二重スパイ
冒険者ギルドを後にした私は続いての場所へ。
こう見えて私も結構忙しいのだ。
と、言うわけでやって来たのは私行き付けの飲食店。
昼食を食べに来た序でに馴染みにも会いに来たのだ。
「やほ、イーナ空いてる?」
「あっ、お久しぶりですハクアちゃん。こっち空いてますよ、店長ーハクアちゃん来ましたよー!」
「おお、ハクアさんお久しぶりです。最近来ませんでしたけどどこか行っていんですか?」
「うん。ちょっとした空の旅から秘境に行ってなんやかんやして来た」
「そうですか。よくわからないですけど今料理用意しますね。いつもので良いですか?」
「うん。ヨロー。イーナも昼休みまだなら一緒に食う? 奢るけど」
「本当ですか!? 店長ー私も同じのでー!」
「ハハッ、了解」
「あっ、そだそだ店長。ちょっち話あるから暇な時来れる?」
「ん? 了解。もう少ししたら落ち着くから、食べ終わる頃には大丈夫だよ」
「んじゃあ。それで」
料理が来るまでの間、イーナとは世間話をしつつ、最近のこの国の動向を含めた周辺各国状況を聞く。
情報を欲しがる角度からだいたい聖国のスパイとわかったが、やはりスパイだけあって痒い所に手が届く絶妙な情報を持っている。
勿論それを素直に出す訳ではないが、こっちの情報を適度に渡しつつ話すと、向こうもこちらの欲しい情報を提供してくれる。
お互いにお互いの求めるものがわかってる会話は楽でいい。
情報収集していると、いつの間にか時間が経っていたのか料理がどんどん運ばれて来る。
久しぶりのガドゥルゥのステーキはやはり美味い。
この店の看板メニューなだけはある。
他にもコッコウという鳥型の魔物の唐揚げに、デュームという蛇型の魔物のスープ、オークの串焼きのタレも中々に良い味を出して来た。
タレは教えた最初こそ少し物足りなかったが、継ぎ足し製法のおかげでだいぶコクが出てきて旨みが増して来ている。
元々はチェーン店だったが、私が出資した事で名物のステーキ以外は本店とは違う路線に行き、今ではのれん分けした姉妹店といった感じだ。
ぶっちゃけ店長とイーナと私の三人で、メニューを増やしまくっているのでそんな感じになってしまった。
「さて、お待たせハクアさん。用事ってなにかな? ま、まさかハクアさんが撤退するとかじゃないよね?」
「いや、せっかくここまで育てた店を手放す気ないって」
店長である犬の獣人のマロンは、少し頼りない感じだが、人当たりもよく女性客からも結構評判のいい男性だ。
孤児院組を含めた獣人達の受け入れにも積極的に参加してくれていて、ここにも行き場を失った獣人達をかなりの数雇い入れてくれている。
「じゃあなんの用なんですか? ハクアちゃん」
「うむ。実はこの店の認知度も結構上がってきたから、新展開にしようかと思ってね。その相談」
「「新展開?」」
「そっ、と、その前に防音結界を作って……うむ。OK。という訳でコレ」
「これって!? ハクアちゃんがくれるお菓子のレシピ!?」
「これをこの店で出すのかい!?」
「そういう事」
実は前々から考えていた事なのだが、忙しくて後回しにしていた案件でもある。
なのにどうして急に今回そんな事をしたかと言えば、先ほどの冒険者ギルドでのエグゼリアとの話だ。
私が居なくなったせいで、甘味中毒者共が仕事が手につかなくなってしまった。
今後似たような事は起きるだろうし、なんなら依頼で数ヶ月居ないなんて事もあるかもしれない。
その度にそんな事になっては流石にエグゼリアに申し訳ないので、甘味中毒者の受け入れ先を作ろうと言うのが今回の骨子だ。
私とてほんの少しだけ悪いとは思っているのですよ。
いやまじで。
「なるほど……つまりハクアちゃんが生み出した甘味モンスターをこっちに誘導するわけですね。そしてここの売上もガッポリと」
「そう。まいた種を収穫する時が来たのだよ」
「そうだね。聞いた限りじゃもう立派な甘味モンスターに仕上がってるし、ここでそんなものを売りに出したら、多少高くても……」
