏れる。
「……お前、なんだ?」
「それにお答えするのはもう少し後にいたしましょう。まずは私以外の方の話を聞いて差し上げて下さいませ」
一向に鳴り止まない私の中の警報を深い息を吐いて黙らせ、二人の聖女に視線を戻す。
警戒は途切れさせるつもりはないが、彼女から敵意を一切感じないのも確かだ。
「悪かったな。それでお二人が今日ここに来た理由を聞いても?」
「それではまずは私からお話をさせて頂きたく思います。まず初めに私は序列第五位の聖女、名はアルカディア=ハーメンと申します。アルカとお呼び下さい」
その言葉にまたもフロストが反応するが、もう構う余裕はあまりないので普通に無視する。
「私がここに来た理由、それをお話する前にまずハクア様は聖女についてどこまでご存知なのですか?」
「軽くだけど説明は受けた」
「そうですか」
私が答えるとアルカはフロストではなく、私の後ろに立つイーナに視線を一瞬移した。
なるほど、聖女の中ではイーナの存在は全員が知ってるか、もしくは上位の聖女が知ってるのかって所か。
「私達聖女は大聖女様を筆頭に十の位に別れております。私の名を冠する金の名は経済に精通している事から来ています」
なるほど予想通り。
「つまりアンタは聖女として経済に関わってその地位に居ると?」
「そのような感じです。もちろん聖女として浄化などの仕事はしていますが、私の本業は内政、特に経済と言った感じですね」
「つまり私への用事もそっち関連って事でいいのか?」
「はい。そうなります」
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