ワンチャン行ける気もしてきた
「良かった。ようやく戻って……来た……わ……ね?」
段々としりすぼみになるアイギスの声。
その視線は今現在も私へと向いている。
それはそうだろう。
なにせ帰って来た───いや、澪と瑠璃により連行された現在の私は、ロープでぐるぐる巻きの簀巻き状態、しかも口には猿轡を嵌められ喋れないようにされた状態で引き摺られて帰ってきたのだから。
「むーむー!」
「スゥ〜……ハァ〜……」
そんな私の様子を確認したアイギスが、天を仰ぎ腰に手を当てながら、大きなため息を吐き、眉間に手を当て揉みながら押し黙る。
よし良いぞ! このどう考えてもおかしな惨状にちゃんとツッコミを入れるんだ! そして私を早く解放してください。
多分逃げないから。大丈夫だと思うから!
「良し……皆良く戻ってきてくれたわ。緊急事態なの!」
「ムグゥ〜!」
この野郎、見なかった事にしやがった!?
貴様それでも一国の王女か! 違和感と変な行動にはちゃんと対処しろよ!?
「うるさい」
「ミギュ!?」
抗議の唸り声を上げてたら澪に踏み潰された。
苦しい。
「それでどうしたんですか?」
どうやら皆してこのまま進めるようだ。
ド畜生共め。
「それがね。私もいきなりの事で驚いたんだけど───」
「アイギス様! 先程の知らせは本人で……すか?」
アイギスが話そうとしたタイミングで、フロストが結衣ちゃん共に息を切らして駆け込んで来た。
今にも食って掛かりそうないきおいだったフロストだが、私の現状を見て驚愕のあまり逆に冷静になったようだ。
「あの……なんで先輩はそんな事に? さっきまでは普通でしたよね?」
おお、流石結衣ちゃん。ちゃんとこの状況にツッコミ入れてきたぞ。
「逃げようとしたから捕まえてある」
「……なるほどそうなんですね」
おかしいと思おうか!?
なんで? なんでそれで納得しちゃったの!?
「でもさすがには会話出来ないし、口のだけでも外してあげた方がいいんじゃないですか?」
うう、せめてもの優しさがなんか辛い。
「……チッ、まあいいか。逃げるなよ? 逃げた所で次は凍らせるからな」
こやつ、私の事をなんだと思ってるんだ?
そもそも縄解くんじゃなくて、猿轡外すだけなんだから逃げられんて。
「ハーちゃんは口だけ自由にしても逃げそうだからしょうがないですよ」
「流石に口を自由にするだけじゃいくら白亜さんでも逃げられないでしょ……多分」
本人にお前ら私をなんだと思っているの? そして千早は最後の多分は余計だからね?
「はぁ、やっと喋れる。さあ、ついでに縄も解こうぜ」
「するか馬鹿」
チッ、ダメか。
「よいしょっと、それで結衣ちゃん達が帰ってきたのも私達が呼ばれたのと関係があるんだろ?」
「その通りだけど……器用に座るわね」
「……簀巻きには慣れているので」
しょうがないから簀巻きのままで座り直して話を続けると、それを見たアイギスからしれっとツッコミをいただいてしまった。
いや、自分で言うのもなんだけども簀巻き慣れるってなんぞ?
「まあいいわ。それでなんだけど……実はね。ハクアにお客様が来ているのよ?」
「猛烈に嫌な予感しかしないんだが?」
「奇遇だな。私もそんな気がしてきた」
「そうですね。面倒事のパターンに入りましたね。多分」
「なんで貴女達三人が揃うとこうなのかしらね?」
おいコラ私を巻き込むなよ。
「それでこの馬鹿を尋ねてきた客とは誰だ?」
あっ、待って心の準備したいから後10年くらい待って!?
「それがね。聖国から聖女様方がいらしたのよ」
うーん。聖女かぁ。
最近のファンタジーの、ちょっと聖職者としてどうかと思う感じの衣装の聖女なら歓迎だけど、ガチ目の聖女様達とか少し面倒くさそうな気がする。
「てっ、ちょっと待て」
「どうしたんですかハーちゃん?」
「聖女様方ってどういう事?」
「聖女の一団って事だろ?」
「違うわ」
「「「えっ?」」」
「ハクア。貴女を訪ねて三人の聖女様がいらしたのよ」
やっぱり。
「そんな……馬鹿な……」
聖女と言えば教会内部でもかなり特異な立ち位置に属する。
そんな人間が三人もこの国に集まり、あまつさえその全員が私とのコンタクトを望んでいる。
その事実にフロストが頭を抱えてしまった。
これは私のせいじゃないんだよ?
