なんか黒幕っぽいムーブ
「まず……まず確認させてちょうだい」
イーナの突然の登場に全てを察したアイギスが、胃にダイレクトアタックの直撃大ダメージを受け、お腹を押さえながら声を絞り出す。
その姿はなんというかとても気の毒になってくる。名無。
「大体が貴女のせいだからね!?」
いきなり濡れ衣を着せられる私はとても可哀想だと思います。
「まあ、良いわ。それでイーナさん? でいいのかしら?」
「ええ大丈夫ですよアイギス様。初めまして、表的にはハクアちゃんの通うお店のウエイトレスです」
「あ、あはは……表的には……ね」
「はい。それ以上はつっこまない方が楽だと思いますよ?」
「えっ? 巻き込めば?」
「鬼か」
「鬼ですね」
「鬼ね」
「聞かないわよ! 聞かないからね! とりあえず詳しそうな人が来てくれたと思っておくわよ!?」
アイギスは今日もとても元気です。
「で、聖女が三人も来たって話だけどどんな奴が来てるの?」
「それ私に聞きます?」
「だって呼ばれたって事は内情知ってんだべ?」
「まあ、知ってますけどね。今回ハクアちゃんを訪ねて来た聖女様は、一人は第五席の金の聖女、次に第三席の武の聖女、そして最後に第一席の破邪の聖女です」
「ほほう」
金に武に破邪ねぇ。
それに何席って序列も存在する中で上位の奴らが出張って来たって事か。
「そ、そんな馬鹿な……金の聖女様に武の聖女様が揃って訪ねて来るだけでも異常なのに……破邪の聖女様までも……」
「……凄いの?」
「まあ、凄いんだろ」
「第一席って話ですしね」
「むしろそんな人がハクアさんになんの用があって来たのかって事よね」
「せやな」
うーん。面倒な予感ですなぁ。
「いや、それよりも、何故貴女はそんな事を知っているんだ!? 一般の人間が知っているのは三席の聖女様までのはずだ!?」
「フロストさん落ち着いて下さい」
あまりに衝撃的な展開にフロストの語気が強くなる。
まあ、それくらいフロストにとっては衝撃的な内容なのだろう。
「しかもその聖女様に呼ばれたとはどういう事だ! 私は貴女の事など見た事も聞いた事もないぞ!?」
「そうですね。言っても良いんですけど、清廉潔白な教会騎士団の方は知らなくてもいい事ですよ。それに知っても何もいい事はありませんしね」
「な……ど、どういう事だ」
「そのままの意味ですよ。私が言えるのは貴方が知る世界が全てではないと言うことです。好き好んで自身の世界を壊したくはないでしょう?」
「……お前はなんなんだ? まさか、暗───」
「だから内緒ですよ。貴方はこれまで通り貴方の正義に従って進めば良いだけです。私の事は知らない、見てない、会ってもいない。私は今日ここには居らず、貴方もここに居なかった。それで良いじゃないですか」
口に人差し指を当てながら挑発するように語るイーナ。
おお、なんか黒幕っぽいムーブ。ちょっと羨ましいんですが、私も似たような事やりたいぞ。
でも残念な事に私そっち系向いてないんだよなぁ。どっちかと言うと巻き込まれる側だから、言う側よりも言われる側と言う……悲しい。
「くっ……」
「フロストさん」
イーナの言葉に動揺を隠せずに悔しそうに呻くフロスト、そしてそんなフロストの手を握り心配そうに見つめる結衣ちゃん。
うん。多少同情しようかと思ったけど、美少女の介護付きならそんな心配しなくて良いや。
「だとしても!」
「はい。ストップ!」
なんか決意を込めた瞳で続けようとするフロストを止める。
「お前、このタイミングはどうかと思うぞ」
「そうですよハーちゃん。せっかくの空気が一気に霧散しちゃいましたよ」
「明らかにハシゴ外されて呆気にとられているわよ彼」
「いや、だって私的には良いけど、一応待たせてる中でこれ以上サブストーリー進めてらんないし。そもそもフロストが納得しようがしまいがこっち優先だし」
「そりゃそうだが」
「すいませんフロストさん。そういうわけで今回はここまでにしといて下さい」
「えっ? あっ、えっ?」
怒涛の展開にキャパオーバーしたのか語彙がなくなっとる。
「さて、サブストーリーを強制終了したからこっちの話進めるよ。フロストは聞きたいなら聞いてても良いし、聞きたくないならさっさと立ち去っても構わんよ。その代わり残るなら静かにしろよ」
