やりおる
「……さて、それじゃあ私はそろそろ帰るわ」
「おっ、もうっすか? まだゆっくりしていけば良いのに」
「まだ行く所あんだよ」
「なるほど、なら引き止めらんないっすね。調査の方は任せてください」
「ん、頼んだ。でも無理すんなよ、危なくなったらそれ以上は深入りしなくて良いから」
「了解っす。とりあえず軽く調べて無理そうならその時点で報告に」
「うん。そんな感じでいいよ。絶対無理はすんなよ」
「わかりましたよ。それに俺達が他人の為に命張るように見えます?」
「……よし。帰る」
「「「返事は!?」」」
なにか騒いでいるがとりあえず心配はなくなったので次に行く。
裏路地から出るまでに何度か絡まれ、お小遣いを貰いながら次に目指すのは土魔法建設の事務所だ。
最近行けてないが、噂だけはかなり聞こえてきているので大分順調なようだ。
「あっ、ハクアさん」
「おっ、スーナじゃん」
角を曲がれば事務所まであとちょっとという所でスーナに出会う。
「今からどっか行くの?」
「いえ、丁度仕事から帰ってきた所です。ハクアさんは事務所に来てくれるんですか?」
「うん。そのつもり。スーナ以外は皆事務所?」
「ええ、もう皆帰って来てるはずです。でも丁度良かったですよ」
「何が?」
「ハクアさんに会いたいと思っていたので」
「そうなん?」
「はい」
あれ?
話している内に事務所に辿り着いたが、気の所為でなければちょっと拡張された気がするのだが?
疑問に思って立ち止まりながら首を傾げていると、そんな私を少し笑いながらスーナは先に事務所へと入っていった。
私もその後を追い掛けて事務所に入ると、やはり外だけでなく中も大分様変わりしている。
前は入ると簡単な作業机が人数分置いてあって、その奥が居住スペースになっていた。
だが、入ってすぐの事務所スペースはより作業に適した形に変わり、資料や契約書を置くスペースも増え、その奥にも相談スペースのようなものが作られている。
そして何より変わったのが───。
「ハクアさん。紹介しますね。彼女達五人が新しくウチに入った新入社員です」
と、紹介されたのは知らない間に入った新入社員だった。
そう言えば少し前に、そろそろ人員を募集したいって相談受けてたっけ?
それにギルドの方からも土魔法の普及って名目で、何人か受け入れるって話になってたはず。
「初めましてハクア社長。私は事務として入社しましたピーマと申します」
濃い緑髪を後ろで一つ結びにした知的な眼鏡美人は、お手本のようなお辞儀をしつつ自己紹介する。
社長とか……電車で各地を巡るゲームでしか言われたことないのに異世界で言われるようになるとは。
でも、確かにあんまり関わってないけど、作ったのも給料も出してるの私だから間違いじゃないんだよな。
問題は本人にその自覚がまったくなかっただけという……。
「同じく事務としてこちらで働かせて頂いております。セロと申します。お話した事はありませんがハクアさんの事はギルドでお見掛けした事が何度かあります」
「ああ、確か受付嬢さんだよね?」
「知っていたんですか!?」
「うん。そっかギルドからの派遣はセロさんなんだ」
「はい。私のことはセロと呼び捨てで構いませんよハクアさん」
「うん。わかった。ここでの事はギルドにも有用な知識になると思うから、わかんないことがあったら遠慮なく質問して」
「ありがとうございます」
流石受付嬢さん……やりおる。
対応から所作まで洗練されている。
これなら皆、客の対処は大分楽になるだろう。
「は、初めまして、じ、自分は作業員として入りました。パプリです。よろしくお願いします!」
所々噛みながらつぎに自己紹介したのは、赤やら黄色やら緑やらで髪の色が中々派手な少女。
年頃は私と同じか少し上くらいだろうか。
「バレイ……作業員……です。よろしく……お願いします」
薄い茶髪の物静かな小さな少女は、多くは語らずぺこりとアタマを下げる。
どうやらドワーフのようだ。
「作業員として一時入社したキュリーです。一時入社なんて受け入れてくれてありがとうございます。精一杯頑張りますのでよろしくお願いします」
「うん、よろしく。ここで一通り学んだら、それを皆に教えてくれると助かるよ。そんな意味でも期待してるし、もしもそのまま働きたいならそれでも構わないよ」
「はい。ありがとうございます!」
魔法使いの格好をしたキュリー。
これもギルドで頼まれていた、土属性魔法使いの地位向上を目指した活動の一環だ。
ここで建設方法などを学んで、それをギルドで更に教える。
そうする事で土魔法の有用性を知らしめ、ほかの属性との格差をなくすのが目的だ。
「よし、皆よろしく。マト達は先輩としてちゃんと指導とかしてあげてね」
「もちろんやってますよ!」
「いや、貴女は感覚的な言い方ばっかりだから分かりにくでしょ」
「マト以外はちゃんとやってますので安心してください」
私の言葉に真っ先に反応したマトだったが、スーナとパッセから総ツッコミを受け沈黙してしまった。
「ピーマとセロさんは事務関係やってるんだよね? 何か分からない所や聞きたい事ある?」
「あっ、それなら聞きたい事が───」
今まで書類はスーナやパッセがやっていてくれたが、細い部分は私が来た時に纏めてやっていたので、二人はけっこう苦労したようだ。
複式簿記等の帳簿の付け方に、細かな部分などを含めた一通りの事務のやり方を教え込む。
そうして教えていたがやはり二人とも物分りが良い。
特にセロは受付嬢としての経験から数字にもかなり強い。
ピーマも独学としてはかなり出来る方だが、その辺は少し差が出来るようだ。
ふむ……。
「ねえ、ピーマ」
「はい、なんでしょうか?」
「良かったらピーマも学校通ってみる?」
「えっ!? それは興味もありますし、通えるなら通ってみたいですが、あの……大丈夫なんですか?」
「うん。そうだな。まずは週に三回、午前中だけ通う感じでやってみようか? これは仕事に必要なもんだから学費はタダで良いよ。セロやほかの皆も興味あるなら同じように通ってみる?」
私の言葉にマト以外の全員がザワリとする。
マトだけはしっかり顔を逸らした。
「私はギルドに帰る予定なのに良いんですか?」
「別に構わないよ。むしろギルド帰ったら勧めてくれると嬉しいかな」
「それなら行ってみたいですね」
「わ、私も、そ、それなら受けてみたい授業あります」
「私も……」
「あの、私もですか?」
「もちろんキュリーもだよ。戦闘訓練も受けられるから、仕事がない日は行ってみると良い。それに薬草や計算なんかの勉強も冒険者として役に立つしね」
「あ、ありがとうございます」
意外と皆、勉強に意欲的なんだよなこの世界。
まあ、地球と違って学ぶ機会なんてほとんどないし、それだけ貴重だってわかってるからなんだろうけど。
「じゃあ、わりと皆意欲的だから、今受けてる依頼とかと相談しながらシフト決めて、通える日を考えようか?」
「「「はい!」」」
こうして私達は全員でシフト決めを行った。
新キャラではありますが、あんまり出てこないキャラなので名前を覚える必要はなしです!
因みにマト達と同じく
ピーマ→ピーマン
セロ→セロリ
パプリ→パプリカ
バレイ→馬鈴薯
キュリー→キューリ
となってます
読んで頂きありがとうございます。
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