「そう……」
「「ガッポリ!」」
二人で顔を突き合わせてニヤリと嗤う。
「二人とも悪い顔してるよ」
「おっといかんいかん」
「これはこれは、看板娘にあるまじき顔でしたね。とはいえタイミング的には良いと思いますけど、店長はどうです?」
「そうだな。材料なんかはもう確保出来てるの?」
「ああ、さっき連絡したから、アリスベルからの定期輸送は決定してる。むしろ向こうでも同時に私の作った店をオープンする予定だから、在庫は買い占めてある」
「そうか。それなら僕はOKだよ。ハクアさんの作るお菓子はどれも美味しくて、興味があったからね」
「交渉成立。それじゃあ頼んだぜ」
「こちらこそだよ。っと、それじゃあ僕はそろそろ戻るね」
「引き止めて悪かったな。ここはそのまま出られるから大丈夫だよ」
店長が一瞬私の作った防音結界の前で立ち止まったので教えると、一つ頷いてそのまま出ていった。
「さてじゃあそろそろ私も」
「あっ、その前にイーナ」
「なんですかハクアちゃん」
「そろそろ二重スパイやんね? こっちも出せる情報出すから、聖国側のももうちょっと欲しいんだよね」
何気なく言ったらイーナが呑んでいた紅茶を勢いよく吹き出した。
しかし私はある程度予想していたので結界で見事にガードした。
「ちょっ!? ハクアちゃんお互いある程度わかってるんだろうなぁーって、感じだったけどそれ言っちゃうの!?」
「うん。なんか面倒になってきちゃった」
「可愛く言ってもダメだよ!? もうちょっとやる気出そうよ。私だって名乗る時はもうちょっとドラマチックにやりたかったんだけど!?」
せやな。それは私も思うけど、やっぱり面倒なんだよ。
「うん。まあ、私も考えたけどさ、腹の探り合い面倒じゃね?」
「確かに面倒だけどそれも情報戦の醍醐味って言うか───うー、もういいや。それで何が知りたいの?」
「おっ、流石切り替え早いね。とりあえずこっちからは、そっちが警戒してる特記戦力関連あげるから、そっちは誰の指揮系統で動いてるかと、有名どころの情報ちょーだい」
特記戦力、言ってしまえばこれは私の仲間の情報だ。
イーナならすでにフープの軍事情報は抜いてると思うので、提供するのはその辺が妥当なはず。
「……それって、すでに私が軍部の調査は終えてるってわかってるってことだよね? もー、私これでも結構優秀なんだけど〜、自信無くしそう」
「大丈夫大丈夫。ただの勘と推測だから」
これで軍部情報漏れてるのも確定と。
「はぁ〜敵わないなぁ。それじゃあまずはそっちの情報から貰っても良い? 一応ハクアちゃんならわかってると思うけど、嘘ついたら分かるからね?」
「OK」
この辺の事は予め皆にも話してあるので、言える範囲で話す。
私が知る皆の戦闘能力、攻撃方法、使える魔法などが主な情報だ。
この情報は私が抜ける前のだから最新ではないんだけどね。
その為に皆と話すよりも先に外回りをする事にしたんだし。
嘘はついてない。あくまで私が知ってる最新情報なだけである。
「ふんふん。まあ、最新情報じゃないけどいっか」
もちろんそれはイーナにもわかってる。
それでも納得してるのは、向こうも私に知られたらイケナイ情報まではよこさないからだ。
お互い明かさない部分は明かさず。
これは前と変わっていないが、探り合いではないので格段に話がスムーズになる。
こうして私はどっちつかずの二重スパイを手に入れたのだった。
ちなみにイーナにもマリトッツォをあげたらすごく喜んでいた。
ここにも一人自覚のない甘味モンスターがいたようだ。
読んで頂きありがとうございます。
ハクアの事を応援しても良いよって方は評価、感想、レビューとかどれでもしてくれると嬉しいです!
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Xも新設してこちらにて活動していく予定らしいです。
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