説得ね説得
「うし。こんなもんかね」
全員の要望や仕事を確認しながら出来上がったシフトを全員に見せる。
しかしマト達初期組以外の面々の表情が何故か芳しくない。
「あれ、なんか駄目だった?」
我ながらまあまあ良い出来だと思うのだが?
「い、いえ文句はないんですが……その、むしろ文句がなさすぎると言うか……」
「ん?」
言いずらそうなセロの言葉に新入社員組が曖昧に同意する。
「その……本当にこれで良いんですか?」
「……ハッ!? もっと休み欲しいとか?」
「違います! 逆ですよ逆!?」
「逆とは?」
「だってこの商会、お給金は他よりも高いし、仕事の時間も少ない、それに週休二日で有休なんてものもあって、他にも産休や仕事ができない時の保証まであるじゃないですか!?」
いや、そんな事言われてもなぁ……。
給料はぶっちゃけ、新人なのでこれでも抑えめだし、仕事の時間だって八時間労働で普通。
週休二日も私が譲りたくないし、産休とかだって女の人ならあって当然の制度だ。
それに仕事が出来ない時の保証だって、毎月給料の一部から天引きする事で貯蓄するシステムになってるから、その辺も相当長い間休まれでもしない限り十分回収出来る範囲だ。
というか、ぶっちゃけ福利厚生の一部だから回収出来なかったとしてもなんの問題もない。
それを素直に伝えると信じられないという顔をされる。
「これだけのお給金と保証を貰えるならもっと働かせても良いくらいですよ。それに学校まで通わせてくれるんですから、私達が貰いすぎです」
セロの主張に全員が頷いている。
マト達もなんか自分達も通った道だなみたいな、生暖かい目で皆を見守っている。
いや、少しはこっちの加勢しろよ。
「私の商会は全部このやり方で統一してるからその辺の文句は受け付けない。むしろちゃんと働かなかったら容赦なく追い出す位の事はするよ」
「いえ、むしろここまでの高待遇でそんな事する奴は、私達が追い出します」
いや、それもどうかと思うのですが。
「もっと私達を使ってもいいんですよ? こんなに条件がいいんだから、せめて就業時間を増やしても文句は誰も言いませんよ」
うちブラックは認めてないんよ。
「正当な仕事には正当な評価と支払いを。これが私のモットーだからその辺は譲るつもりはないよ。それでもまだそんな事言うなら、その分は一生懸命働いて返してくれれば良いよ」
「ハクアさん……」
何故だろうか?
ごくごく当たり前の事しか言ってないのに、何故か尊敬のような眼差しを向けるれてるのだが?
狙ってない所でこんな反応をされても困るのですが。
『シルフィン:この世界では貴女の世界ほど福利厚生なんてものはしっかりしてませんから、この反応も当然です』
ほうほうなるほど……って、すげー久しぶりだな。おい!?
『シルフィン:そうですね』
あんまり応答なかったからもう滅んだのかと思ったよ。
『シルフィン:貴女なんて事言うんですか!?』
他の皆は?
『シルフィン:観てはいるようですが、コメントする暇はないようです』
最近……お前らスパチャ投げても良いような気がしてきたんだが?
『シルフィンさんが退場しました』
このクソ駄女神が!?
「ハクアさんどうしたんですか?」
「いや、なんでもない。まあ、とりあえずさっきも言ったけど、私の作る商会ではこれがスタンダードで、他の商会の事は知らんから慣れてくれ」
「慣れると言うよりは……もうハクアさんの所以外で働ける気がしなくなってます。私一応ギルドからの出向だから、帰らないと行けないんですよ」
なんかそんな恨みが増しい目で見られても私も困るのですが?
「ハクア社長。私はこの会社に骨を埋めるつもりで頑張ります」
「じ、自分も!」
「わたし……も……」
「狡い!?」
「くっ、羨ましい」
ピーマの重すぎる宣言に何故か素早く同意するパプリとバレイ。
そしてその宣言を聞いたキュリーとセロがとても悔しそうに歯噛みする。
「まあ、さっきも言ったけど、二人はこのまま働きたいな言ってくれればそうなるように調整するよ」
キュリーなら冒険者を辞めずに、ギルド依頼という形で依頼を出して、受けてもらう事も出来るし、そのまま働いて貰っても構わない。
セロに関しても同じ。
なんだったら既にエグゼリアから打診があった段階で、そういう事も高い確率であるかもしれないという話は聞いている。
そしてその時は受け入れてやって欲しいとも言われ、私とエグゼリアの中で既にその件は話が通っている。
「と、言うわけで、誰がどういう道を選んでもちゃんとサポート出来るから安心して良いよ」
「本当に至れり尽くせりですね……」
「じ、自分、この商会に拾って貰えて本当に嬉しいです」
「わたし……も、頑張り……ます。沢山……仕事……覚えて……役にたち……ます」
「どういう形になるかは分かりませんが、誠心誠意頑張らせて貰います」
「私ももちろん頑張ります」
うむ。うちの社員は皆やる気があって大変よろしい。
「ちなみにだけどほかってどんな感じの雇用形態なの?」
さっき駄女神が言っていたように、この世界には福利厚生なんてものはほとんどない事は知っている。
私は大体の利益計算から、社員の人数が増えてもいいように余裕を持って計算したんだが、それでもこの反応なので少し気になる。
「あ〜、えっとですね」
ちょっと言いにくそうにスーナが大体の平均的な賃金や、雇用形態を教えてくれる。
「───と、言う感じですかね」
「なるほどね〜」
うん。こりゃ驚くわ……。
入ったばかりの新人の雇用形態は思った以上に酷い。
賃金はここの四分の一でも高い方、オマケに休みはなくて、一日の平均的な労働は十二時間~となっている。
オマケに女の人は妊娠したりしたら、そのまま店は辞めさせられ、年齢を理由に切られる事も多いそう。
しかも悪いところに勤めると、身体を求められるなんて事もあるらしい。
特に田舎などから出て来た若い娘は、帰るに帰れなくて、奴隷のような扱いを受ける事も少なくない。
うーん……ブラックゥ〜。
酷いな。
ちゃんとした所でもこれぐらいが普通で、下には下が山ほどいるとか本当に劣悪だ。
「ギルドの受付嬢はそんな中でもいい方なんですよ」
「そうみたいだね」
賃金で言えば二分の一ほど、残業は多いがその分支払いもちゃんとしてるし、冒険者をサポートすればボーナスもある。
休みはここほどではないがあるし、ちょっとした福利厚生はあるのだとか。
しかしその代わりに識字率が低いこの世界で、文字の読み書きが出来る事、定期的な昇級試験で上に上がらずともある程度の点数を取ること。
更に荒っぽい冒険者の相手をしなければならないと苦労も多い。
「まあ、でも冒険者ギルドに関しては、最近改革があったのでここに近くなりましたよ」
「そうなの?」
「はい。ハクアさんの話を聞いて、エグゼリアさんがギルド長を脅───説得して、似たような体制と賃金にしたんです」
なるほど説得ね説得。
「まあ、固定の賃金は少し増えた程度ですけどね。職員を増員する事で休みの調整をしやすくしたんです。これも全部ハクアさんとエグゼリアさんのおかげって皆感謝してるんですよ」
うーむ。知らない所で株が上がってた。
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