「一つ聞きたいんだが、聖女って一人じゃなかったの?」
私の質問に地球組は同じ疑問を抱いていたようで頷き、異世界組がそこからかと言うような顔をする。
「いえ、違います。教会には教皇様を筆頭に枢機卿、大司教、司教、司祭、一般使徒が居ます」
これはこっちの教会と変わらないみたいだな。
「私のような教会騎士は司教と司祭の間程度の影響力があります」
「なるほど、地方や小さな教会程度なら従えられるけど、ある程度上の役職には及ばないって所か」
「ええ、だいたいそんな感じですね。その中で聖女様は大司教様と同等程度の影響力があり、政治的な発言力を持っています」
……思ったよりも聖女の格が高いな。
私の予想では司教と同程度くらいだと思ったが、どうやらこの世界の聖女は中々に力があるようだ。
ちなみに聖女にも見習いがいてこちらは司祭と同程度の影響力があるが、こちらは政治的な発言力はほぼないらしい。
そして聖女の上には大聖女が居て、こちらは枢機卿レベルの権力を持っているそうだ。
「聖女様は見習いを卒業すると資格を得て、中央に招集され、そこから各地へと赴き民や信徒を導いていきます」
「要するに教会の広告塔として布教活動に駆り出されると」
「……身も蓋もない言い方をすればそれに近しいものはあります」
とても不服そうな顔をされたが概ねあってるらしい。
まあ、魔法が使えるこの世界では、モンスターに対する特攻効果が高い聖女は戦力としても、人々を癒す役目でも使い道はある。
だからこそここまで地位が確立されているのだろう。
「で、結局聖女ってのは何人居るの?」
「大聖女様がお一人、聖女様が今は確か十人、見習い聖女は百人ほど居たと記憶しています」
「思った以上にポコポコ居るな」
「ハクアさん。言い方、言い方!」
「まあ、気持ちは分かるがな」
「そうですね。聖女さんって一人だと思ってましたからね」
まあ、特別な役職と言うよりも力があれば認められるって感じか。
勇者と似たような感じか。
「でもなんでいきなり聖女さんがハーちゃんを訪ねて来たんでしょう?」
「やらかしすぎて討伐対象にされたか?」
「モンスター特攻持ちに狙われるとか勘弁なのだが?」
「見た感じ敵意は薄そうだったわよ?」
ならいいけど。
「それよりも、聖女様がいらしているなら、こんな所でいつまでも喋っていないで早く出向くべきです」
「逆だボケ。どんな用事で来たかも分からないんだから、対策をある程度建てるのが先だ」
「んー。確かにそうですけど流石に予想外でしたからなんとも言えないですよね?」
「そうだな。結局当たって砕けるしかなさそうだろ」
「それで砕けるの私なのだが?」
「むしろそれが一番安心要素な気もするけど 」
「どういう意味でい!?」
「ハクアさんなら殺しても死ななそうだし」
「私だって心臓貫かれれば死ぬんだぞ!」
……いや、いま私の核は魔石だからそうとも限らない? すぐに回復すればワンチャン行ける気もしてきたけど、今はそうじゃなくて私も死ぬ時は死ぬという話だ。
「あっ、それならイの七番ちゃんに聞いてみるのどうです?」
「ちょっと待って瑠璃。イの七番ってなにそれ?」
「あの……普通に私の事コードで呼ぶの止めて貰えます? 一応イーナで通してるんで、と言うか、もしかしてもしかしなくてもハクアさん以外にもバレてたんですか!?」
「あっ、ごめんなさいイーナちゃん」
「っ!? この子、ハクアがよく行ってる店の子よね? なんでというかどこから?」
「あれ? もうばらす感じになってる? せっかく契約したばっかなのに」
「聖女様からお呼ばれしたらしょうがないですよねぇ。あははは」
「えっ、この子そういう……うっ、胃が……」
こうしてアイギスの胃にダメージを与えつつイーナも合流してきた。
これ、本格的に嫌な流れになりそうだな。
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