「色々言った私ですらちょっと可哀想になってるんですけどいいんですか?」
「構わぬ」
どうせ今は混乱してる。
こんな状態でどんな話を聞いた所で信じる事は出来ないだろうし、何よりも自分が今まで信じて来たものに後暗い闇があるなんて事は、知らずに居れるならその方が良いだろう。
「お優しいことですね」
「いや、落ち込んで結衣ちゃんとイチャつかれるとイラつくからだが?」
そのまま押し倒す流れになってなんて事になったら去勢するしかないじゃないか。
そうしたら私まで結衣ちゃんに嫌われてしまうので、出来れば私の与り知らぬ所で人知れずにして欲しい所存。
まあ、それでも発狂ものだが。
「ハクアちゃんの立ち位置がよく分からない」
「気にするな。私も分からぬ」
「それはどうなんですか?」
「まあまあ、それでイーナはてっきり枢機卿辺りが直属の上司だと思ってたんだけど、呼び出しがあってこうやって姿表すって事は一席辺りなのか?」
そうじゃなきゃ、わざわざ潜入してるスパイをこうやって呼び出して顔を晒させる意味が分からない。
「うーん。ぶっちゃけ、私の所属はハクアちゃんの言う通りなんですけど、この辺ちょっとややこしいって言うか、すこーし事情が違うと言うか」
「……もしかして、ここに来た聖女の誰かが暗部のトップ?」
「あ〜、せっかく私が止めたのに普通に言っちゃうんですねそれ。残念ですけどそれは私の口からは言えません。消されちゃうんで」
「なるほどね」
まあ、ぶっちゃけこれが既に答えと言っても良いのだが、一応対外的にはオフレコと言う事だろう。
私が言った暗部と言う言葉に、後ろでフロストがショックを受けているがとりあえず無視だ。
いまはそれよりも大事な部分がある。
つまり、私とイーナのさっきの会話が筒抜けだったと言う可能性だ。
私達が同盟を結んだのはついさっきだ。
それなのにイーナはこうやって聖女に呼び出され、普通に私達の前にそのままの姿で現れた。
と、言うことは隠す必要がなくなっている。と言う事を知っている可能性が高い。
私の情報を聞きたいなら直接聞けば良いだけだし、顔を隠す方法ならいくらでもあるのにそれをする必要がないと判断しているからだ。
う〜ん。諜報で負けてるのか、それともイーナの中に何か知らずに埋め込まれてるのか。
可能性は後者の方が少し高めかな。
知らない内に端末にされてて、常に配下を傍受出来るようにしてる。
この方がリスクもコストも低そうだし。
「まっ、考えててもしょうがない。そろそろ行くか」
これ以上はここでの判断は出来ないと考えて私達は聖女の待つ貴賓室に向かう。
「そういや皆は?」
部屋に向かう途中、アイギスにほかのメンバーの事を聞いてみる。
「とりあえず皆には隠れて貰ってるわ」
「そりゃそうか」
ぶっちゃけ皆は私も含め教会とは相性が悪い。
テア達は言わずもがなで、教会関係者に女神なんて見せられないし、ドラゴンも崇拝の対象になる可能性もあれば討伐目標にもなり得る。
アリシア達エルフグループとコロのようなドワーフ、獣人も教会と仲が悪い訳ではないが、教会が崇めるのが駄女神なのに対し、それぞれに違う神を崇拝しているので関係はあまり良くない。
女神同士は至って良好な関係なのだが、例えるならアイドルグループのメンバー同士は仲が良いのに、外野のファンが対立してる感じだ。
とても迷惑である。
ちなみにこれは教会側が割と一方的に対立してるらしい。
そしてエレオノ、クー、サキュバス部隊ははっきり教会から敵認定されてるような存在なので会わないに越したことはない。
最後にアクアだが、治療の練習をしまくっているせいで巷では聖女呼びされているので、本物の聖女に会わせるなんてトラブルにしかならないだろう。
そう言った意味でもアイギスの対応は正しいし、ありがたい。
部屋の前にはこの国の騎士と、聖女が連れて来たのであろう教会騎士がお互いにいがみ合ってる。
なかなかの修羅場。
多分私が来なかった事に苛立っていたのだろう。
知らんけど、アポ無し訪問の方が悪い。
さてさて、どうなる事やら。
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